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第五部3  『遊戯』

 伊里谷たちは階段を上り、廃墟内を確認するも人影はなかった。


 伊里谷は、銃を構えて進んでいくと、クロエが数十メートル先に立ち尽くしていた。立っているのもやっとで、どこか虚ろで危うい雰囲気だった。


「お、おい、大丈夫か!?」


 伊里谷は驚いた様子でクロエに投げかけるが返答はなかった。明らかにマズい状況だった。透明人間インビジブルが彼女に何かしたのは明白だった。

 

 あきらもクロエの様子を見て驚いていた。伊里谷は銃を閉まってクロエの元までゆっくりと向かっていく。


「クロエを発見した。これから確保する」


<どういうことだ。透明人間インビジブルから逃げ出せたのか>


「不明だ。ただ、彼女の様子がおかしい」


 伊里谷の頭の中では罠だと言う声が鳴り響いていた。何とか意識をすぐに目の前に戻す。


「無駄だよ。彼女はいま悩んでいるんだ」


 声がした方を振り向くと透明人間インビジブルが廃墟の中から出てきた。


 透明人間インビジブルは、笑みを浮かべながら立ち尽くしているクロエを見ていた。あきらは表情が強張った。


 伊里谷は発砲は控えた。この男に銃弾が効果があるとは思えないし、攻撃をしてこないと言うことは何か意図があってのことだと思ったからであった。透明人間インビジブルの手下も伊里谷たちを取り囲むように現れる。全員が銃を構えていた。


「貴様の下らん問答に付き合う気はない。彼女に何をした!?」


 伊里谷の言葉に透明人間インビジブルは首を横に振る。


「何もしていない。いや、手を貸したと言う意味では関わっているのかな」


 透明人間の言葉に伊里谷は、焦る気持ちを抑える。いまこの場で彼女を助けることは出来ないが何とか打開策を考えなければならなかった。


「付いて来て欲しい。私の遊びに付き合って欲しいんだ」


 透明人間インビジブルの部下が銃をちらつかせ案内されるがままに移動していく。

 

 また、伊里谷に対して額に付けていた小型カメラを外すようにと透明人間インビジブルは指示をした。逆らったところでどうにかなる問題ではなかった。伊里谷は透明人間インビジブルの指示に従いカメラを外した。


 伊里谷は、不安げな様子のあきらに目配せをする。二人は島の中央まで案内された。あきらは、乱暴こそされていないものの透明人間インビジブルの部下に取り押さえられているような状態だった。クロエを中心にある石柱に縛ると透明人間インビジブルは笑みを浮かべた。


