第14話「サトの正体」
「ここっっ此処だよ!!」
俺は祠があるところを指差す。
「ここ?」
三人とも実感しないのか、頭の上に疑問符が並んでいるのが見える。
「みっ見えないの?」
三人そうってこくりと頷く。
「それだったら今までお墓参りはどうやっていったの?」
その前に、どうやってじーちゃんの骨埋めたんだよ?
怪訝な目を向けると、母さんは悲しそうに呟いた。
「覚えていないの」
その言葉に続けて、ばーちゃんも悲しそうに。
「緑の神様がすべて、その年のみんなの記憶を消してしまったから」
緑の神様って、サトが言っていたあの緑の神様?記憶を消す?
「そんな現実離れした話、俺が信じると思う?」
「それでも私たちには祠は見えないの…。どこにあるのか祠を指してもらえる?」
「ここだよ」
祠を指差すと、母さんは祠に触ろうとする。
「えぇ!?」
俺は驚くべきものを見てしまった。
なんで…なんで……母さんの手が祠を貫通しているの?
今度は俺が触ってみると、ちゃんと祠に形があり、触れることもできる。
「分かった?」
俺は渋々、分かったと頷いた。
でもサトが言ってたことが正しいとすると。
「緑の神様って此処の緑を守るための神様なんだよね?記憶を消すなんてことできるの?」
「できるんだよ」
ばーちゃんが重く口を開く。
「爺さんは生前まで、緑の神様だったんだよ。それでその辺のことの記憶は爺さんは消して逝ったんだ」
じーちゃんが緑の神様?
今度は、ばーちゃんの代わりに父さんが話し始めた。
「緑の神様には「緑を守る」っていう使命を負わなければならないから、ここの町から出ることはできないんだ」
えぇ?それって……。
どこか聞いたことがある言葉を耳にして、俺は固まってしまう。
まさかと思うのだが、まだ確証はない。父さんの話にしっかりと耳を傾ける。
「緑の神様はこの町を一生守っていかなくてはならない。ここの狭い世界で生きることしか許されないんだ。そして……」
その言葉は、俺の予想を確信に変えてしまう。
「今の緑の神様は、惺くん」
サトが今の緑の神様?
なんだか、頭が混乱しそうだ。
だけど、一つよく分かったことがある。
どうしてサトがこの町から出ようとしなかったのか……いや、出れなかったのか。
「惺くんはこの町から一生出れないんだよ。そして彼がこの町から出た瞬間、この町に闇が訪れる」
「闇?それってどんなもの?」
「よくは分からないけど……大変なことが起きるのは確かだよ」
父さんは明確なものは分からないと、その闇については多くは語ってくれなかった。
でも、なんとなく分かった。語ってくれないと言うことは、それほど大変なことが起こると言うことだ。大きな災いが来ると言うこと……。
「分かった。じゃあサトは一生此処から出られないと……」
父さんは俺の目をしっかり見て、強く強くそうだと訴えてくる。
「……それだったら」
一階言葉を切って、大きく深呼吸する。
次の俺が言う言葉は、とても大きな決意だったから。
「……それだったら、俺がこの町に住む。こっちに引っ越してきて、サトと一緒にいる」
「何言ってるんだ!!」
「そうよっっ!!こんなところにいたら、和幸までもがっっ!!」
父さんと母さんは凄い勢いで怒声を出す。でもそんなのどうでもよかった。
ただ俺は、サトの傍にいたくて、サトに寂しい思いをさせたくない。
それはいけないことなの?そう目で訴えても両親の怒りは収まらなかった。
だけど、ばーちゃんは俺に反論せず、ただ俺達を見守っていてくれた。ニコッと笑って自分のしたいことをしなさい。そう語ってるような気がした。
「俺は、此処にサトを一人しておくことなんてできないっっ!!」
その言葉の意味を両親は覚ったのだろう。呆然とした目で俺を見ている。
「和幸。お前………」
───そう。俺はサトが好き……。
でもこの想いを今、両親に言うわけにはいかない。
だって、まだサトに伝えていない。その気持ちを本人以外伝えるまでは、言うわけにはいかない。
「父さん、母さん、ばーちゃん。そして、じーちゃん。サトの所に行ってくるっ!!」
「ちょっちょっと、待ちなさい!!」
両親の声を聞かずに、俺は急いでサトの所へ向かった。
どこにいるかって?
そんなの分からないし、サトの家の場所なんて知らない。
唯一、俺に分かるのは、サトが行きそうな場所───『クローバー畑』
そこにサトがいると願いながら、俺は走る。