第3話「少年とのであい」
とぼとぼ歩いて2.3分。周りは緑だらけで建物も、人の影すらなく。
俺、どこに行けばいいんだぁ?
今頃だが、そのことに気付いた。まぁ……この辺ぶらぶらしてれば会えるだろうと考えていた。
だが、ここで俺はとても重大なことに気付いた。五時までに帰ればいいって言ってたけど……。
俺、時計持ってないよ?
今の時間すらわからないっ。こうなったら早く惺くんを探さねば!!と思うのだが、
「はぁ……どこを探すっかなぁ……」
溜息交じりの声で呟いた瞬間。
ゴソゴソッッ
草の陰が、突然ゴソゴソっと揺れた。
………な、何かいるのか?
蛇?スネーク?
どっちも同じ生き物だよ。とパニクっている自分自身にはツッコミできず……。
もしかしてクマ?
もう、そんな考えしか浮かばない。とにかく近づいてみないと何か分からないと、俺は恐る恐る動く草の陰に近づいてみる。
一歩、二歩、三……
「ギャーーーーーーーーーーー」
俺は大きな奇声を上げた。
「あぁ」
そこには目をぱちくりさせている少年がいた。虫とか蛇とかクマとかならいると思ったが、まさかそこに人がいると思わなかった。
「あれ?惺くん?」
よく見れば、さっき会った惺くんだった。惺くんは、突然奇声を上げた俺に驚いたようだ。
「なっ、何してるの?」
草の中何かをしてる惺くんに、興味を持ったので聞いてみた。無愛想な彼は、一言で答える。
「クローバー探し」
「クローバー探しぃ?って、もしかして、四つ葉のクローバー?」
コクコクと顔を縦に振る。
無愛想な顔の割には、考え方は子供っぽいな……。もっと惺くんに興味がわいてきた。
「あっ惺くんは幸せになりたいの?」
「違う」
思いっきり睨めつけられた。
「じゃあなんで、クローバーを探しているの?」
一瞬詰まって惺くんはぼそりと呟く。
「本当の自由を探しているから」
「……本当の自由?」
どこが不自由なのか、俺には分からなかった。
惺くんはだって現に、一人クローバー探しをしている。これのどこが不自由なのか……。
好きなことをしているのに、これのどこがいったい不自由なのか、このときは俺にはさっぱり分からなかった。
惺くんは何かを見つけたらしく、俺の後ろを指差した。
「あっ、カズ。そこに蜘蛛がいる」
「えぇーーーーーー!!蜘蛛ぉ!?どこ?どこ!?」
俺は、蜘蛛が大の苦手だ。昔、小さい頃、俺の頭に母さんが蜘蛛をのせたことがきっかけだ。
蜘蛛という言葉を聞いて混乱している俺を見て、惺くんはうっすら笑った。
「嘘」
「……えぇ?」
情けな声を出した俺に、もう一度同じ言葉を強調して言ってくれた。
「嘘だって言ったんだ」
「えぇ!?嘘?」
「うん。嘘」
「………」
なんなんでしょうか。
この村の人たちは、みなさん……『S』なんですか?人をからかうのが好きな人種なんですか!!
そう問いたくなるほど、母さんもばーちゃんも、そして惺くんもサドっ気がある。
「カズは蜘蛛が苦手だね」
くすくすと笑いだした。
「えぇ?」
さっきも聞いたけど、惺くんが俺のことをカズって……。
「カズって俺のこと?」
そう問いかけると惺くんの顔から血の気が引いた。
「あぁ!」
惺くんは慌てて口を閉じた。しまったと顔をしている。
───どうして俺のの名前知っているんだろう?
素直な疑問。惺くんとは、初めて会ったのに……なんで?
「惺くん、俺のこと知ってるの?」
首をブルブル横に振る。
「じゃあなんで俺の名前知ってるの?あっ、もしかしてばーちゃんから聞いたとか?」
この質問にも惺くんは首を振る。
知らない知らないと、答えすべてを拒絶するように、首を振り続ける。
俺に少し怯えているのか、目が少し潤んでいる様に見える。
「じゃあなんで俺のこと知ってるの?」
「………」
口を開こうとしてくれない。俺の視線にいたたまれなくなったのか、下を向いてしまった。
「惺くん?」
「……っふぅ…っ」
「うん?」
顔を覗くと、惺くんはいつの間にか涙がこぼれていた。
「えぇ?ちょっちょっと惺くんどうしたのぉ!?」
俺が泣かせたのか?問い詰めすぎがよくなかったのか?
今日何度目か分からない混乱。
ただ、今は惺くんを落ちつかせることしか考えられなかった。泣きやんでほしいとしか考えられなかった。
「ごっごめん。悪いことしたなら謝るから……お願い泣かないで?」
惺くんの背中を優しく撫で、空いている手で頭を撫でた。
優しく、優しく。
───惺くんが泣きやんでくれますようにと祈りながら……。