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第三部2  『思惑』

 翌日、伊里谷が登校して、校門の前を通っていくと、夏目あきらと鉢合わせした。彼女も丁度登校してきた様子だった。学校生活に慣れるために早めに登校して、この学校の設備や状態を確かめておく必要があったからだった。


 あまり考えたくはないが、透明人間インビジブルがこの学校を襲撃しないという理由はどこにもなかった。用心に越したことはなかった。そんな伊里谷の様子とは裏腹にあきらは気の抜けた声を掛ける。


「おはよ」


 あきらは眠そうな表情をしていた。


「早いな。朝のチャイムまで時間はあると思っていたが」


「まあね、文化祭も近いしさ。その準備で来てるのよ」


「そうか」


 そう言って伊里谷はすぐに教室に向かおうとする。


「君こそ何しに早くに来てんのよ」


「勉強しようと思っただけだ。あの家では中々勉強するのもままならないからな」


 伊里谷はさらりと答える。そんな伊里谷の様子を見てあきらは納得したようだった。


「君、英語とかは大丈夫な気はするけど国語や古典なら今度教るよ。これでも成績は良い方だからさ」


「助かる。まだ日本の勉強に慣れていないからな。早く君たちと同じペースで進めていきたいと思っている」


 あきらは感心した様子だった。


「準備があるんだろう。今日は無理だが後日手伝う。その時はよろしく頼む」


「うん、分かった」


 一瞬、間があった後、あきらは返答した。心なしか嬉しそうにも見えた。


 頷く伊里谷を見て、あきらはさっきより毅然とした様子で教室に向かって行った。直後、伊里谷の携帯に着信が入る。着信元は霧絵からだった。伊里谷はそのまま校門から出て行く。その後、着信に出た。


「霧絵、どうした?」


「局長から新しい任務が入ったわ。今、学校?」


 そうだと答える伊里谷に霧絵から「ちょうど良かったわ」と漏らすように聞こえた。


「モーズレー局長から先程、連絡があったわ」


「続けてくれ」


 伊里谷の言葉に少し間があった後に霧絵は答えた。


「伊里谷のクラスに夏目・・あきら・・・って女の子はいる?」


「ああ、さっきまで彼女と話していた」


「じゃあ、話は早いわ。内容は彼女の身辺を洗って欲しいとのことよ」


 伊里谷は一瞬、沈黙する。言葉を選ぶように霧絵に言った。


透明人間インビジブルと彼女が関係があるようには見えないが」


「詳しくは知らされなかったけど、彼女が今回の件に関わってる可能性があるのを考慮しての判断よ」


「そんなことがあるとは思えんが、上は何を考えている」


 伊里谷は事務的に答えたつもりだったが、動揺を隠せないでいた、霧絵の声も少しうわずっているようにも聞こえた。


「モーズレー局長曰く、伊里谷と接触した人間には一応の観察をするようにとお達しが出ているの」


「了解した。彼女を監視する」


MI6シックスは表向きは日本へは滞在しない任務になってる。あまり時間がないのも考慮して」


 この仕事で長居はしないという意味だ。霧絵の言葉はそこから出たものだった。


 霧絵との電話が切れた。伊里谷は沈黙していたが、気分を切り替えて本来しようと思っていた学校の調査に乗り出そうにもこんな連絡を受けた後では身が入らないのが正直なところだった。


 夏目あきらがMI6シックスの調査対象。


 透明人間インビジブルとの繋がりがあるとは思えない。MI6シックスの上層部の考えが読めなかった。おそらく局長の判断ではない。もっと上の者も関わっているのだろうと伊里谷は直感で理解したが、それでも直接の上司であるモーズレー局長に複雑な気持ちがなかったと言えば嘘になってしまう。



                △▼△▼△▼△



 終礼のチャイムが鳴ると、部活や委員会や帰宅の生徒が目立ち始めていた。伊里谷は今朝の件も念頭に入れていたので、帰り支度を早めに行っていた。


「ねえ、伊里谷くんさ」


 あきらが話し掛けていた。伊里谷は表情を崩さないように冷静に彼女の方に身体を向けた。


「どうした」


「あのさ、先生がね伊里谷くんを何か委員会でもいいから入れろって話になったのよ」


「そうなのか。担任からは何も言われていないが、そういうものなのか」


「うん、うちの学校、必ず部活か委員会に所属しないといけないとこなんだけど、それでさ私が所属してる委員会なんだけどさ」


「所属している? 以前に人数が少ないと言っていたやつか」


「そうそう、だからね伊里谷君も手伝えるならどうだって先生が提案してたのよ」


 あきらは、人数不足は否めないため先生の提案も受け入れざる得ないといった様子だった。伊里谷は表情を変えなかった。今朝の件もあったため、伊里谷には良い提案だと判断した。


