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第五部2  『潜入』

 伊里谷はボートで孤島に近づくと、潜水用の装備を身につけていく。潜水用と言っても一般的なダイバースーツだ。事前、準備などほとんど出来ない状況の中での精一杯の装備である。途中、ボートを捨てるような形で海に潜っていく。ここから島までは泳ぎだ。


 伊里谷は孤島からは見えない距離から海に潜っていく。


 装備を少ない状態で、島まで向かっていくが、それでも海の中だと装備は重かった。それでも今までの訓練に比べれば、楽だった。


 浅瀬に着くと、ダイビング用のスーツに重しを付けて浅瀬に綺麗に隠れるように水に浸していく。銃をいつでも撃てるように浅く構えながら、島の奥に向かっていく。


「聞こえるか?」


 伊里谷は無線で霧絵とジェフに繋げる。


<聞こえてる・・・・・・連中は?>


 霧絵の声だった。おそらく後ろにジェフも控えているのだろう。


「静かだ。警備は、おそらく殆どいない」


 伊里谷の言葉に、今度はジェフが応答する。


<今、その島のスキャンしたデータを確認しているが、一カ所だけ不自然な箇所がある。そこだけ頻繁に人の出入りがあるのか獣道しては綺麗に通りやすい道がある。もちろん一般立ち入り禁止にも関わらずだ>


「そこに透明人間インビジブルがいるのか?」


<分からないが、罠の可能性もある。そこから正面に入るのは避けろ>


「データで送ってくれ」


 伊里谷の言葉と同時に腕時計が振動で震える。時計見るとホログラムで映し出された島のデータが映し出されていた。伊里谷は岩陰に隠れてジェフから送られてきたデータを確認する。


<そこから見えるか?>


 ジェフの言葉に、伊里谷は否定した。


「駄目だ。岩陰が多すぎる。ここから歩かないと、まだ確認出来ない」


<後で連絡をくれ。これから、あんたの眼になってやる>


 伊里谷は頭に取り付けていた小型カメラの電源を起動する。ジェフがパソコンから映像を確認できるようにした。


<視界は良好だ。もし敵を見つけたらマーキングしてやる。コンタクトの調子はどうだ?>


 伊里谷はジェフの言葉に頷く。ジェフに事前に渡されたARコンタクトレンズから敵の位置を把握出来るという代物だった。マーキングとは言葉の通り、伊里谷が敵を発見した場合、ジェフの操作で、視認した相手に発信器を取り付ける要領で、相手を視覚化出来る代物だった。伊里谷の目の前には、AR状のホログラムが浮き出ており、既に目的地である建物までの距離も算出されていた。


「動作に問題ない。このまま任務を続ける」


 伊里谷は手短に答えてジェフの通信を切る。今度は霧絵から通信が入る。


<伊里谷、ごめんなさい。こんなことしか言えないけど、気をつけて・・・・・・>


 伊里谷は、微かに聞こえる肯定の言葉を放って、霧絵からの通信も切った。銃を軽く構えて島の中に侵入していく。



                △▼△▼△▼△



<日本にも、こんな場所があるんだな>


 通信先からジェフの声が聞こえていた。伊里谷は何も答えずジェフの話を聞いていた。


 人が住むのを止めて久しい街並みなようだった。観光地になっているとは言え廃墟だ。ほとんどの場所に人の出入りなんてあるとは思えない場所で、建物のあちこちに立ち入り禁止の看板が立っていた。


 透明人間インビジブルの姿はおろか奴の部下の姿も見えない。伊里谷は息を飲んだ。透明人間インビジブルは誘っているのだ。クロエや夏目あきらを返してもらいたければ、私のところに来るのだと言わんばかりに。焦る伊里谷を余所にこの島はいつもの静けさを保ち続けていた。


 ただでさえ不利な状況だった。もし、仮に救出出来たとしても、二人とも歩ける状態でないなら作戦は困難極まるからだった。


<大丈夫か?>


 ジェフの無線の音声で我に返る。一人で考えにふけるとロクなことがない。伊里谷は、気持ちを引き締めていく。


<彼女たちがいるのはその先だ。どこかに下に降りる。そうだな、階段かハシゴなんてのはないか?>


 伊里谷は神経を張り詰めていく。


「了解だ。探してみる」


 伊里谷は銃を構えて、周囲を警戒しながら、廃墟の中を進んでいく。少し進むと、一箇所ホコリが不自然に溜まっていない床を確認が出来た。恐る恐る床に耳を澄ませると、中から空洞音が聞こえていた。おそらくジェフの話していた、階段だろう。


「ジェフ、聞こえるか」


<ああ、よく聞こえるよ>


「先ほど、話していた地下行きの階段らしきものを見つけた。これから、降りてみる」


<その先に誰かいる。衛星通信ドローンの映像じゃ誰かそこから入っている映像が映ってた。動けない少女を連れてだ。カメラじゃ誰かまでは判別出来ない。その映像が三時間前のようだ>


 伊里谷は、地下の階段を降りていく。音が出ないようにゆっくりと動いていく。


 階段はあまり長くなかった。伊里谷は、終着点まで着いた。


 まるで、薄暗い地下道のようだった。透明人間インビジブルがここで何をしているかなんて想像も付かなかった。地下の中は照明が付いているのか、階段とは打って変わって明るい様子だった。


