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第7話「またね。」

 あの後、一旦昼食をとるために家に戻り、また此処に集合した。

「カズ、ちょっとこっちに来てほしい」

 俺に手招きをする。

「えぇ?何」

 サトは俺を引っ張って何処かに連れて行こうとする。

「ちょっと来てっカズに見せたいものがあるんだ」

 楽しそうなサトの姿を見ると、俺までもが楽しくなる。

「うっうん。わかった」

 俺はサトに腕を引かれて歩いて行った。だんだん緑が濃くなる森の中を歩く。

 クマとかでてきそうで怖い。恐る恐るそのことを訊いてみることにした。

「クマとかでてこないよね?」

「出るよ」

 サトは平然と答えた。

「えぇーーーーーーーーー!!」

うるさいっ」

「イタッ」

 大声を出した俺の頭をこつんと叩いた。手加減してくれたのか、口で言ったほどあまり痛くない。

 30分歩いただろうか?まだまだサトのいう場所には到着しない。

「サト、一体どこに行くの?」

「行ってのお楽しみ」

 そんなに楽しい場所なのか?サトの喜んでいる姿を見ているとそうだと思うのだが……。

 それから10分歩く。

 そこには……。

「うわぁ……綺麗……」

 目の前に広がるのクローバー。一面クローバーだらけのクローバー畑。

「ここは俺の一番好きな場所なんだ」

「えぇ?」

「この場所が一番落ち着くんだ」

 確かにそうかもしれない。ここは俺とサトしかいない二人だけの緑の世界みたいだ。

 ……何か今、ものすごく恥ずかしいこと考えた?

 その考えを捨てようとして首を振る。

「何?」

 俺の不審な行動を見て、サトは怪訝な目を向ける。

「ううんっ。ちょっと疲れたなぁ……と思って」

「そう……」

 数時間しかいないのにもう仲良くなった俺達。ここの人達とは、なぜか早く仲良くなれる。

 それはもしかして、ここの空気が関係しているかもしれない。綺麗で澄んでいて……気持ちを穏やかにさせてくれる気がする。俺は大きく深呼吸した。

「綺麗な空気。都会とは全然違う……」

 そう言うと、ふとサトは俺の目を覗き込んだ。

「カズが住んでいたところってどんなところ?」

「えぇ?」

 サトは悲しそうに笑う。

「俺、此処から出たことがないから、周りがどうなっているのか分からないんだ」

 えぇ……それって……。

「此処からって、この山奥からってこと?」

「うん……」

 サトは下を向いた。

 それは、それはどんなに寂しいことだろうか。

 友達もいない。話す相手もいない。そんな生活、俺だったら耐えられないと思う。

 サトは俺が来る前までずっと独りでずっと……。

 そう思っただけで、俺までもが辛くなって……。

「俺、あと3日はこっちにいるからさぁっっ。一緒に遊ばない?」

 サトを誘ってみた。

 毎日遊んで、たくさんの思い出を作ろ?

 都会では毎日のように友達との思い出ができる、俺もそうだった。沢山の友達と遊んで、「また明日っ」て言って次の日も遊ぶ。

 でも、サトは友達との思い出を作ったことがないんだよな。

 またねって言うと、明日が楽しみになるこの気持ちもワクワクする気持ちもきっと知らない。

 それを俺はサトにも味あわせたい。

 あと2日しかないけど、何年分という大きなたくさんの思い出を作ろう。

「あっ暗くなってきた」

 山奥だから日が沈むのが早い。空を見上げると、うっすら夕焼け色に染まっていた。

「帰ろっか?」

 サトは躊躇いながらも頷いた。

 まだ帰りたくないのか、顔を少し膨らませている。

 そんなサトが可愛くて……。

「ほら、手。つなぐ?」

 手を差し出すと、平然とサトは手を握った。俺達はゆっくりと歩いてきた道を戻る。

「ねぇ?サトって年いくつ?」

 今頃っていったら今頃だが、サトの年を知らなかった。

「12。小学6年生」

「俺と同い年なんだ」

 他愛もない話をしながら、森の中を歩く。

 サトの手はとても大きくて、とても温かい。優しく手を繋いでいてくれるのが分かる。


 ───まるで恋人みたいだなぁ……。


 と一瞬でも考えてしまった自分が少し恥ずかしい。

 でも、優しく俺に接してくれるから、ついそんな雰囲気になってしまうのだ。

 サトはとても優しい性格。たまに意地悪するけど、その行動がなぜか新鮮で……楽しい。

 楽しい時間は速く感じるもの。いつの間にか着いていた。

「サト」

 つないでいた手を離そうとするが、サトはギュッと痛い位握りしめてくる。

「大丈夫だよ、さっき言ったじゃん。また明日も遊ぼうね?」

 寂しそうに手を離す。

「う……ん」

「またね。サトッ!!」

 手を振ると、ニコッと笑ってサトも言い返してくれた。

「またね。カズ」

 ぶんぶんと頑張って手を振るサトの姿がとても初々しい。

 俺達はずっと互いが見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。 

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