第5話「遠い日の夢」
「ばーちゃんっっ、もうーいいよ。このままだと俺。史上初…史上初っ!漬物を食い過ぎて死んだ男になるからっっ。お願いだからやーめーてぇー」
漬物と奮闘中の俺。
漬物を今日一日で、何キロ食べたんだろうと思うぐらい本当にたくさん食べた。
「おばあちゃん。和幸が可哀想。せめてこれぐらいにしてあげないと」
と母さんは、俺の前に自分の漬物を、そして───
「和幸。はいっ、お父さんのもあげるよ。育ち盛りの子は食べないとな?」
お父さんまでもが俺の前に漬物を……。というか、このパターン前にもあったようなないような。
いい加減に切れてきた俺は、みんなに一喝っ。
「俺を漬物星人にするなっっ!!!」
どこかズレタ発言をした俺。すると三人は同時に口を開いた。
「いいじゃん面白いから」
うわぁっ、ハモった……。
母さんとばーちゃんだけでなく、お父さんまでもがSに……。
もうこればかりはしょうがないと俺は一人早く夕食を食べ終え、風呂に入った。
山奥の風呂ということで五右衛門風呂だった。初めて入ったので、ついつい入り過ぎてしまった。
お風呂を出た後、疲れたぁーっと、シングルベットに横たわる。
俺は今日一日のことを思い返す。
いろいろあったけど、今回ばーちゃんの家に来て分かったのは、俺はゼッテぇーここに住めない!!ということだ。
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
盛大な溜息をついた。
ばーちゃんも母さんも俺を苛めやがって……。
不意に窓に目を向けると、とてもキラキラと輝いたものが見えた。
「あぁ…星が見える」
一瞬にして怒った気持ちが無くなってしまった。
窓から見えたのは星。
都会ではなかなか見ることができない星。ここでは毎日見れるのか……。
そう思えば、ここに住めるかもと思える自分は、簡単な思考の持ち主なんだと分かる。
───惺くんもこの星を見ているのかな?
ふと彼のことを思い出す。
漬物騒動ですっかり忘れていた。
明日もあの辺に惺くんはいるだろうか?でも、今日具合悪そうだったからお見舞いにでも行こっか?
そう考えてみるとだんだん楽しくなってきた。
あの真相も知りたい!!そして惺くんのことも……っっ?!
俺は掛け布団を頭の上から、かぶった。なぜか、自分の顔が赤くなった気がしたから。
あれ、どうしたんだろう?惺くんのことを考えたら、急に体が暑くなってきた……。
今度は掛け布団を蹴り落とした。
なんか変だ俺……。
このドキドキする正体が分からないまま、俺は眠りについた。
1日目終了。
* * *
ここはどこだろうか……。
目を開けた瞬間、俺は緑が沢山ある草むらの中にいた。
そこにもう一人、男の子の姿がある。
『カズ……』
俺は彼に向って「カズ」と呼んだ。
分からない……。なんでそう叫んだのか、俺自身分からない……。
『カズ』
名前らしきものを呼んでいる俺だが、それが誰なのか分からない。彼は後ろを向いていて、俺の方へ振り向こうとしない。
『カズッ』
どんどん彼は先に進んでしまう。どこへ行くんだろうかと、俺はだんだん不安になってきた。
なんだろう?この気持ち。なんだろう?この怖さ。
そして────
なんだろう?この涙が出そうなぐらいの胸の痛み……。
とてつもなく大きな感情が、俺を支配する。
『苦しい……』
彼はどんどん森の中を進んでいくのに、俺は胸が苦しくて前に進むことができない。
『行かないでぇ……』
俺は彼に手を伸ばすが、俺を置いて行ってしまう。
待って、待ってっ待ってっっ!!
そう叫ぶが、彼は止まってくれない。
『俺も連れて行って……カズ!!』