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第19話「バイバイ」

「何か寂しいね」

 俺達はクローバー畑を出て、緑の道をゆっくりとゆっくりと歩いていた。

「うん……」

 寂しい。

 その言葉に頷いたけど、寂しいと言う言葉だけでは表し切れないほど、俺の中にポカンと何を失ったように、穴が開いた。

 もうこのまま会えなくなる……。

 出会いには終わりがあるって分かっていたはずなのに……どうしてこんなにも深い恋にはまってしまったのだろう。

「サト……」

「何?カズ」

「なんでカズって呼ぶの?家族でも今はばーちゃんぐらいしか呼ばないのに……」

 ずっと聞きたかった。

 どうしてサトは俺のことを知っている?

「……カズが覚えてないからだよ」

 前にも言っていた。

 もしかして俺。昔にこの町に来ているのか?

 小さい頃の記憶だったら覚えていないかもしれない。母さんと父さんはおばあちゃんの家行く時、俺が行くの初めてって伝えたけど、それが嘘の可能性だってある。

「俺はこの町に一回来ているの?」

 なんとも情けない質問だと思ったけど、覚えていないらしい俺の記憶をたどってみてもやっぱり思いだせない。

 訊く術しか残されていなかった。

「どうだろうね」

 曖昧な返事。

「そう……」

 何だかだんだん俺とサトの間に距離ができた感じがする。四つ葉のクローバーの幸せの力はもう消えてしまったのだろうか?

 あんなに一生懸命に探したのに……。

「カズ。好きだよ?」

 突然のサトからの告白。思いっきり、俺はきょどってしまった。

「何その顔。カズらしくない」

「サトって拗ねるんだ」

 頬を少しだけ膨らませるのが分かって、クスって笑ってしまう。

「カズちょっと止まって」

 歩いている足を止めた。

 何をするのかなとボーっとしていると、いきなりサトが俺の目線に合わせるように屈んだ。

 思いっきりサトの顔が近付いたのでドキドキしてしまう。

「ちょっと横向いて」

 言われるまま横を向くと、サトは俺の顎を持つ。

 何をするのかと横目でサトを見ると、

「ぎゃっっ!!ちょっちょちょっとサトぉ!?なにっ?ちょっとくすぐったい、ひゃっ」

 サトは俺の耳の中に、息を吹き込む。

 しかも、何秒経っても何分も経っても、ずっと俺の耳の中に息を吹き込み続けている。

 ドキドキっと心臓の音が高鳴っている。

「サト。ギブッギブアップッッ。もう無理っ」

 俺は無理矢理サトは引き剥がしてしまった。

 心臓がドキドキしすぎて、壊れるかもしれないと思ったぐらい、俺が限界が来ていた。

 ちょっと驚いていたサトだが、俺を見た後すぐに下を向いた。

 そしてぼそっと呟いた。


「ごめん。カズでも、これが最後だから……これが『最後の望み』だから」


「えぇ?」

 サトはちょっと眉を下げて、困ったような顔をしている。

「分かってるよ。カズ。これが最後だって分かってる」

 知っていた……カズが?

「ちょっとしてみたかった。最後だってカズの顔に書いてあったから…だから、もうカズに会えないんだなぁ……って」

 顔をあげるけど、俺と視線を逸らしたまま独り言のように話しているサト。

「ごめん。嘘ついて、サトにばっかり本音言わせてたのに…」

 罪悪感が込み上げてきた。

「大丈夫って言ってる。カズは俺のことを考えてくれたのちゃんと分かってるよ」

 不意にサトは俺を抱きしめる。ギューって言うより、優しくふわっとするように抱きしめてくれる。

 その優しさに涙が出そうになった。俺も優しくサトを抱きしめる。

 サトの優しさをもう、俺は受け取ることができない。

「カズ、もしかして小母おばさんと小父おじさんの反対を押し切ってここに来てくれた?」

「どうしてそのこと……?」

 あっっと思ったときはもう後の祭り。サトは自嘲気味に笑う。

「やっぱりかぁ……小母さんは俺のことを怖がってるからね。俺の存在を……」

「どうしてサトが緑の神様なんだろう?他の人じゃ駄目だったのかな?」

 ついそんなことを言ってしまった。

 あまりにサトをこの世界に縛るから、緑の神様が憎く思える。

「緑の神様は他の人だってよかったんだ。……ただそのとき、緑の神様になる人が俺しかいなかっただけ」

「また会いたい。俺、今度ここに一人で遊びに来る」

 そうだ!!

 自分でも驚いた。どうしてそのことが思いつかなかったんだって。

「そうだよっっ!!俺一人でサトに会いに来ればいいっっ。夏休みとか冬休みとか大型連休しかこれないけど、それだったらサトとまた一緒に……」 

 俺の弾む声を消し去るように、サトは冷たい声を出した。

「それはできない」

「えぇ?どうして?」

 サトからそんなことを言われるとは思わなくて、固まってしまった。


「また、君は俺を忘れてしまうから……」


 他人行儀な呼ばれ方をされたのがショックだったのか、それとも忘れてしまうと言う言葉にショックだったのか、もう分からない。

「やっぱり俺はここに来たことがあるの?そしてサトにあったことがあるの?」

 さっきの同じ質問をするが、今度はサトに何も答えずただ俺の視線が耐えられないと逸らしてしまう。

 俺は何を忘れてしまったのか?サトとの記憶がない……でもサトは俺との記憶があるってことで……。

 思い出そうとするがやっぱり分からない。

「いいよ、カズ。無理矢理思い出さなくて。俺が力不足だったのがいけなかったんだ」

「ねぇ、どうゆうこと。サト?教えてよっっどういうこと?ねぇ、サトっっ」

 俺は、抱きしめていた手を離し、サトの肩をつかむ。サトは俺よりも身長が大きいから、俺が上を向く形になる。

「ごめん、カズ。バイバイ」

 そっとサトの手が俺から離れる。

「カズ、バイバイ」

「嫌だよ…サト。何言ってるの?」

 その言葉を否定してもらいたくて、俺は掴んでいた肩に力を入れる。だけどサトは俺の腕を払った。

「バイバイ」

「嫌だ」

「バイバイ」

「嫌だっっ」

「バイバイ」

 嫌がらせ?違うって分かっていても、俺の中にその言葉は嫌に響いて、頭の中で連呼する。

「カズ……。ごめんね」

 サトは一歩、俺から遠ざかる。

「バイバイ、カズっ」

 手を振って、サトは俺から遠ざかっていく。サトは前を向いて、俺から顔を背けた。

 俺はサトは追いかけようとするが、足が前に動かない。

「サトぉぉぉぉっっ」

 大きな声で叫んでも、サトは消して振り返ろうとはしてくれなかった。

 ねぇ……サト。

 どうしてバイバイなの?またね……じゃないの?

 一人でどうやってでもサトの元に帰ろうと思ったのに…、サトは俺がまた此処に来ることを望んでいなかった。

 

『バイバイ』

 その言葉は俺達の別れ。また会うことのない別れを意味していた。



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