第12話「俺とばーちゃんの恋の話」
「祠?真っ二つに割れた祠が見える」
俺は呆然と答えた。
この祠さっき見た祠と似てる気がする。暗い場所にあるからはっきり断言できない。
なぜこんな蔵の中に神様が祭る場所があるの?しかも、真っ二つになってるってことは罰が当たるんじゃないの?
ぞっと体に寒気がした。
「もう一回聞くぞ。その中には祠が見えるんだな?真っ二つの割れた?」
しつこい父さんに俺は大声で答えた。
「そう!!真っ二つに割れた祠が見えるっって言ってるじゃんっ!!」
「分かった。ありがとう……。こうなったからには和幸にちゃんと話さないといけませんよね?義母さん……」
父さんは悲しそうにばーちゃんに呟いた。そしてばーちゃんも泣きそうな目で言った。
「そうだねぇ、凌さん。後、美代子にちゃんとついてもらわないと……」
「はい。私が美代子さんを説得します」
話がどんどん進んでいく。まるで俺だけが取り残されたかのように……。
「どうゆうこと?父さんっばーちゃんっっ」
俺は必至に父さんとばーちゃんに訊こうとする。
「ちょっと待ってくれ。この話は明日だ。美代子さんが落ち着いたら……。それまで待っていてくれ」
「父さん!?」
父さんは走って、俺から逃げてしまった。
「父さん……」
「大丈夫。凌さんはちょっと驚いているだけ。きっと明日には……」
ばーちゃんは優しく笑ってくれた。俺を励ますように背中を擦ってくれた。
「ばーちゃん。ありがとう」
うんとばーちゃんは頷いた。
「ご飯食べてお風呂はいったら、今日はばーちゃんと寝てくれる?ばーちゃん、いつも一人で寂しいもんでね」
「うん。分かった」
これはばーちゃんの愛情なんだ。意地悪するけど、こうゆうとき優しくしてくれるばーちゃん、俺はとても好きだ。
* * *
「ばーちゃんは、ずっとここに住んでいるの?」
布団に入りながら、俺からばーちゃんにいろいろ質問している。
「そうゆうことになるか……ずっとじーさんと一緒だから」
「じゃあ。幼馴染?」
「そう」
いつの間にかばーちゃんの恋バナになっていた。ばーちゃんの顔がうっすら赤くなっている様な……気がする。
窓から星の光が俺達を照らしている。
「ばーちゃん、ここは星が綺麗だね。星たちがみんな輝いている……」
「そうだねぇ……」
ばーちゃんは窓の星を見ながら、目を眇めた。
「ばーちゃん、はどうしてじーちゃんを好きなったの?」
「えぇ?」
驚いたようにばーちゃんは目を見開く。
「なんとなく聞きたくなって……」
「カッコいいところかな?正義感が強くて、何事も負けないっていう勢いがあったところ」
「じーちゃんって、凄かったんだね……」
「そうだよ、じーちゃんは凄かった」
ばーちゃんはじーちゃんとの思い出を思い返しているのか、うっすらと涙を浮かべている。
星の光りで、はっきりと涙が見えた。
「もしかしてカズちゃんは今、恋をしている?」
「えぇっっ!?」
布団に入っていた俺は、思わず布団を蹴り飛ばして起き上がってしまった。
「しいーーみんな、寝てる」
「ごめん、ばーちゃん」
俺はまた布団を元に戻して、寝る態勢に入った。
「………」
さっきのばーちゃんの発言に答えるのが怖くて何も話すことができない。
「もし、カズちゃんが誰かを好きになったのなら、それは素敵なことだとばーちゃんは思うよ?」
「でも、もしそれが同性だったらばーちゃんはどうする?」
すんなり心配事を俺の口から言うことができた。
ばーちゃんは経験豊富だから聞いてみたかった。困ってしまう質問でも、無理矢理にでも、聞いてみたかった。
これは訊くことではないと分かっていても、俺の中に困惑があったから、それを取り除いて欲しかった。
「カズちゃんが好きなのは、惺くんだね?」
俺の気持ちはばーちゃんにバレバレだったみたい。恥ずかしいけどコクコクと頷いた。
「惺くんのどんな所がカズちゃんは好き?」
サトのどんな所が好き?
俺は頭の中を回転させる。
サトのどんな所が好き?
───それは、いつも本を読んでいる姿がかっこよくて、この辺のことが詳しくて……意地悪の所もあるけど、本当はとても優しい…。
寂しがりな所があって、ほっとけなくなるし、初々しい所がとても可愛くて……。
考えだしたら止まらないほど、サトの好きなところはたくさんある。
そう話すと優しい笑みでばーちゃんは言った。
「私は性別なんて関係ないと思うけどね……」
その言葉が俺をどんなに安心させたのだろうか?
いつの間にか、安堵して俺は寝ていた。
『カズちゃんを、爺さんと同じ運命にはさせたくないから。だからごめんね……』
そんなばーちゃんの声を、夢の中で聞いた気がした。
3日目終了。