第4話「俺と少年」
「大丈夫?」
背中と頭を優しく撫でていると、惺くんの嗚咽がだんだん止まってきた。
「うん……大丈夫」
頭を押さえながら、惺くんは俺の方を向いた。
「頭痛い?」
「ちょっとだけ……」
苦しそうに顔を顰める。
このままだと惺くん一人で帰れないよね……?
そこで俺が考えたのは、
「惺くんの家に送って行く」
だって、ほっとけない。惺くん苦しそうだし……。どう見ても大丈夫そうじゃない。
だが、惺くんは大丈夫だと俺の申し出を断る。
「駄目だ。ほっとけないっっ」
惺くんの体を支えようとするが、拒否されてしまう。
それが、俺にとってとてもムカついた。
「そっそりゃー俺達、まだ会って間もないけどさ……。体、小さくて頼りないかもしれないけど、ね?」
でも今はムカついている場合じゃない。惺くんの顔色がだんだん悪くなっていくのが分かった。
ゆっくりと手を差し伸べるが、惺くんは俺の手をバシッと振り払う。
激しい拒絶。
そこまでする理由が俺にはよく分からない。
俺が首を傾げると、惺くんは俺の肩をガシッと掴んで、真剣な瞳で見つめてきた。
「それなら────てよぉっっ!!」
俺の肩を大きく揺さぶり、強い口調で惺くんは訴えてきた。
でもその言葉をしっかりと聞き取れなかった俺は、どう答えていいのか分からなかった。
ただ惺くんは辛そうな目で、俺のを見つめている。さっき見たいに泣きそうな潤んだ目で……。
───何分、そうしていただろうか?
惺くんは何かを諦めたかのように溜息をつき、俺の肩を掴んでいた手をゆっくりと離した。
「覚えてないんだ……?」
何を?と、問い返そうとする前に惺くんは俺の前から逃げてしまった。
追いかけようと思うのだが、草むらの中に逃げられたら、この辺の地域がない俺が探すのは困難だった。
* * *
「あらーお帰りー」
しょうがなくばーちゃんの家に戻ると、母さんが庭の花に水やりをしていた。
「ただいま」
「早いわね。まだ3時よ?」
母さんはからかうように、言葉を付け足した。
「もしかして、おやつの時間だから帰ってきたのかしら?」
どんだけ自分の息子を……。
それを考えるだけでムカついてきたので、ここはすべて溜息で流してしまうことにした。
「惺くんに会ったんだけど……、ちょっと…」
なんとも説明しにくい状況で帰ってきてしまったので詳しく説明できず、言葉を濁すことしかできなかった。
「そう…。まぁーあの子は不器用な子だからね…勝手に逃げっちゃったんでしょ?」
ちょっと違う気もするが、一応合ってるので頷いておいた。
───惺くんはなんで泣いたんだろう?
───覚えていないって何?
よく分からないことが沢山あり過ぎる。
「おやつの時間よー」
ばーちゃんは出窓から叫ぶ。
「分かった――」
返事すると、母さんは口をそっと、俺の耳元に近づける。
「おやつって言っても、漬けものよ?」
母さんが付け足したその言葉に、俺は苦笑いするしかなかった。
一日三話書いても終わらない気がする……(汗