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第四部8  『姉妹』

 建物の外に出ると日照りが強かった。人気のないところに連れて来られたのだろうくらいは見当はしていたが、人は誰一人もいなかった。


 無理もなかった。周囲の建物はひどく風化し今にも崩れそうなのだったからだ。数年前に放置されたような場所ではない、まるで何十年と放置された風化具合だった。気絶している間にとんでもなく遠いところに連れてこられたような感覚だった。


「日本にもこういった場所は未だに残ってる。ここは有名な場所だがね」


「どういう意味?」


「観光地ですよ。それでもここ最近は倒壊の危険もあることから人の出入りはめっぽう減ったようですがね」


「秘密基地にはうってつけって訳ね」


 クロエの馬鹿にした口調に透明人間インビジブルは特に気にした素振りをみせなかった。


「ここから入って下さい。貴方に見せたいものがここにあります」


 透明人間インビジブルの部下がライフルの銃口で行き先を指示をする。クロエは逆らわず、そのまま大きな朽ちかけている扉に入っていく。



                △▼△▼△▼△



 中に入ると、外と同じように朽ちた内装だった。おそらく何かの部屋だったのだろうが老朽化が進みすぎてもはや何に使われていた部屋なのかも分からなかった。


「元は住んでいた人間達の宿舎だったそうです。今はまさに私の『秘密基地』ですが」


 透明人間インビジブルは可笑しそうな様子で話す。クロエは笑わなかった。


「何もないのね」


 クロエの言葉に透明人間インビジブルは否定した。


「いえ、まだ先です」


 そう言って、透明人間インビジブルは自分の部下に床を探らせると重い引き戸を開けるように地面に扉を開けさせた。扉を開けると、下に階段が続いていた。暗闇で先は見えなかった。


 透明人間インビジブルは仲間にここで待つようにと指示をしていた。ここから先は透明人間インビジブルとクロエの二人だけで行くことになるようだった。


「どうぞ」


 透明人間インビジブルに促されるまま、クロエは地下への階段を進んでいく。


「私に何を見せたいの?」


 クロエの言葉に透明人間インビジブルは少し神妙な顔つきになった。


「君が私と同じ存在か確認したくてね」


「人を殺していると言う意味では同類ね」


 クロエの皮肉に透明人間インビジブルは首を横に振る。


「人を殺している以外にも私たちには共通点があるということです」


 クロエは、透明人間インビジブルの意味不明な返答に顔をしかめつつ、階段下まで降りると、また寂れた扉があった。透明人間インビジブルが扉を開けた。


「っ・・・・・・」


 クロエは息を飲む。ただ、部屋は思っていた以上に普通の内装だった。頑丈そうなノートパソコン一台、何か大量に描き込まれたノートが数十冊テーブルに置かれているような状態だった。


「これが見せたかったもの?」


 クロエの言葉に頷く透明人間インビジブル


「君に確認してもらいたいものはこれです」


 透明人間インビジブルが、ノートパソコンの電源を入れて、画面を見せていく。クロエは画面を恐る恐る確認する。


 クロエは、画面を見た瞬間、息を飲んだ。自分がひどく動揺しているのに気付いていく。


「どうです、面白いでしょう? 貴方の仲間を探しているんですよ。何か心当たりはありませんか」


 透明人間インビジブルのノートパソコンに記載されていたのは、自分を含めた少女の記録だった。生年月日や出身国。様々な試験結果の記録が羅列されていた。


「私が先のMI6シックスへの襲撃で手に入れた物ですよ。MI6シックスでも一握りの人間しか知らない情報ですからね。他の支局にも流出させないように守っていたのでしょう」


 クロエは何も答えられなかった。透明人間インビジブルとの会話を忘れる。ただ、画面に映った自分の記録を確認している。


「通称、九姉妹ナイン・シスターズ計画とMI6シックス幹部は言っていたようです。作戦名にアーサー王物語から取ってくるなんて彼ららしいよね」


 クロエは古い記憶を思い出して嗚咽する。だが、不思議なことに自分が当時、何をされたのかまでは思い出すことが出来なかった。自分の記憶にプロテクトが掛かっているような感覚、クロエはひどく気味が悪かった。


 微かな記憶の中で自分を含めた同年代の少女たちがいたことだけは覚えていた。そして幽閉されていた簡素な白い部屋。それが今のクロエが思い出せる精一杯の記憶だった。


 クロエは、焦る気持ちで、パソコン画面をスクロールさせていく。自分以外の少女の記録を覗いていく。


「話してくれませんか、私と貴方、そしてこの姉妹たちは貴方の何なのですか?」


 透明人間インビジブルはクロエに問いただした。クロエは率直に知っていることを話した。


「分からない・・・・・・本当だ。自分もこの頃の記憶がないんだ」


 クロエの言葉に興味深そうに透明人間インビジブルは頷く。


「君の所属している組織のボスは何か知っているのかもね」


 クロエは、透明人間インビジブルの言葉にハッと理解した。 


「貴様が先代のMI6シックス局長を殺した理由って」


 透明人間インビジブルは頷く。


九姉妹ナイン・シスターズ計画を知る人物と聞いていましたからね。結局、無駄足でしたが」


 クロエは怒りで我を忘れそうになった。例え、彼女がこの件に関わっていたとしても、それは関係なかった。今の自分がいるのは彼女のお陰なのだ。クロエが透明人間インビジブルというテロリストを捕まえることに躍起になっているのはそれが理由だった。


「言葉に気をつけろ」


クロエの怒りのこもった声に透明人間インビジブルは何かを察した様子だった。


「貴方も人が良いですね。貴方が思っている以上に彼女も善人と呼べるものではなかったのですから。貴方と話してみて他の少女たちも同じ症状なのだと推測出来ましたよ。小さな前進ですがね」


「貴様は、こんな計画を知ってどうするつもりなんだ」


 クロエの言葉に透明人間インビジブルは真剣な顔で答えた。それは、とても当たり前のことを呟くような、そんな雰囲気だった。


「世界を正すためですよ」

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