 この部屋は、地下室全体が見渡せる作りになっていた。誰もいない様子だったが、伊里谷は銃を構えながら部屋の中を進んでいく。


 地下室には大量のコンピューター、それも業務用と思われる物が並べられていた。まだ肌寒い時期にも関わらず、この室内は異常に熱かった。


「奴はここで何をしてるんだ?」


 伊里谷の声にジェフは頷いた。


<分からん。奴の目的は未だに謎だ。ここのデータベースのせいで俺たちの顔が割れているだろうな。それに、俺たちだけじゃない。各国の主要人物の情報だって、ここから割れているだろうな。舐められたもんだ>


 ジェフは通信口から愚痴をこぼす。伊里谷も肯定した。


「見えるか?」


 伊里谷の声にジェフが頷く。


<あれは何だ>


 部屋の隅に男のような物影が見えた。透明人間インビジブルかは分からなかったが、自分の姿を見られて伊里谷は焦った。


「奴を追う」


「気をつけろ」というジェフの声を聞く前に通信切る。伊里谷は男を追いかける。


 伊里谷の動きに合わせるかのように影は部屋の奥へと逃げていく。まるで亡霊だった。


(ふざけるなっ・・・・・・)


 伊里谷は内心、毒突く。


 今、こんな事をしている場合じゃない。こんな所で足留めを食うわけにはいかなかった。


 影は逃げつつも、何処か挑発するような様子で、定期的に伊里谷の様子を確認するよう後を振り向いているようだった。銃を構えて発砲したかったが、相手の正体が分からないまでは下手に撃ちたくなかった。


 その内に影を見失ってしまった。コンタクトに送られる視認マーカーによると影は動き続けているようだったが、壁に遮られて影は何処に向かっているのか見当も付かなかった。


「マズい。見失った」


<視認出来ないか>


 ジェフから通信が入るが、伊里谷は否定した。


「駄目だ。マーカーで動いているのは確認出来ているが、何処に向かっているのか検討も付かない」


<何か音も聞こえないか?>


 ジェフの声に伊里谷は否定した。


「駄目だ。先程から足音も聞こえない。奴も走っていたはずだ」


<クソッ!>


 ジェフから苛立ちの声が聞こえた。


 伊里谷は通信を切ってゆっくり歩いて進んでいく。銃を取り出し何時でも影が動いてきた時に撃てるよう構える。


 パソコンの電源に使っているのであろう電源コードが何重にも連なって奥の部屋に案内するように伊里谷を誘い込んでいた。


 部屋の奥に進み、扉を開けると夏目あきらが椅子に縛られていた。


 あの影は消えていた。影の正体を掴みたかったが今はあきらの無事を確認することが最優先だった。


 あきらは助けに来た伊里谷の姿に驚いている様子だったが、すぐには声が出ない様子だった。


「な、何でっ・・・・・・」


「喋るな。助けに来た」


 伊里谷は銃を下ろして縄で縛られていた彼女を解いていく。あきらは安心しつつも不安は拭いきれていない様子だった。おそらく透明人間インビジブルが近くにいるのだろうと理解した。


「クロエを見かけたか? 見たなら頷くんだ」


 伊里谷の言葉にあきらは頷く。伊里谷は、あきらに掛かった縄を解くと無線を入れた。


目標ターゲットを確保した。残りの一名も捜索する」


<クロエはいないのね>


「そうだ。おそらく別の部屋にいるはずだ」


<了解。今からそちらに向かうわ>


「頼む」と伊里谷は答えると、そのまま通信を切った。


「歩けるか」


 伊里谷の言葉に頷くあきら。ゆっくりと立ち上がっていく。


「これから俺はクロエも探す。君は連中の眼に付かないところまで連れていく。後は、俺の仲間が確保する」


 あきらの身体を支えながら、出口まで歩いてく。敵が出てくる様子はない。


「貴方は何者なの・・・・・・」


 あきらの言葉に伊里谷は何も答えない。そのまま質問を無視して出口まで歩いていく。


「君を助ける。この言葉は本当だ。だが今は危険な状況だ。静かにしててくれ」


 あきらは頷く。不安だが、今は伊里谷の言葉を信じるしか術はなかった。


 短かい会話が終わり、お互い無言になりながらも、伊里谷は銃を構えながら出口まで向かっていく。未だに敵の気配が感じられない。明らかに不味い状況だった。自分たちが侵入することなど最初から分かっているような状況だった。


<罠だな>


 ジェフの重い声が伊里谷の耳に入る。


「分かりきっていたことだ。もうすぐ外に出る。海岸まで来れそうか」


<ああ、あと数十分もすれば到着する。彼女を海岸まで案内してくれ>


「了解だ。また連絡する。頼むぞ」


 伊里谷はジェフへの通信を切ってあきらに声を掛ける。


「これから何があっても前を歩き続けろ。これから仲間が乗ったボートが海岸に到着する。ボートにすぐ乗るんだ」


 伊里谷の強い口調に、あきらは頷いた。あきらは、自分を拘束していた、あの男が言った言葉などどうでも良かった。今は伊里谷が助けてくれている。それは事実なのだ。彼は真剣な眼差しで自分とクロエの身を案じてくれているのだったからだ。

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