「了解した。君のところに在籍しよう。いつからだ?」


 あきらは伊里谷の返答に驚いていた。


「えっ、いいの!?」


「誘ったのは君だろう。何を拒む必要がある」


「・・・・・・そうね。分かったわ」


 あきらは、そのまま伊里谷を案内しようとした。


「教室の場所、教えるから付いてきて」


 教室の場所は別の棟だった。あまり授業で使わない棟だったので、伊里谷は少し不思議な感じだった。生徒があまり寄り付かなそうな場所まで来ると、あきらは「ここだよ」と言って扉の前まで案内してくれた。


 がらがらと少し建て付けの悪い扉を開くと、榊原志帆さかきばらしほが椅子に座って本を読んでいた。あきらと伊里谷の様子を見て驚いた様子だった。


「あっ、伊里谷くんの件、大丈夫だったんだ」


 志帆の言葉にあきらは返答する。


「まあ、そんなところ。感謝なさいよ。志帆が伊里谷くんを入れたらどうだって提案したんだから」


「そうだったのか」


 伊里谷は淡々と答える。志帆は少し驚いた様子であきらに問いただす。


「ちょ、ちょっと、あき・・・・・・」


「あ〜、悪かったわよ」


 あきらは志帆に謝り、反省した顔を覗かせた。


「大丈夫か?」


 伊里谷はいつもの仏調面で答える。


「問題はないわよ。志帆もアンタが突然来たもんだから、びっくりしただけよ」


「伊里谷くん、手伝ってほしいことがあって頼んだんだよ」


「それで俺は何を手伝えばいいんだ?」


 伊里谷の言葉にあきらは少しバツの悪そうな雰囲気を醸し出していた。


「実を言うとさ。手伝うことって何もないんだよね」


 あきらの言葉に伊里谷は怪訝な表情になる。そんな伊里谷の様子を見て、志帆は少し気後れする様子だった。


「いや待って変な意味じゃないから。別に伊里谷くんにどうとかって意味じゃなくて」


 今朝の霧絵の報告もあったので、伊里谷は気持ちが身構えているような状況になっていく。


「どうして、身構えてんのよ!」


 あきらはため息を吐く。あきらの言葉に伊里谷は疑問を口にする。


「怒っているのか?」


「いいえ、怒ってないですよ」


「怒ってるだろう。俺には分かる」


「外国じゃ相手を怒らせないことは学ばなかったの?」


 あきらは、少し皮肉を込めるように伊里谷に投げかけた。


「ああ、自分の命を守るので精一杯だったからな」


「そんなこと知らないわよ」


 そう言って、あきらは怪訝な表情をする。


「謝罪しろと言うなら、俺は構わないが」


 伊里谷の不遜な態度にあきらは頭を悩ます。


「志帆、ちょっと先生に伝えなきゃいけないことを思い出したから、少し待ってて」


「うん、いいけど・・・・・・」


 志帆の返事を聞くと、あきらは教室から出て行く。伊里谷は神妙な表情で答える。


「俺が何をしたっていうんだ?」


「あきも悪いけど、最後のは伊里谷くんも悪いからね」


 志帆も呆れた表情で答える。


「ふむ」


 伊里谷は手元で口を押さえて、真顔で自分の行いを改めた。



                △▼△▼△▼△



「お前は、本当に間抜けな男だな」


 クロエは心底、伊里谷を軽蔑するように話していた。


「君に言われる筋合いはない」


 伊里谷は反論したが、クロエはやれやれといった様子で伊里谷をたしなめた。


「だからお前は間抜けなのだ。少しは馴染む努力をしないのか? おまけに女を怒らせるような真似をして・・・・・・。むしろ許せないのは、そのことだ」


「現場にいないから、そんなことを言えるだけだ」


「おい伊里谷、その発言は逃せねえな。俺だってな学生生活に戻りてぇよ」


 伊里谷の発言に今度はジェフが参戦してきた。その様子を面白がってクロエは嬉追い討ちを描ける様に追及した。


「女子学生相手にそんな羨ましいことしやがって・・・・・・。伊里谷、俺は可能な限りお前の味方でいるけどな、今回ばかりは見逃すことは出来ねえよ」


「そうだ、そうだ」とクロエ。狭いアパートが騒がしかった。


 伊里谷は言われ放題なので少しは何か言い返さないと虫が治まらなかった。だが、クロエの顔はひどく呆れた表情で、それこそ終始、伊里谷を蔑んだ表情だった。


「ここまで来ると重傷だな。少しは女と話をする練習をしたらどうだ?」


「君がいるじゃないか」


 伊里谷の真顔な返答にクロエは笑いを通り越して、本当に呆れている様子だった。ジェフもクロエに向かって、諦めろといった表情をしていた。伊里谷は口をへの字に曲げ不満気な様子だった。


