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第24話「届かなくても、伝えたい」

「カズッッ」

 夢の中で、何度も俺はその名前を呼んだ。なぜ自分の名前を呼んだのか不思議だった。

 置いて行かないで。一緒にいたいと。

 これは想像だけど、もしかしてサトだったのかな?

 必至で俺を呼んでいたくれたのかも知れない……。

 俺がこの町から出た時、サトはそう感じたのかもしれない。

「友達だよ」

 サトの初めての友達が俺だった。そう、俺から友達になろうと言い出したんだ。

「約束だよ」

 遠い日の昔に約束した。裏切らないと…。

 思い出す。昔の出来事が、サトと過ごした記憶が……溢れてくれる。

「サト……」

 何度俺はサトの名前を呼んだのだろうか?

 百回、千回、一万回?

 もう数え切れないほど呼んだと思う。

「カズ……」

 俺は何度サトにそう呼ばれたのだろうか?

 百回ぐらいかな?そう思っていたの俺だけだった。

 きっとサトは何千回と何万回と呼んでくれていたんだ。俺よりもずっと多く俺の名前を呼んでくれた。

 ねぇ…サト。今、サトに会いたいよ?

 駄目かな?嫌われちゃった?

 それでも俺は、サトの所へ行く。

 だって言わなくちゃいけない。俺が記憶が思いだしたことを───そしてもう一度あの言葉を言いたい。

 サト。俺は会いに行くよ……


 * * *


 ゆっくりと目を開ける。

 目が覚めたというより、ただ目を瞑っていたんじゃないかと言うぐらい清々(すがすが)しい目覚め。

「……ばーちゃん?」

 横目で隣を見てみると、ばーちゃんが優しいまなざしで俺を見ていた。

「和ちゃん。思い出したかい?」

「えぇ?」

 どうしてばーちゃんがそのことを……。

 不思議そうにばーちゃんを見ると、微笑み返してくれた。

「ずっと惺くんの名前呼んでた。苦しそうに……でも嬉しそうに」

「ばーちゃん……」

「惺くんの所に行くんでしょ?ほら、時間ないんだから行きなさい」

 最後の言葉は俺に諭すように、強い言い方だったけど、心のこもった言葉だった。

「ありがとうばーちゃん」

 俺は急いで、サトの所へ行く準備をした。

 パジャマを脱いで……あれ?

 そう言えば、いつ俺パジャマ着たんだ?お風呂で寝て起きた時は、ばーちゃんの部屋にいたし………。

「ばーちゃん。俺なんでパジャマ着てるの?」

 着替え終わった俺はばーちゃんに質問をした。ばーちゃんは呆れたのか、苦笑しながら答えてくれた。

「なんでって……凌さんが着せてくれた」

 そうなんだ……。

 ばーちゃんは複雑な顔をしてくる俺にポンッと背中を押した。

「凌さんも美代子も怒っていたけど、それはあくまでも和ちゃんのためなんだからね」

 その言葉に笑顔で俺は頷いた。

 うん。分かってる。俺を心配してくれてるの、分かってる。

 それでも、俺はサトに会いに行くんだ。

 父さん、母さんごめんなさい。親不孝かも知れないけど、今、俺にとって一番大事なのはサトだから……。

 届かなくても、伝えたい。

 俺は急いで、玄関を出た。


「母さん、父さん……?」

 玄関出るとそこには真剣な顔をした母さんと父さんが待ち伏せていた。

「こんな時間にどこに行くの?」

 空を見てみると、まだ太陽は上がっていない。今は大体…午前6時ごろだろうか?

「サトの所に行ってくる」

 いつも通りの普通の声で両親に言った。

 緊張していた。声が震えるかもしれないと思ったけど、思いの外普通の声が出ることに驚いた。

 さっと両親の横を通りぬきようとした。

「和幸。お前は何かを間違っているんじゃないか?惺くんは男だぞ?恋愛感情なわけない」

 何を言われても取りぬけて行こうと思っていたが、父さんの言葉を聞いて足を止めた。

 聞いたことがあることをズラーっと父さんが言ったからだ。

 振り返って、両親と向きあう。

 分かってもらわなくてもいい。それでも自分の気持ちだけは言わなければ。

 ゆっくりと口を開く。

「人それぞれ、幸せの形は違う。俺にとって幸せと言うのは、サトと一緒にいること。……俺は幸せを望んではいけませんか?」

 問いかけるように見つめると、両親は困ったような顔をする。もしかしたら両親は思いだしているのかもしれない。

 最後に問いかけた言葉は夢で見たサトの言葉だ。

「ごめんなさい。母さん、父さん。行ってきます」

 両親に背を向け、サトの所へ走り出す。

 早く会いたかった。

 サトの顔が見たかった、声が聞きたかった。

 昨日会ったばかりだけど、寂しくて……。

 早く早くと足を走らせる。


「行ってらっしゃい」


 後ろでそんな言葉が聞こえた気がする。

 両親かばーちゃんか分からないけど、とても温かい声だった。



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