第6話「友達」
バサッッ!!
俺は飛び起きた。
「なんだ?あの夢?」
夢を見た。内容は何となくだが、覚えている。涙が出そうなぐらい胸が苦しくて……。
何だよこの痛み……。
俺は優しく胸を抑えつけた。突然、俺の胸も苦しくなった。
これは夢じゃなくて現実。
「カズ」
俺がそう叫んでいた。でもカズって……俺のことじゃないのか?
確か昨日、惺くんは俺のことをカズって呼んでいた。でも惺くんは俺のことを知っているはずがなくて……。
「もう訳わかんない」
朝起きたばかりの頭が、そんなに早く回転する筈もない。
とにかく今はご飯が先だ!!俺は急いで、台所に向かった。
朝食を食べた俺は、早速緑の世界に飛び込んだ。
惺くんを探しに行くために。
惺くんの家の地図を貰ったから、まずは惺君の家に行こうか。地図通りに進んでいくが、道らしい道がなく、ここがどこなのかがさっぱり分かりません……。
どうしましょう?さっそく迷子になった俺。
こうゆう時はイチかバチかで、大きな声を叫んでみようと思う。
誰かにこの声が届いて、きっと助けてくれる……と思ったが、やっぱり助けてくれないと思う。
どっちだよ!!
と突っ込みをしてもいいはずなのだが、他の人にはツッコミが鋭いのに、やっぱり自分への突っ込みが甘いらしい。
「本当にどうすっかな……」
頭を掻きながら考えている瞬間。
ザックザック
何やらお宝を掘っているような音がする。
スコップか分からないけど、中を掘っているのは間違いない!!
ゆっくりとそこに近づいてみると
「ギャーーーーーーーーーーーーーー」
「あぁっ」
このパターン前にもあった……様な気がする。
そこにはやはりというか、少年───惺くんがいた。
眼鏡をかけていて、片手に本を持っている。まさしく惺くん!!
「発見!!」
ついつい発見をしたので、惺くんに向かって指をさしてしまった。
「えぇ?」
「あぁ!」
「………」
気まずい雰囲気になって、俺達は口を閉じた。
何を話していいのか分からない。それは惺くんも同じなのだろう。
「えぇっと、体大丈夫?」
なんとなくそのことを話題にすると、惺くんは気まずそうに俺から視線を逸らす。
「大丈夫ならそれでいいんだけど……」
「………」
沈黙。俺の住んでいるところでは、みんなお喋りで静かな人があまりいなかったから、こうゆう人にどうゆう対応をしていいのか分からない。
「カズ……」
惺くんは呆然とその名前を呟いた。怖いけど昨日と同じ質問をした。
「カズって俺のことだよね?」
今度はキツク言い方にならないように、優しく問いかけた。
惺くんは、小さく頷く。
「なんで俺のことを知っているのか、聞かない方がいいのかな?」
その答えにも惺くんは頷く。理由は分からないけど、無理矢理聞くのもよくないだろうし……。
それに惺くんは子どもと話したことがないのだろう。
きっと惺くんは、同じぐらいの年のことにどう対応すればいいのか分からないだけだ。
今の俺と少しに似ている。そう思えば、惺くんと話しやすくなった。
「わかった、今はそれでもいいよ。今度言えるときがきたら言ってくれればいいから」
その言葉に、惺くんは優しく微笑んだ。とても嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、惺くんのことなんて呼べばいい?何か俺だけカズって言うのもな……」
惺くんは、ゆっくり考えてから俺の目を見て行った。
「カズが考えてくれ」
「えぇ?うん……そうだな……」
惺くんがあまりに真剣に考えてくれていたから、すごい呼び名がつくのかと思っていたらその答えだったから少し驚いた。
話慣れてないから、一生懸命考えてくれたのかな?勝手に思っただけだけど、とても嬉しい。
その勢いでとてもいい呼び名が浮かんだ。
「うんっとね……。『サト』って言うのはどうかな?おれが『カズ』なら惺くんは『サト』何かいい感じじゃん」
自己満足かなと心配したが、それは杞憂に過ぎなかった。
「俺は『サト』で和幸は『カズ』。分かった」
俺のちゃんとした名前も知っているんだ。
「よろしくね。サト」
「よろしく。カズ」
俺達は友情の証として、ギュッと握手した。
サトは意外に力が強く、手を離したときには俺の手が真っ赤になっていた。