番外編:小さな手紙
サト、元気にしてる?
ん?俺?あぁ……俺は元気だよ?
最近なんか、サトのことをよく思い出すんだ。ちょっとぼーっとしているとサトの顔が思い浮かぶんだよ。四つ葉クローバーを一緒に見つけたときのあの笑顔。
もしかして、今がサトと出会った季節だからかな?
クローバーがたくさん咲いている。あっ、もちろんサトが住んでいたところみたいに沢山はないけど?
うん。楽しく過ごしてるよ。
───あれからもう3年かぁ、ごめん。一度も会いに行けなくて……。
中学受験は何とか受かったんだけど、授業について行くのが大変で……。俺、理科が苦手らしくてさぁ……全然分かんない。
サトは物知りだから、今度教えてもらおうか。
えっ?クローバーの意味?
もちろん覚えてるよ。なんたって俺達の幸運のキューピットだからな。
今でも大切にサトから貰った指輪大切に持ってる。少しだけ色が変わってるけど……。
サトからの最初のプレゼントだから、大切にしてるのは当たり前だろ?
早く会いたい。
サトの顔が見たい。サトの声が聞きたい。
そして、サトを思いっきり抱きしめたい。
俺、頑張るから……
だから、待ってて。
時間が少しでもとれたら会いに行くから───
* * *
「和幸……」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
───もしかしてサト?と思ってサトの名前を読んでみるが、返事はない。
ただ怒声が俺の頭に振りかかる……
「和幸!!何寝てるのよっ。塾に遅刻するわよ!!」
母さんが俺を凄い勢いで叩き起こす。
「塾……ってヤベっ!」
そうだ今日は週3回通っている塾があるんだった。
俺は飛び起きてた。
寝る前まで書いていたものを裏返し、寝癖を簡単に直し、塾のカバンを片手に、階段を駆け降りる。
「行ってきます!」
急いで塾に向かって走り出した。
母さんは嘆息しながら俺を送り出した。
「あの子ったら……」
母さん───美代子は二階に上り、勝手に和幸の部屋に入って机にある一枚の紙を裏返した。それは、
「和幸からの惺への小さな手紙」
美代子は寂しそうな悲しそうな思いで紙を握りしめていた。
短くて拙いけど、和幸の気持ちがこもっていた手紙。
最後に書かれていたのは不器用だけど一番気持ちの伝わる言葉。
───サト、大好きだよ。
だけど、この手紙はサトへ送られることはなかったのだ。