第2話「自然」
「ばーちゃん。これすんげぇー美味いっっ」
今俺は、とても感動している。
「漬物がこんなに美味いと思ったの初めて!!」
その言葉がよほど嬉しかったのか、ばーちゃんはうっすら涙を浮かべている。
「そうかいそうかい。ばーちゃんは嬉しいよ……」
この短期間で、すっかりばーちゃんと仲良くなった。
「和幸。そう言ってられるのは今のうちよ。これを毎日出されてみなさい。絶対飽きるから」
母さんは呆れるように言う。多分、いや絶対、毎日この漬物を食べさせられたに違いない。そうすればいつかは飽きるかもしれないけど、今美味ければいい。
俺は母さんみたいに毎日食べるわけじゃないし……。
だが、それは甘い考えだったようだ。
「ほら、和ちゃん。これも漬けものだよ。どんどん食べて」
「……えぇ?」
唖然としている俺を見て、母さんほらいったっと笑っている。
山のように盛られた漬物。さすがこんなに食べられない。こんなに食べたら、塩分取り過ぎになるって……。
どうにかしてばーちゃんを止めようとするが、あの悪魔の笑みにはどうも勝てそうにない。
今はしょうがなく漬物を食べまくった。
「ほらガンバ!!和幸!!」
「お父さんも応援してるぞ!!」
と自分たちの漬けものまで俺に寄こしてくる。
自分のものは自分で食えよと言いたいが、口の中に次々と漬物が入るので言えない。
それから30分後───
「ばーちゃん……。さすがにもう食べられない…ギブアップ」
白旗を上げた俺を見て、ばーちゃんの一言。
「しょうがないね。あとこんだけだから頑張れ」
えぇ?まだあるの?
嫌だと言おうと思うのだが、やっぱりばーちゃんの笑みが怖くて言えなかった。
* * *
「はぁー食った食ったぁ……」
ご飯と漬物だけだけど、十分お腹いっぱいになった。
ばーちゃんの家には、テレビもないし、もちろんゲームもない。ここにいても暇だ。
腹ごなしに惺くんに会いに行ってみよっかな……。
ということで惺くんの家を訊いてみた。
「ねぇー惺くんの家ってどこ?」
「えぇ!?」
母さんもばーちゃんも、疲れていて寝ていた父さんも飛び起きた。
何かいけないことでも言ったかのように、みんな驚いていた。
「どっどうして?」
母さんの声が妙に引きつっている。
「惺くんって友達いないみたいだから、友達になりたいなぁ〜と思って……。えぇっと駄目?」
話しているうちにみんなの顔はだんだん険しくなっていくのを感じて、話している俺の声がだんだんと小さくなっていった。
「駄目じゃないよ。ただ驚いただけよ」
なぜか苦笑いされた。
「ちっ地図渡すわね。お隣って言ってもここから5分はかかるわよ?」
引き出しの中にある地図を探しながら母さんを言った。
「えぇ?そんなにかかるの?」
地図が必要なほど遠いんだな。
それじゃあ、お隣って言わないじゃん。と思うのだが、この親子にツッコミすると危険なのでしない。
母さんは大きな地図をテーブルに広げる。
「えっと、このへんがおばあちゃんの家で、惺くんの家は……このへん!!かなぁ?」
母さんは一生懸命教えてくれるのだが、全くと言って意味が分からない。
まず、この地図を出すところで間違っている。だってこの地図、「世界地図」だよ?
これじゃさっぱり分かりませんよ……。
二人の話を聞いていたばーちゃんが口を出す。
「美世子。惺くんは家にはいないよ。たぶんまだこの辺にいる思う。昨日もこの辺で何かしていたみたいだから」
「あら。そうなの?」
あからさまにガッカリした様子。母さんは方向音痴だから、地図の見方もきっと分からなかったのだろう。
「惺君は、自然が好きだからね」
「じゃあ、その辺歩いてくるっっ」
俺は玄関ではなく、大きな出窓から家を出た。
この家の庭は大きく走ると、とても気持ちいい。家の周りは木や花が永遠と続いている。寒い場所だから、まだ桜も咲いている。
まるで緑の世界の中にいるみたいだ。
「和幸ぃーーーー!!」
母さんが僕の名前を呼んだ。
「何ーーーーーーー?」
家から遠くまで来たので、母さんの声が小さく聞こえる。それでもまだ声が聞こえるのだからすごい。
「5時前には帰ってきない。いいわね?」
随分門限が厳しいんだなっと思ったが、はじめてきた土地だし、心配になるか。
「わかったーー」
そう言って、俺は緑の世界に飛び込んでいった。
次の話は惺君登場です!!