エピローグ
涼しい森の中歩いていた、俺達。
かすかに感じるのは、サトの手から伝わる温かさ。
ゆっくりと、一歩一歩、歩いていく───……
「カズ。今度はいつ会えるのかな?」
クローバー畑を出て、ばーちゃんの家に向かっているとき、サトがぽつりと呟いた。
寂しそうだけど、どこか浮き浮きしている感じにも聞こえる。
「うーん。たぶん今年と来年は無理だと思う……でも、できるだけ早く。戻ってくる」
力強く手を握り合うだけで、不安がなくなる。
「電話はないから、手紙を書いてくれる?俺から送ると遅くなると思うけど…」
「うん。サトにいっぱい手紙送るねっ」
他愛もない話をしているともう目の前にばーちゃんの家があった。
ばーちゃんの家の前には、母さん、父さん、そしてばーちゃんが立っていた。
サトは怖がっているのか、俺の後ろに隠れてしまった。俺の服の裾がギュッと握っている。
大丈夫だよと笑いかけたが、実は俺自身も少し怖いなと思っている。
なんて言われるだろうか。
サトと別れろって言われるだろうか、と……。
「………」
なんとはなしていいのか分からず、下を向きながら口を開けずにいた。
重い沈黙が俺の頭にのしかかる。
「お帰り。和幸、惺君」
「えぇ?」
俺達は顔を見合わせた。母さんから思っていない言葉が返ってきたからだ。
「お帰り」
「お帰り二人とも」
父さんもばーちゃんも笑顔で迎えてくれた。答える言葉は一つしか思いつかなくて……。
「ただいま!!」
俺達も笑顔で答えた。
その瞬間だ。母さんが俺とサトをぎゅっと抱きしめてきた。
サトとは違う温かさを感じて、また涙が浮かんだ。サトの顔は見えないから分からないけど、きっと俺と同じ状況だろう。
「ごめんね。和幸、惺君。私がいけなかった。二人を離れさせような思った私がいけなかった……っっ」
母さんは泣きながら俺たちに謝ってくる。その時点で俺は母さんに何の怒りも感じない。
「俺は怒ってないよ。だって母さん分かってくれたんでしょ。俺達のこと」
「俺も怒ってないです。小母さんのカズへのためにしたことだと分かっていますから」
二人顔を見合わせて、笑顔で頷いた。
その姿を見た父さんは言う。
「大丈夫。きっと二人なら……この先何かあっても、乗り越えられると思う」
「大丈夫。カズちゃんと惺君が一緒なら」
父さんの目にもばーちゃんの目にも、少し涙が浮かんでる。
ありがとう。
俺達のことを分かってくれて。
嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。
「後10分だけ時間があるから、話をしてきなよ」
母さんの言葉に頷いて、俺達が初めて会った場所に、手をつなぎながら走っていく。
何もかもが始まった場所。
サトと俺のスタート地点。
「ねぇ。カズ。左手を出して?」
訳わからず、左手をサトに差し出した。すると、サトは何やらポケットから出した。
それは紛れもなく、クローバーの指輪で。
「またここで会うことを誓いますか?」
嬉しそうな表情で言うもんだから、俺はそれ以上に嬉しくなってしまう。
「はい…っ!」
サトは俺の薬指にゆっくりと、クローバーの指輪を嵌めてくれた。
俺の心臓はドキドキ、いいっぱなしで……。たぶん今の俺の顔は真っ赤だと思う。
サイズは少し大きかったけど、最高の俺へのプレゼントだ。
「ありがとう、サト」
「どういたしまして」
そう言ってギューっと抱きしめあった。
ずっとこの幸せな時間が続いてほしいけど……。
暫しの別れ。
それでも俺はサトへの気持ちは絶対変わらないから……。
待っていて、サト。
触れるだけのキスをして、俺はサトに背を向けた。
その時だ。
「いってらっしゃい」
えぇ?
後ろを振り向くと、サトが笑顔で、手を振っていた。
これは永遠の別れではない。
───また会おう。
そう意味が籠っている気がした。
「行ってきます!!」
俺はサトに手を振り、両親の元へ走って行った。
今の俺は多分、笑顔で溢れているだろう。
帰ってきたら、「お帰り」って言ってくれる。
そう願って───
あとがき
こんにちは、彩瀬姫です。
無事、最終話を迎えることができました♪
このお話はゴールデンウィークという設定だったので、ゴールデンウィークに終わらせよう!!と張り切っていたわけですが、見事に失敗し、一ヶ月かかりました。
途中で話がぐちゃぐちゃになって伝わりにくいところがありますが、その辺は今後直していけたらいいなと思います。
小説を書き始めて半年経ちますが、まだまだ上手く文をまとめられません。
頑張って小説を書き続けていきたいと思います。
読んでくださった皆さん、本当に有難うございました!!
2009年6月7日 彩瀬姫