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第18話「本当の気持ち」

 風邪が緩やかに吹く。

 まるで俺達を包み込むように……。

「緑の神様って知ってる?」

 クローバー畑に寝転びながら、サトは独り言のように呟いた。

「知ってる。母さんも父さんもばーちゃんも話してくれた」

「そう……」

 握っていた手の力が緩んだような気がする。

「ごめんサト。この前俺の無神経なこと言った。本当にごめん……」

 無神経なこと───「この町から出たいか」と聞いたことだ。

 サトは一生、此処から出ることはできない。俺がした質問は、サトにとってとても残酷なものだった。

 ………それなのに、サトは何もないかのように笑っている。

 ねぇ、どうして?

 なんで、サトは辛そうなのに笑っているの?

 分かってる、そんなの聞かなくても分かってる……。

 俺に心配させないようにって、無理して笑ってるんだよね。

 けど…、俺はサトにそんな顔させたくないよ?

 言ってほしいんだ。伝えてほしいんだ。

 辛いって、一人は寂しいって、俺に聞かせてほしい……。

「サト。無理しなくていいから……言いたいことがあったら、言って…」

 きっとこれが最後だから、サトの小さな願いをかなえる最後の時間だから。

「何もない…カズが俺のためにクローバーを探してくれたと思っただけで嬉しい」

「………」

 駄目か……。

 どうしても、サトはその気持ちを伝えようとしない……。

 なんで、なんで……っっ。

「俺に話しにくい?」

「違う」

 サトは優しく、俺を拒絶する。辛いことがあっても、俺には言ってくれない。でも、俺に優しく接してくれる。

 それが俺にとって一番苦しいってこと、サトは知っている?

「もういいよ。サト……」

 ゆっくりとサトの手を離し、起き上がる。

「えぇ?どうしたのカズ?」

 俺の言葉の意味が分からないのか、ぽけーと顔をしている。

「………」

「どうしたの?カズ……」

 不安そうな声で俺を呼んでいる………。

 じゃあその不安そうなことを口に出して言ってくれればいいじゃんっっ。

 俺は思い切ってサトに言った。

「言ってよ。サトが辛いこと言ってよぉ……っっ。さっきから顔引きつってるの分かってるんだからっっ!!」

「ちがっ……」

 その言葉に反論しようと、サトも起き上がる。だけど、俺はサトの言葉を遮ってまでも話し続ける。

「なんで…無理矢理笑おうとするの?さっきにみたいに喧嘩売ってくる勢いでもいいから何でもいいから、言いたいことがあるなら話してよっっ。サトのこと全然役に立っていないてこと、分かってるけど……」

 俺はなんだか罪悪感に襲われた。

 今にも泣きそうな目で、サトが俺を見つめている。それだったら……。

 それだったらいっそ泣いてしまえ。

 泣いて泣いて、サトが悩んでいること、苦しいこと、辛いこと、何でも流してくれればいいのに……。

「カズ……ありがと」

「えぇ?」

 とても静かな、どこかとても優しい響きでサトは俺にお礼を言った。

「怒ってくれてありがとう、何か……嬉しいっ」

 無理に笑って笑顔じゃなくて、本当の笑顔で俺に言ってくれた。

「べっ別に……大したことは言ってないし……。それでも俺はサトが少しでも幸せにはなってほしいとも思っただけどだよ」

 恥ずかしくなって照れ隠しをしそうになったが、自分の本当の気持ちがサトに言えて本当に良かったと思ってる。

「カズ……ちょっと話長くなるけど、聞いてもらっていい?」

 強い眼差し。だけど、どことなく淋しそうな弱々しい表情。

 声を出さす、黙って俺は頷いた。

 風が、少しひんやりとした風が、また俺達を包む。

「……俺が緑の神様の存在を知ったのは、1年半前のこと」

 サトはぽつぽつと話し始めた。

「俺が緑の神様と知ったのもそのことだった。緑の神様はこの町を守る唯一の神様。何でもできる力をもらった自由のお方なんだって教えられた」

「だけど」とサトは続ける。

「何でもできるって?どこに自由がある?俺は疑問を持った。だって力を使うことはあまりできないし、この町から出れないことが何処が自由だって……」

 黙って俺は話を聞いていた。サトは自分の気持ちを隠さず、話している。

 自分を出そうとしている。

「俺だって此処から出たい。違う世界に行ってみたい。カズと同じ世界に行ってみたい……なのに、どうして、俺はそれが許されないんだろうって…」

 辛そうに下を向いている。

 無理矢理言わせたのがよくなかったのか。

 俺はもしかしてただの自己満足でサトにいろんなものを吐き出させようとしていたのだろうか?

 サトの表情を見るとそう思えてきて……サトを抱きしめた。

「ごめん」

「何でカズ謝るの?」

 不思議そうにサトは俺の顔を見る。

「何か無理矢理、言わせたのかなぁ……。ちょっと反省中」

「そんなことない、嬉しかった。俺のために、必至になってくれた」

「そ…そう」

 どうやらサトを傷つけていないかったらしい。それにホッとする。

「ねぇ?カズ。また俺と会ってくれる?此処に来てくれる?」

「……」

 答えられなかった。

 会いたい……

 でも、親がどういうか……。

 俺はさっきサトにが会いたいために、勝手にじーちゃんのお墓参りを放棄して。

 サトは俺の異変に気付いたのか、心配そうに俺の顔を見つめてくる。

「そうだね…また会えるといいよね」

 サトにばっかり本音を言えっと言ってるのに、俺は言わなかった……言えなかった。

 楽しそうなサトの笑顔を見られなくなると思うと怖くって。時間はあとほんの少ししかない。

 ただ、今はサトの楽しそうな笑顔が見たかった。

 サトはそっと俺の手を両手で包みこむ。

「大丈夫。カズがこれなくても俺がカズに会いに行く…」

「えぇ?ははは。頼もしい」

 一瞬、サトの顔がキリっと真剣になったから、本気で言ったのかと思ったけど、すぐに笑ったから冗談だと分かった。

 笑いながらクローバー畑で、俺達だけの緑の世界で話をしていた。


 ───別れの時間は、もうそこまでせまっていた。



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