「飲むかい」


 透明人間インビジブルは空のグラスにウイスキーを注いでいた。


 伊里谷にも飲ませる気なのか、もう一方のグラスにも注いでいた。伊里谷は透明人間インビジブルの行動に顔をしかめた。注いだグラスのウイスキーを飲み始める。


「安心しろ。毒を入れる気にもならん代物だ。ジョニーウォーカーのブルーだよ。幾ら何でも勿体ないだろう。理由としてはこれで充分かな」


 透明人間インビジブルは何が可笑しいのかひとりで笑っていた。


「酒を飲まないのなら分からんか」


 透明人間インビジブルは肩をすくめて、注いだウイスキーのグラスを縛られたクロエのもとまで歩いていく。


「遊びは単純なほど奥が深い」


 グラスを意識のないクロエの頭に器用に乗せた。透明人間インビジブルは、伊里谷の方まで戻ってくると彼に銃を渡した。


 古い銃だった。いわゆるオートマチックでもリボルバーの類でもない数世紀前のタイプの銃。いわゆるマスケット銃と呼ばれるものだった。完全に骨董品の世界の品だった。


「先に彼女の頭に乗ったグラスを撃ち抜いた方が勝ちだ。分かりやすいだろ?」


 透明人間インビジブルの挑発に伊里谷は舌を噛みしめる。骨董品の品のような銃を取れと言わんばかりな様子で透明人間インビジブルは伊里谷を見ていた。


 伊里谷は銃を取り上げる。重い撃鉄下げて銃をクロエに構える。


 伊里谷の周りには透明人間インビジブルの部下が、伊里谷に対して銃を構えていた。


 伊里谷が、何か不審な動きをした時点で、先に自分が撃ち抜かれることは分かりきっていた。


「手が震えているね。緊張かもしくは」


 透明人間インビジブルの挑発に黙れと言いたかった。そんな状況ではないと思いつつ伊里谷は震える手で発砲。クロエの頭から少し逸れて着弾した。


「残念だ。次は私の番だ」


 そう言って透明人間インビジブルは伊里谷から銃を奪って素早く手慣れた手つきで構えた。伊里谷が息を飲むよりも前に発砲。


 一瞬で、クロエの頭を撃ち抜いた。


「ふむ、私の負けか」


 透明人間インビジブルの声は伊里谷の耳に入らなかった。クロエの頭がただれて、頭部から大量の出血が見て取れた。誰が見ても致命傷なのは明らかだった。


「・・・・・・貴様っ」


 伊里谷は何とか肺に力を入れて声を絞り出した。透明人間インビジブルの顔は笑っていた。本当にゲームを遊んでいる子供のような笑顔だった。


「次はどうしようか。そこのお嬢さんでどうだい?」


 透明人間インビジブルはあきらの方を見て笑った。あきらは怯えた様子で伊里谷を見た。


<姿勢を低くしなさい>


 瞬間、伊里谷のイヤホンに通信が入った。女の声だ。伊里谷は、反射的に身体が動き、行動を起こした。


「伏せろっ!」


 伊里谷は大声であきらに声を掛ける。それと同時に透明人間インビジブルの部下が突然倒れた。遠くから乾いた発砲音が聞こえた。


 狙撃用のライフルの音だった。


 戸惑う透明人間インビジブルたちに一瞬の隙を突いて、伊里谷は銃を構えていた男と格闘し、男から銃を奪い発砲。急所を狙い、男は呻く間もなく倒れた。


「夏目っ」


 伊里谷の声に気付いたあきらが走ってくる。


 伊里谷は彼女を身を低くするよう指示しながら狙撃手の邪魔に入らないよう逃げていく。イヤホンにジェフから通信が入った。


<狙撃手は局長の手配だ。今は何も考えずに海岸まで来い。お前たちを回収する>


「クロエが、透明人間インビジブルに撃たれて致命傷だ。早く何とかしないと」


<クソッたれッ!>


 伊里谷はあきらを浜辺まで連れていく。それと合わせるようにジェフと霧絵が乗ったボートが海岸まで到着するような様子だった。


「クロエはっ」


 霧絵は声を荒げた。


「まだ島の中だ。今は彼女の保護をっ」


 伊里谷はあきらを二人に託した。二人は何とか伊里谷の要求に頷く。


「伊里谷くん、聞いてっ!」


 あきらの声に伊里谷は振り返る。


「お願い、彼女を助けて・・・・・・」


 あきらは、それだけの言葉を投げかけた。伊里谷はただ黙って頷き、そのまま島の中央まで戻っていく。それと同時に三人を乗せたボートは島から離れていった。



                △▼△▼△▼△



 伊里谷は銃を構えながら島の奥へと進んでいく。


(奴は何処だ)


 伊里谷は内心焦っていた。クロエを早く助けないといけないにも関わらず、いまだに 自分はクロエを撃った、あの男への怒りがこみ上げていた。


 冷静にならなければいけないのは頭では分かっていても、それを身体に染み込ませていくのは並大抵のことではない。透明人間インビジブルは殺す。伊里谷は決心した。


 狙撃された透明人間インビジブルの手下の死体が倒れていた


 透明人間インビジブルはクロエの側に立っていた。まるでヘリに乗った狙撃手に対して挑発しているような様子だった。


 伊里谷は構わず発砲。透明人間インビジブルは、最初から分かっていたかのように銃の射線に入らないよう動いていく。


「逃がすかっ」


 伊里谷の怒号から合わせるように、透明人間インビジブルは島の内部に逃げようとした。


 ヘリに乗った狙撃手が透明人間インビジブルに発砲。左肩を撃たれるような形で透明人間インビジブルは体勢を崩す。


 奴にとっていくら致命傷にはならないとはいえ、人間をライフルで狙撃すれば、一溜まりもない代物だ。文字通り肩で息するように透明人間インビジブルは逃げていく。


 伊里谷は耐え耐えながら逃げていく透明人間インビジブルに発砲。右脚に着弾し膝から倒れるような形で透明人間インビジブルは両手両足を地面に付いていた。治癒能力があるとは言え、ここまで撃ち込めば、すぐに回復しないのは把握していた。


 伊里谷も身体中の痛みに耐えながら透明人間インビジブルの元まで歩いていく。


「組織任せの男が、ここに来て男を見せる時が来たようだ。女の前では良い格好を見せたいのかな」


「黙れ、貴様を連行する。ただで済むと思うな」


 透明人間インビジブルは心底、可笑しそうに両手を挙げて、それ以上は抵抗しなかった。狙撃手を乗せたヘリが透明人間に狙いを定めつつ降りてくる。知らない部隊だった。


 伊里谷は透明人間インビジブルの対応は彼らに任せると、クロエのところまで走っていく。


 伊里谷はすぐに救護の連絡を入れようとしたが思いとどまった。クロエの傷は深かったはずだ。それなのに、今の彼女の傷は血痕の跡は残っているものの傷が塞がっているような状況だった。クロエの眼がうっすらとだが見開いていく。


「なんて顔をしてる、馬鹿者」


 息も絶え絶えだったが、それは紛れもなくクロエの声だった。伊里谷は自分の起こった状況に上手く理解できなかった。こんなこと普通じゃなかった。


「だ、大丈夫なのか?」


 伊里谷の取り乱した声にクロエは叱責するような声を投げる。


「無事ではないが、お前と喋れる程度には大丈夫だ」


 クロエの声に伊里谷は安堵する。


 今、理解出来ないことが起こったとしても、それでも彼女は生きている。ただ、それだけで良かった。伊里谷はすぐに通信を入れて救護の要請を行った。

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