第1話「山奥に住む少年」
「着いたわよ」
大きな木造建築の家の前。
「近くで見ると本当に大きい……」
「そうね……。築100年とか言ってたわ」
その言葉に俺は素直に驚く。
「えぇ!?100年!?」
なんかすごい感動した。築100年とか聞いたことあるけど、生で見られるなんて思ってもみなかった……。
俺は目をキラキラ輝やせていると、父さんが苦笑混じりに溜息をつく。
「本当、お前こうゆうの好きだよな。連れてきた甲斐があった…」
長時間の運転が疲れたらしく、父さんの意気がない。
「凌ちゃん。年ね、と・し♪」
父さんの肩をばしばしと叩いて母さんは言う。
自分の夫にそういうこと言うか?
とツッコミたいところだが、父さん的にはこの雰囲気が好きと言っていたので、言わないでいる。
建物ばかりに驚いていたけど、ゆっくりと息を吸ってみると空気が澄んでいるとのが分かる。
周りは緑ばかりで、人が住んでるのか?と本当疑ったぐらい、木や花ばっかり。
俺、花粉症じゃなくてよかった。
花粉症だったらこんなところに5日間もいられそうもない。
「はーくしょんっっ」
山中だから、少し肌寒い。春なのにこの寒さ。なんか違う意味の感動が俺の中を支配している。
「風邪ひくと大変だから、中に入りなさい」
いつの間にかおばあちゃんが玄関で待っていてくれたみたいだ。ニコニコと笑っている。
「えっと、こんにちは」
おばあちゃんと言っても正体面なので、一応挨拶してみた。
するとおばあちゃんは、驚いたように固まる。
「あらーーお利口さんに育ったのねぇ……あの和ちゃんが…」
和ちゃん!?
それは小さい時に言われていた呼び名。
なんで俺と一度もあったことのないおばあちゃんが、俺の昔の呼び名を知っているんだ?そう、母さんに視線を向けると、笑顔で答えてくれた。
「あぁーー私が電話で和幸の話する時、分かりやすく和ちゃんって呼んでいたからよ」
それは嫌がらせか。と母さんを睨むが効力はなかったらしく、逆に楽しそうににこにこしている。
和ちゃんという呼び名は小さい頃に呼ばれていたが、あまり好きじゃなかった。
男なのに、なぜちゃん付けなんだっと思ったからだ。背が小さいということもあり、そう呼ばれていた。
───この悪魔めぇ……。
どうやら母さんの中に悪魔が住みついているらしい。
母さんが俺が嫌がることが好きらしい。母さんが嫌がることを達成した時の笑みは、まるで天使のように明るく、そして悪魔のように不気味だ。
「あの……和ちゃん、じゃなくて和幸って呼んでください」
ぺこりと頭を下げると、おばあちゃんは笑ってこう言った。
「和幸って言うより、やっぱり和ちゃんの方がしっくりくるから。このまま和ちゃんって言うわねぇ」
血筋なのか?これは遺伝的なものなのか?
おばあちゃんまでもが、ニコニコと悪魔の笑みを浮かべている。
「はぁ……そうですか」
もうこれは断念するしかないと思い、曖昧な返事をしておいた。
「あっ、惺くん。どうしたの、こんなところで」
おばあちゃんが声をあげる方に振り向いて見ると、男の子が一人、木の陰に隠れていた。
本を持っていて眼鏡をかけている。いかにも勉強してますって感じの子で……。
声をかけようとしたら、男の子はオレにじーっと見て、ササッと逃げてしまった。
「えぇ…っとぉ…」
呆然としている俺を見て、おばあちゃんは苦笑しながら、話してくれた。
「あの子、お隣さんの渡辺惺くん。不器用な子でね……」
こんな山奥にも子供っているんだなぁ……。
若い人はみんな都会に行ったんだと、勝手に思っていた。
「惺くんは、この町で唯一の子供。他に誰も子供がいないんだよ」
───それって、友達がいないってこと……?
直感的にそう思った。周りに同じぐらいの年の子がいなければ、友達ができるはずもない。
おばあちゃんの表情も声もどことなく淋しそうで。
「本当はあの子を、この町から出してやりたいんだけどねぇ……」
ぽつりとのおばあちゃんが呟いた。
よく聞き取れなかったのでもう一回聞こうとしたが、おばあちゃんはただただ黙っていた。
………惺くんか。今度話してみたいな。
俺は「彼と友達になりたい」そう思っていた。