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第17話「幸せな時間」

「カズーー?クローバーあった?」

「ないーー」

 探し始めて2時間。一向に四つ葉のクローバーは見つからない。

 簡単に見つかるものだとは思っていなかったけど、こんなにクローバーがあれば一つぐらい見つかると思ってた。

「サトはクローバー探しって結構しているの?」

「うん……1年前の今頃からしてるんだけど、一回も見つかったかことがないんだ」

 一年も……?

 サトは自嘲気味に笑った。

「こんなに探して見つからないなら、四つ葉のクローバーなんてないかもしれない」

 弱気になっているサト。

「大丈夫だよ、言っただろ?絶対クローバーを見つけるっていったら、絶対見つけるんだ」

 そして……クローバーを見つけた時の、サトの笑顔が見たいよ?

「そうだね……ありがとう。カズ」

「よしっっ頑張りますか!!」

 また俺達は四つ葉のクローバーを探し始めた。

 泥だらけになってもいい。ただただ、クローバーを探すのに必死だった。

 サトは1年間探しているって言ってた。だけど、あと俺とサトだけでいられる時間はあまりない。

『ここに引っ越してきたい。ずっとサトと一緒にいたい』

 家族にはそう言った。それは俺の本心だ。

 でもそれが叶わないことは知っている。父さんも母さんも無理矢理、俺を帰らせようとする。

 ───なんで俺はこんなにも小さいことしかできないんだろう。

 サトの願いも、自分の願いさえも叶えることができない。

 ただ、今俺ができるのは四つばのクローバーを見つけて、サトを喜ばすこと。サトとの思い出をたくさん作ることだけだ。

 あと少しでサトと会えなくなる。

 そう考えたら……。

「カズ?どうしたの?」

 心配そうにサトは俺の顔を覗きこんだ。

 涙が落ちませんように……。

「大丈夫っっ。ちょっとボーっとしていただけ……っえぇ?サト?」

 突然、サトが俺を抱きしめた。

 何……?

 体から力一瞬にして抜けた。体が軽くなるのを感じる。

「サト?」

「カズ……。もしかして叔父さんとかから俺のこと聞いた?」

 ドキンッッ。

 俺の体が大きく跳ねた。その反応でサトは悟ったのだろう。

「やっぱりそうなんだ……」

 ゆっくりと俺の体を離す。

「そうだよね……。そうじゃなければ、こんなに必死にクローバー探し手伝ってくれないよね……」

 今にも泣きそうなサトの顔があった。

 違う、違うっ違うっ!!

 そう言いたいのに、嗚咽をこらえようとして言葉が、声が出ない。

「もう、大丈夫。俺一人で探す。ごめん、無理矢理こんなことさせて」

 そんなこと思ってないっっ。

「泥だけになったら両親に怒られるよね……本当にごめん」

「違うっ!!」

 やっとやっと言葉が出た。

「違うっ。俺……俺……」

 自分の気持ちを言ってしまいたい。伝えたいそう思うのに、声が震えて上手く表現できない。

「無理しないでいいよ。言いたいことは分かった。もう嫌だってことでしょ?俺と会いたくないってことでしょ!?」

 どうしてそんな話になってしまったの?

「違うってば。ただ俺は、サトにクローバーをプレゼントしたいと思ったからクローバーを探してるんだよ?なのにどうしてサトと会いたくないって話になってるの?そんなこと言うならサトが俺と会いたくないって思ってるんじゃないの?!」

 疑いたくないことを疑って……俺、本当に何やってるんだろう。本当に訳わからない。

 俺は何してるの?違う………。

 俺は何がしたいの・・・・・・

「はぁ……はぁ……」

 大声を出して疲れた。サトは混乱しているのか俺に訊いてくる。

「分かんないよ?何だろうこれ?」

「俺だって分かんないよ!!」

 なんでそんな風に考えてしまったのか……。

「俺……なんでカズに喧嘩売ってるんだろ?」

 冷静を取り戻したのか、サトは頭を抱えた。

「ごめん……カズ。俺、何か知らないけど熱くなって……。ごめんっ!!お願いだから嫌いにならないで?」

 またサトは俺を抱きしめた。さっきの抱擁とは違う。

 サトの手は震えていて、小さな子のようにギュッとギュッと力強く抱きしめてくる。

「嫌いになるわけない。大丈夫。俺は約束を破らない」

「うん……」

 サトは約束を破らないと言う言葉に弱い。

「カズ……好きだよ?」

「うん。俺も好きだよ…」

 初めて俺達は気持ちを言葉にした。

 サトに負けないぐらい強く抱きしめた。こうしてみると、やっぱりサトの方が背が大きいんだと、実感した。

 いつの間にかサトは甘えるようになったんだっけ?

 最初は不器用で……今でも不器用だけどね。


 自分たちの気持ちは通じあってることは知っていたけど、あえてその気持ちを口にしていなかった。

 きっと別れが寂しくなるからと……。

 もう俺達は限界だったんだ。この気持ちは最初はとても小さいなものだったけど……今はそれ以上に俺達の気持ちは大きい。 

 一緒にいる時間が多かったから、気持ちまでもが抑えられないぐらい大きくなりすぎてしまった。

 気付いてしまったら、言ってしまったら、止まらない。


「あっ!ちょっと、カズっっあれ見て?」

 サトの指さす方には、俺達が探し続けたきたものがあった。

「四つ葉のクローバー!?」

 急いで近づいてみると、四つ葉のクローバーが。

「やっぱり四つ葉だよね?」

 サトの質問に、俺は大きく頷く。

「数えてみる…一枚、二枚。三枚。四枚!!おぉーーーあった四枚あった!!」

「あった。うわぁ……凄い初めて見た……」

「やったよ。カズ」

「うん、やったよ。サトぉーーー」

 俺も初めて見た……四つ葉のクローバー。

 ───サトに少しでも幸せを運んできて下さい。

 と幸運のクローバーに祈る。

「カズ……あれ…」

 サトは呆然と、四つ葉のクローバーの隣を指す。

 指差した先を見ると、そこには四つの葉の。

「えぇ……もしかして?」

「これも四つ葉のクローバー??」

 こんな偶然って中々ないと思う。もう一つ、四つ葉のクローバーを見つけた。しかも四つ葉のクローバーの隣に四つ葉のクローバー。

 俺は息をのんだ。

「凄くない?」

「うん、凄い」

 うわぁ……どうしよう凄く嬉しい。こんなに感動することなんて滅多にない。

 サトも感動しているのか、頬が緩んでいる。

「何かあれだよね…」

 サトが呟く。

「うん?」

「何か、このクローバー達。俺たちみたい」

 その言葉はとても胸に響く言葉だった。サトが言ったから、余計に俺の中に通って行く。

 俺の頬もサトみたいに緩んだ。

「うん……そうだね」

 二人は自然に目を合せ、そして手をつないだ……。


 クローバーは偉大だ。俺達に幸せをくれる。たとえ、ずっと続く幸せではないとしても。

 このクローバー達みたいに、俺達は幸せになれないの分かっているよ。

 でも、今だけ。今だけでいいから、

 ───クローバー達の幸せの力を分けて下さい。

 

 四つ葉のクローバーを見つけたこと。

 俺は一生の思い出にする。



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