第21話「夢と記憶の境界」
「はぁ〜」
溜息一つ。いろいろな気持ちが混ざった大きな溜息。
お風呂の中だから、やけに溜息が響いて聞こえる。
何度も何度も出てくる溜息。
いろんなことを頭に詰め込んだせいで、頭が狭量オーバーしたに違いない。
……でも、それでも、知りたいと言う気持ちは消えない。
さっき、ばーちゃんが握りを持って戻ってきたとき、問い詰めようとしたのだけど……あまりにばーちゃんが辛そうな顔をしていたから聞きそびれてしまった。
「ぶくぶくぶくぶく」
顔を半分お湯につけて、息を吐くとぶくぶくっとお湯が音を立てる。
この家にいられるのもあと少し。明日には、自分の住んでいる町に帰らなければならない。
まだ何にも解決してないのに……。
お父さんとお母さんがどうしてあんなに怒ったのか、とか。サトのことだってまだあまり知らない。
俺はどうすればいい?あとほんの少しの時間、俺はどうすればいい?
何もできないからって待っているのは、もう嫌だ。自分で何かを起こせるようにしたい。
ぐっ茶になった頭でいろいろ考えてみるが、なにも思いつかなくて、昨日と同様に疲れていつの間にかお風呂の中で寝てしまう。
* * *
「カズっ。ねぇー見て。クローバーだよ!!」
誰かが俺を揺する。
目は開けてないけど、とても眩しいのは確かで。
俺は、ゆっくりと目を開ける。本当にゆっくりと…ゆっくりと……。
すると、そこには驚くべき人がいた。
驚きすぎて言葉も出ない。
「カズ!!ほら見てっっ。クローバーだよクローバーっっ」
サト……?
今の状況が全く分からない俺にサトは楽しそうに、クローバーを見せる。それは紛れもなくクローバー。
なんで、サトが此処にいるの?不思議に思いながらも、サトに名前を呼ばれたことが嬉しくて、サトが見せてくれるクローバーに顔を寄せた。
綺麗なクローバーがある。
残念ながら、四つ葉のクローバーじゃないけど、サトは大喜びしている。
「こんなところクローバーがあったんだ。知らなかった……」
周りを見渡してみると、今日サトと四つ葉のクローバーを見つけたクローバー畑の中にいた。
「綺麗だな、クローバー…。俺、ずっとクローバーが欲しかったんだ」
妙なことを言う。
というか、そういえば、俺…お風呂の中にいた気がするんだけど……。
俺には、さっきが現実が、今が現実か分からない。
クローバーはさっき俺と一緒に見つけた。それにどうして俺達仲直りしてるんだ?
そう考えれば、これは夢?
またも頭が混乱しそうだ。
「カズっ。三つ葉のクローバーの花言葉って知っている?」
「ううん……知らないけど……」
「希望とか……結構いろいろあるんだけど……俺の心に残ったクローバーの花言葉は」
サトは一瞬躊躇う。
どうしたの?というと大丈夫だと笑って、誤魔化された。気がする。
「で、サトの心の中に残っているクローバーの花言葉は?」
話の続きを促すと、サラッと言ってくれる。
「クローバーとちょっと違うけど、クローバーは別名シロツメクサって言うんだ。そのシロツメクサの花言葉に……復讐心」
・・・・・・。
血の気が引くのを感じる。
最後の言葉があまりにも、恐ろしい単語だったから……。
訊きたくないと思ったけど、その言葉をもう一度聞かなければならない。
サトの心の内から本当にそう思っているか、確かめるために。
「もう一回言って?」
「……復讐心」
鋭く冷えきった声と瞳。
それは、この窮屈な世界から出られないから……復讐したいという事?
それとも……俺に向けられた思いなのか?