第11話「恋と悲しみの始まり」
「あれ?この祠、前にもあったっけ?」
クローバー畑からの帰り道。古そうな祠を見つけた。
昨日もさっきも通ったこの道に祠なんてあったかな?周りをしっかり見ていなかったから、気付かなかっただけか……。
サトは小さな声で話し始めた。
「……これは緑の神様って言うんだ」
「緑の神様?」
サトが詳しく説明してくれる。
「うん。この地区の神様。緑を守ってくれるんだって。その他にも、もう一人の神様を見守るためにここにいるって聞いたことがある」
「もう一人の神様?」
「緑の神様だけじゃ、自然を守れないから、人間にも神様の称号を授けるんだって」
「へぇーサトって詳しいね」
「ここにずっと住んでいるから。それぐらいわね」
サトはなぜか自嘲気味に笑った。もういつもの草むらに着いていたのだ。
「やだなぁ〜帰りたくない」
俺が溜息交じりにそう呟く。これではまるで昨日とは立場が逆だ。
「俺だって帰りたくない。カズといたいけど……明後日ちょっとだけ会えるから、それを楽しみに待つ」
サトが大人っぽく見えた。
「うんわかった」
つい拗ねたくなってしまった。そんな姿を見たサトは少し屈んで俺に背を合わせた。
「しょうがない」
「えぇ?」
突然サトの顔が近付いてきた。
「えぇ…ひゃっっ」
奇声を上げてしまった。サトが俺のほっぺにキスしたからだ。
「なっなっなにするん??サトォーーー!!」
べしべしとサトの背中を叩く。
「カズってこうゆうの駄目な人?」
上目遣い見られたらドキューンとっ心臓が……心臓が…っ!!固まりそうになりましたよぉっ。
「サト!!」
怒るとサトは楽しそうに笑っていた。やっぱりSだぁ……と、睨んでも効力なし。
逆にもっと楽しそうに、それも”ニコニコ”と笑っている。
「じゃあまた。カズッ」
「うん。サト、またね」
昨日と同じように俺達は、互いが見えなくなるまで手を振った。
これは認めてしまっていいのかな?
───俺達、恋人……?
言葉にしなくても伝わったのかな?だって、サトほっぺにキスしてくれたし、俺の気持ちはバレテいると思う……。
もし伝わっていなかったら、明後日伝えよう。きっと最後になるだろうし……。
寂しい気持ちを抑えながら、俺は家への道を歩いた。
* * *
「明日、お父さんのお墓参りしたら帰りますっっ」
家に帰った途端、母さんの叫び声が俺の耳に入ってきた。
「どうしたの?母さん」
「ちょっちょっとね。美代子さん!!和幸帰ってきたよ」
父さんが必死に母さんを止めようとしている。
「えぇっっ!!和幸?!」
俺の名前を聞いて瞬間、母さんは俺を見て凄い血相を変えて近づいてきた。
「和幸!!何もない?具合は悪くない??」
「う…うんっ。だっ大丈夫だけど……」
母さんの勢いに押されて、ちょっと控え目な感じになってしまった。俺の言葉に母さんは安堵し、雪崩のように崩れて行った。
「大丈夫、母さん……」
俺より自分こと心配した方がいいと思う……。
「母さん一体どうしたの?」って父さんに目を向けると、こっちにおいでと俺に手招きをする。
父さんの後をついて行く。一旦外に出て、家の裏に回った。
「ここは何?」
目の前に大きな蔵がある。
「これは生前、義父さんが建てた蔵だ。義父さんの大切なものがあるんだよ」
なぜおじいちゃんのこと、父さんは詳しいのだろう?義理の父なのに……しかも何年も会ってないはずなのに、どうして?
父さんは蔵の鍵を鍵穴に差し込む。古い鍵なのか、ギシギシと音を立てながら鍵を回している。
ガシャッ
どうやら開いたみたいだ。
「待ちなさい」
後ろからばーちゃんが、俺の腕を弱々しく掴んだ。
「ばーちゃん?」
さっきまでどこにもいなかったばーちゃんが、なんでここにいるのかな?
「凌さん。カズちゃんには、『あの事』伝えた?」
父さんはゆっくりと首を横に振る。
「いいえ、まだ伝えていません。まずはこれを見てもらってから言いたいと思うのです」
「でもそんなことすれば、じーさんがやってきたことが泡になる。それでも凌さんはいいですか?」
いったい、一体何の話をしているの?
俺には理解できない。
「義父さんには悪いと思います。でも今の状況を和幸に言っとかなければいけないと思うのです。これからも惺くんと関わると言うことなら……」
なんで、ここでサトの話になるんだろう?
不安そうに父さんの服の裾を握った。
それに気付いた父さんは、俺の頭を優しく撫でる。
「和幸、いいか。今からこの蔵を開ける。そこで何を見たか、父さんに教えてくれ。いいな」
真剣な目の父さん。漬物を無理やり押し付けてきた父さんの顔ではなく、とても重要なことをしようとしている、俺に何かを教えようとしている父親の顔。
「うん。分かった」
父さん扉に手を掛けてゆっくりと開ける。ギギギギと扉が音を立てる。
俺は扉の中を、じっと目を凝らしてみる。
蔵の中に見えたものは───?