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第二部2  『同僚』

けつの締まりが悪い話だな」


 MI2開発部門の主任を兼任するジェフリー・リュエリンが、食堂で注文した野菜が大量に挟まったバケット型のサンドウィッチを頬張りながら喋っていた。ジェフに言わせれば、サブウェイのサンドウィッチを数段落ちた味だそうだ。


「食べてから話せ」


 伊里谷は呆れながらに答える。彼とのこういったやり取りは今に始まったことではない。


 ジェフリーリュエリンは、短く切りそろえた黒髪で2枚目な俳優を髣髴させる好青年な出で立ちだった。おまけに名家の出身で名門大学を出た典型的なエリートである。若くして開発部門の主任を任されているだけに上層部はもちろんの事、開発部からも信頼されている男であった。イスタンブールでの作戦でも彼が装備品のアドバイザーとして作戦にも参加していた。だが、この男にあるのはそれだけ・・・・だった。


 品のなさ以外は恵まれているだけに、なおのこと彼のタチの悪さが目立っている印象だった。


 ただ、現場ばかり出ている伊里谷とは何故か昔から気が合っていた。二人で昼食を摂ることも少なくなかった。今ふたりは食堂でたまたま鉢合わせし互いに遅い昼食を摂っていた。


 伊里谷は叉燒油雞飯チャーシューヤゥガイファンと呼ばれる煮込んだ鶏肉を醤油で味付けしたご飯物を食べていた。傍から見れば、男ふたりが手軽な洋食とガッツリした中華を並んで食べているのは異様な光景だったが、二人はその事は気にしていない様子だった


 先日のイスタンブールでの装備品は、このジェフのチームが開発したものが少なくない。他の諜報員エージェントに比べて、伊里谷が毎回、新兵器と評して妙な装備品を渡される理由はだいたいこの男が原因だった。


「正直な話、俺が日本に行くのも釈然としてないんだ。最近、女が出来てな。そいつに何て言うか考えてるんだ」


「お前に相談したのが間違いだった」


 伊里谷は呆れながら答える。ジェフは返答を聞いて肩をすくめる。


「哀しいな。お前に渡した装備品にいくら掛かったと思ってる。日本でも俺の世話になるのは分かりきっているなら俺には恩を売ったほうがいいぞ」


「俺は、お前から装備が欲しいなんて一言も言っていないぞ。毎回、妙なモノを渡される気持ちを考えたらどうだ」


 ジェフは笑った。伊里谷は怪訝な様子で自分の腕に付けた時計を見ていた。先日のイスタンブールでの作戦の際に渡された物だった。映像をAR状に映し出す試作品だった。だが、正直なところ写したところで、映像の解像度は低く、改善が見込まれる代物だった。また伊里谷からしてみれば、ARになったところで何の利点があるのかも想像付かなかったが、この男に聞いたところでまともな回答が出るとも思えず、そのことにはただ黙っていた。


「お前に渡した、その時計は中々のものだと思ったんだがな」


 ジェフは少し落ち込むように肩を落とすが、これもいつもの飄々とした態度の表れだった。


「仮にそうだとしても、他はロクでもないばかりだ」


 思い出していくとロクなものはない。思い出すだけでも宙に浮くジェットパックや多機能スーツケースと評して、機能を入れすぎて使い勝手が悪くなってしまったりと良い思い出が全くない。また、それを開発部門の資金で開発しているとなると頭の痛い話だった。


「それに引き替え嬢ちゃんクロエは俺の装備品をきちんと使いこなしてくれて好感が持てるね。お前も見習ったほうがいいぞ。ああいう子こそ俺の理念を理解を示してくれるってもんだ」


 伊里谷は「何も思っていないと思うぞ」と言い掛けたが、喉の奥で押しとどめた。伊里谷は話を本題に移していく。


「実のところ彼女とうまくやっていける自信が俺にはない。局長や中佐は聞く耳を持たずだ」


 伊里谷の真剣な話にジェフは切り替えるように表情が真剣になっていく。


「コーヒー飲むか?」


 伊里谷は首を横に振る。ジェフはサンドウィッチを食べ終わると、今度は食堂から淹れてある職員の間で不味いと評判のコーヒーを持ってきた。ジェフはひとくち飲み顔をしかめながら話を続ける。


「関係に不満か?」

 

 ジェフは簡潔に伊里谷に質問した。


「自分に人の面倒を見る余裕がないと言いたいだけだ。もっと適任がいるんじゃないあか」


 伊里谷の話を聞いたジェフは眼を伊里谷に向けて話し始める。


嬢ちゃんクロエと一緒にやっていかなくちゃならん、それがお前の仕事の一つだ。ならお前が変わるか、嬢ちゃんクロエが変わるしかない。ふたりで上手くやらないと互いが危険に晒され続ける」


「それは、分かってはいるが・・・・・・」


 伊里谷は先日のイスタンブールでのことを思い出した。


 透明人間インビジブルと遭遇し殺されかけた瞬間、彼女クロエに助けられた。それは紛れも無い事実だし彼女が助けてくれなかったら今頃、ジェフとこんな形で昼食を摂ることも出来なかった。


「本人に話してみればいいじゃないか。互いを許容するところから始めるんだ」


 伊里谷は内心気乗りがしなかった。クロエとは先日のイスタンブールでの件で話しづらかった。逡巡した様子で決めあぐねている伊里谷の様子を見かねたジェフは提案した。


「少し付き合え」


「どこに行く?」


 伊里谷は顔をしかめる。ジェフは何言ってるんだといった表情をしていた。


「向こう見ずに行くのは嫌だとか、お前の理由なんてそんな事だろ?」


 ジェフの言葉は、付き合いがあるため、伊里谷の考えていることなどお見通しといった態度であった。


嬢ちゃんクロエならさっき見かけたんだ」


 ジェフは、不味いコーヒーを飲み干して食器を持って立ち上がる。伊里谷も立ち上がり食器をカウンターに返して返却口まで歩いていく。クロエの行きそうなところなど皆目見当も付かなかったので、ジェフに任せるしかなかった。


「分かったよ。彼女のとこまで案内してくれ」


「いいね、お前のそう言うところ好きだぜ」


 ジェフは嬉しそうに伊里谷を連れて案内を始めた。

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