第四部5 『戦場』
クロエは敵の発砲から射線と逆に動きながら、銃で発砲。撃たれた透明人間の部下が倒れていく。致命傷を負って、呻き声を挙げている。透明人間もクロエの銃撃に身を隠していた。
「くっ」
クロエは悪態をつく。あきらの命が掛かってるというのに、自分の行動の遅さに苛立ってもいた。敵から奪った銃のマガジンが空になる。クロエは銃を捨てる。クロエは腰から小さな銃を取り出す。事前にジェフから渡されたものだった。
クロエの様子を見て、透明人間は愉快な様子だった。
「イスタンブールの時と同じだ。ひどく動揺してるな」
クロエは透明人間の言葉にひどく腹が立った。
透明人間の部下がクロエに向かって発砲。替えのマガジンがないことが分かると、クロエが隠れている物陰に来る。
クロエは銃で男を叩き付けるが、男が簡単に弾く。クロエはブーツに差し込んでいたナイフで男の足を突き刺す。
「げぇ」と男が呻き声を上げて、そのまま意識を失った。
クロエは、すぐさま透明人間へも発砲を繰り返した。
「私を撃ったところでどうなる? 殺せないのは知っているだろう」
「喋りすぎる男は嫌いだ」
クロエは、透明人間の挑発に乗らず撃ち続けた。透明人間の体にクロエの発砲した弾丸が撃ち込まれるが、姿勢を崩す程度で致命傷にはなっていなかった。
透明人間の手下もマガジンを入れ替えて応戦し始めた。クロエは物陰に隠れながら射撃を続けた。
透明人間が銃弾を撃ち尽くし物陰に隠れるのを見計らうと、クロエは身を屈めて距離を詰めていく。
透明人間の近くまで来て、クロエは銃を至近距離で発砲。それを見越すようにして、クロエの銃を叩き銃撃が逸れる。
「くっ」
クロエは息が漏れる。瞬間、透明人間から鋭い蹴りが入る。甲板に叩きのめされる。
息が切れる。呼吸が困難になり、身体全体がふらつく。すかさず透明人間からふたたび蹴りが入る。身を守れず、クロエは呻き声を挙げる。
「無謀なことをするからだ、君もあの相棒くんに影響を受けているようだね。つまらんな」
透明人間は淡々とクロエに語りかける。それこそ、クロエに対して急に興味が無くなったように語りかけるような口調だった。クロエは朦朧とする意識の中、何とか意識を集中させていく。それと同時に透明人間の部下がクロエの周りに集まってきた。
「手間は省けたからね。良しとするよ。君と私は似た者同士だ。あまり手荒なことはしたくなかったのだがね」
透明人間は独り言のように呟くと彼の部下が報告した。
「少女も確保しました」
クロエは回らない頭を働かせて、それが夏目あきらが。ふたたび捕らえられたということを理解した。
「ば、馬鹿者・・・・・・」
この場にいない伊里谷を叱責した。クロエは、そのまま意識が途切れていく。
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「おい、聞こえるかっ?」
ジェフが意識を失っていた伊里谷に呼びかけをする。重い瞼が徐々に開かれていく。
伊里谷が眼を醒ますと、透明人間のボートは既に出ており、誰もいなかった。伊里谷は焦る気持ちを押さえつつ、急いで携帯でクロエに連絡をする。
「無駄よ、もう回線を切られている」
側にいた霧絵が答えた。二人とも残念そうに伊里谷の様子を伺っていた。
「良かった、貴方は無事みたいね・・・・・・」
伊里谷は、霧絵の言葉を聞いて意気消沈した様子だった。そんな様子を見てジェフは口を出していく。
「誰も責めねえよ、もともと無茶な作戦だったんだ」
毒づくジェフ。ただ残念そうにポツリとそう呟いただけだった。
「奴は何処に向かったんだ」
伊里谷は息を切らしたように、問いただす。冷静に聞いたつもりだったが、動揺を隠しきれなかった。
「クロエが発信器を付けてくれたの。ジェフのところ装備品」
「発信機付きの弾丸だ。今も手元にあるかは分からないが、透明人間が向かっている場所の可能性は高い」
「すぐ向かうぞ・・・・・・」
伊里谷は肩で息するように、よろよろと海辺に向かっていく。それを止める霧絵とジェフ。反動で伊里谷は倒れてしまう。
「一度、作戦を練り直すわ。それまで伊里谷は休んでっ!」
霧絵の言葉を聞きながら伊里谷は、うなだれる。夏目あきらはおろかクロエも守ることが出来なかった。自分の無力さに溺れながら、伊里谷はそのまま意識を失ってしまった。