第23話「緑の真実」
「ねぇ?知ってる?この世界は、綺麗だけど、本当はただそう見せてるだけなんだっ」
誰?
「俺達が見ているようなキラキラとしたものなんて、ないんだって……」
俺の耳元でそう囁くのは……だれ?
* * *
「カズッッ死んじゃやだよっっ」
目を開けた瞬間。サトの泣き顔が目に入った。えぇ?此処ってさっきの……?
どうしたの?サト?
「カズッっ目を覚ましてっっ」
俺は起きているよぉ……。と体を起こそうとする。
「カズっ、ごめんカズぅ!!お願い、目を覚ましてっっ」
えぇ?どういうこと、これ……。
となりに目を瞑って寝ている俺がいる。これは錯覚?と顔を叩いたら痛かった。
混乱しているのは俺じゃなくて、サトの方。泣きながら俺にごめんごめんと謝っている。
───サトどうして泣いてるの?
と、サトの涙を拭うが、本人は気付かない。寝ている俺の手をギューっと握って、謝り続けている。
「サト?」
「カズッッごめん。俺が悪いっ。力を復讐になんかに使ったからっっ」
復讐したんだ……。
これが現実か夢か区別がつかないから、なんともいえない。
「惺くんっっ。一体どうしたの?」
クローバー畑の中に俺の母さんがいた。どうしてここが分かったんだろう?
「小母さんごめんなさいっ。カズがカズがっっ」
サトは混乱して、とにかく今度は母さんに謝り続ける。俺の姿を見た瞬間、母さんは大声で父さんを呼ぶ。
「和幸?大変よ凌ちゃんっっ。和幸がっっ」
ササッと走ってくる音がする。くさまみれになった父さんが出てきた。横たわっている俺を見て、父さんは顔を白くする。
「和幸。これは……と、とにかく家に運ぼう」
父さんは横たわって寝ている俺を抱きあげて、ばーちゃんの家に向かう。
俺もその後をついて行った。
「惺くん。これはどうゆうことか説明してもらおうか」
俺を布団に寝かせた後、サトは俺の両親たちに質問攻めにされていた。
「ごめんなさい……」
しょぼんとしたサトが正座をしながら、座布団に座っていた。
「どうしてこんなことになったんだ」
父さんが強くサトを責める。
「ごめんなさい。俺がこの力を使おうとしたからです。その時カズが俺を止めて……」
サトの指先が緑色に光る。
とても綺麗な色をしている、まるで宝石のように。
「この力でこの世界に復讐をしようと思ったんです」
「復讐って──緑世町を?」
緑世?初めて聞く単語に俺は首を傾げる。
「はい。そして、俺はこの町から出ようと思ったんです……っっ。カズと一緒に」
辛そうな声を精いっぱい出しているサト。
俺とこの町から出ようとした?
「君は、この町から出られないことを知っているよね。出たらどうなるかも。それなのにどうしてこんなことを?」
父さんは一つずつ丁寧に話し続ける。
「それでも、俺はカズと一緒にいたい。好きなんです、カズのことが恋愛対象として。なのにどうして一緒にいることが許されないんでしょうか?」
小学生ならぬ、考え。それに両親は言葉を止まらせる。
「それは……」
両親の言葉を遮って話し続ける。
「俺達が緑の神様候補だからですよね。神に信で選ばれたものは、この世界から出ることを許されない。それは俺達を決別させる。どちらかが神に選ばれても結局は離ればなれになる。それだったら……この世界がどうになってでもよかった」
サトはこんなにも俺のことを好きと言ってくれる。
それでも俺達は決別する運命?
──これは夢?現実?
まだ俺にはこの区別がつかない。
「惺くん。君は何かを間違っている。和幸も惺くんが好きと言っていた。でもそれは友達としての好きじゃないのか?恋愛感情なんてありえない」
父さんの言葉に俺もそしてサトも絶句した。
どうしてそう勝手に決めつけるの?俺達の気持ちをどうして勝手に決めつけるの?
怒りがわいてきた。でも今、俺は父さんを怒鳴ることもできない。
今の声は誰にも届かないから。
「小父さん、小母さん。俺は、カズが好きです。これは血の迷いでも何でもありません。ただ本当にカズが好きなんです。何も知らない俺にいろいろ教えてくれた。遊びを教えてくれた。そして、幸せと言うものを教えてくれた。それを貴方達が奪おうとしている。俺は幸せを望んではいけませんか?」
………っ。
俺の頬をスーっと流れていく。これは涙。
嬉しいのか悲しいのか分からない。今の俺の気持ちは複雑に絡み合ってるから。
でも涙が流れてくる。滝のように涙が溢れてくる。
ばーちゃんはサトを優しい声で諭す。
「惺くん。幸せは望んじゃいけないとは言わない。でも、この世界には惺君が必要なんだよ?和ちゃんもそうかもしれないけど、もう和ちゃんには神様としての力は失ってしまったから。もう惺君しか神様はいない」
それはどういうこと?
俺もサトも意味が分からず、その続きを促す。
「確かに和ちゃんは神様候補で、それの力を使わないだけど、それなりに力があった。でもさっきその力は消えてしまった。惺君を助けるために」
俺がサトを助けるために神様の力を使った?神様候補と分かっていたけど、俺自身に神様の力があったんなんて思いもしなかった。
「なんで、お婆さんがそのことを……」
呆然と呟くサトにばーちゃんは自嘲気味に笑う。
「私の爺さんも神様だったからねぇ……力を失うときの感覚が分かるんだよ」
「………」
しばしの沈黙。
それでも俺の涙は止まらない。
しかし次のばーちゃんの一言で俺の涙はピタリと止まる。
「神様は一人。神様候補を破れた場合、その人に死が訪れる」
ばーちゃんの一言にサトも両親も俺も目を瞠った。
何?じゃあ俺死んじゃうわけ?
横たわっている自分を見ているとだんだん顔を色が悪くなるのを感じる。
これが死の前兆?
「それって。カズが死ぬっていうことですか?じゃあどうすればカズは死なないんですかっっ!?」
サトは必至にばーちゃんに近寄り、答えを求める。
「一つだけ方法がある。その方法は惺君にとってつらいことになる。それでも惺くんその覚悟あるかい?」
大きくサトは頷く。
「カズが死ぬより、それ以上に辛いことなんてありません!!」
止まっていた涙がぽつりと、また溢れだす。
サトはこんなにも俺を想っていてくれる。
それが夢でもいい。サトがこんな風に俺を想っている夢を見られただけでも幸せだから。
緊張感漂う中、ばーちゃんは深呼吸をして言葉を吐く。
「和ちゃんの記憶を消すんだよ。惺くんの力で惺くんの記憶だけを」
その瞬間俺の中に何が溢れだすかのように、体が熱くなる感じがした。
真実を俺は今知ろうとしているのだ。
サトが記憶を消した真実を……。
「和ちゃんが、神様と言うものを惺君自身を忘れることができれば、和ちゃんは死ぬことはない」
遠い日の夢。
それは、俺の中に眠っていた記憶。
夢であって、でもそれは本当のことでもあって……。
ただ「緑の世界」に俺達の時間を隠されていただけ。
俺はサトを助けるために、自分の力を全部出し切って全力で止めたんだ。
記憶がよみがえる。
サトとの記憶が体中から溢れてくる。