「少し静かにしなさい。いまうるさ型に報告してるんだから」


 いつもと比べて口調の荒い霧絵は機嫌が悪そうに答えていた。パソコンの横には昨日、飲んだ発泡酒の空き缶に吸い殻が何本も押しつけられていた。以前、ジェフは彼女の吸い殻の多さで機嫌が良いか悪いかの判断が出来ると言っていたのを思い出した。


「霧絵、少しいいか」


 伊里谷の言葉に、霧絵は少し待ってと言わんばかりな様子でパソコンに報告書を打ち込んでいた。それが終わると伊里谷の方に顔を向けて話を聞く体勢になる。


「夏目あきらの件だ。電話では聞かなかったが彼女を護衛の理由くらい何か聞いていないのか?」


 今朝から上層部から指令あった夏目あきらも保護観察という命令。不可解な点は多すぎる。霧絵は少し逡巡して答える。


透明人間インビジブルの件とは関係ないわ。貴方、彼女と学校では一緒に行動していることが多いでしょ? あまり時間がないと思って、私たちが日本にいる期間なんてたかが知れてるわ」


「霧絵、局長と話す機会をくれないか? 今の状況では彼女との接触を続けるのは難しい」


 伊里谷は即答する。霧絵は肩をすくめた。


「たしかに学校生活での世話になった場面もあるが、おそらく彼女は俺を避けてる可能性が高い。親しい間柄と呼べるかどうか」


「ふーん、そうなのね」


 素っ気ない様子で答える霧絵。すぐに彼女から言葉が出てこない伊里谷は黙ってしまう。クロエは伊里谷を馬鹿にした様子で事の顛末を見ている様子だった。


「前も話したけど、私達は仕事で日本には来てはいないことになってる。手がかりは少しだけだけど、透明人間インビジブルの件もある。実際、伊里谷とクロは命を狙われてもおかしくないの。だから周辺にいる人の様子も確認および保護するべきというのが上層部の意見よ。既に透明人間インビジブルが彼女やその周辺の人間とも接触する可能性も考えられるの。可能性はとても低いとしても根拠はないの」


「上の人間らしい意見だ」とジェフは皮肉を込めた。


「私達に出来ることはたしかに限度があるわ。それは否定しない。でもね彼女の身に何かあってからでは遅いの。だからね伊里谷、この件もお願いしたいの」


 霧絵は懇願するような口調になっていた。


「何とか彼女と話してみようと思う」


 伊里谷の言葉に、霧絵は申し訳なさそうに頷く。


 伊里谷は少し間が開いたが返答した。今までの任務と同じ事だった。人を利用できる間は関係を築く。夏目あきらはどこにでもいる普通の学生だ。自分たちとは住む世界が違う。


「近くに寄れ。ただし、仲良くはなるな。いつもの話だ」


 伊里谷は小声で漏らす。


 霧絵は残念そうな表情をした。ジェフやクロエも、これについては何も茶化さなかった。いつもの感じだ。国に所属する諜報員エージェントとはそういう人種だ。自分に向かなければ、この仕事を辞めればいい。それだけの話だった。


「そう言えば、成分に関してはどうだったんだ? 薬品を扱う企業に当たるといった話をしていたが」


 伊里谷は話を切り替えた。今度はジェフが話を始める。


「ダミー会社だったよ。東京の赤坂見附にある雑居ビルにテナントだけ借りているだけのようだ。社員の人間は一度も見ていないんだとよ」


「よく分かったな、そんなこと」


 クロエが疑問を挟んだ。


「企業の関係者と取引していた業者だと名乗ったら、ビルの管理者が気遣って色々喋ってくれただけだよ」


「では、無駄足という訳か?」


「それなら、今日の夜にも俺たちがいる理由がなくなっちまう。手がかりは掴んでる。蜘蛛の糸を掴むような話には変わりはないがな」


 伊里谷は頷く。ジェフはそのまま話を続ける。


「ビルのテナントを契約した人間を洗ってるところだ。契約書とまではいかないが名前や登録情報はビルの管理会社から洗い出してる。もちろん足が付かないように行動しているから、時間は掛かるがな」


「そう簡単に残っているのだろうか?」


「既に上海支部には報告済みだよ。ハーディ主任を説得するのに苦労したぜ」


 ジェフは愚痴る。軽薄な男という印象の強い男だが、それはあくまで仕事以外での話だった。


「だから、俺の部署で透明人間インビジブルの行方をビルを契約した人間の洗い出しに人数を割いたのさ。今は結果の報告待ちってところだな」


 ジェフの言葉に一同相づちを打つ。


「案外、この任務もすぐに終わりそうだよ。もし、これで手がかりが出ないのなら、その時はその時だ。透明人間インビジブルの足取りを掴めてただけでも前進とは言えるしな」


 ジェフの言葉に霧絵は頷いた。


「そうね、私も実家に戻れないとしても、久しぶりの日本を満喫したかったけど、残念といえば残念ね」


 生粋の日本人である彼女は、唯一、日本という国を幼少の頃から知っていた。彼女に話を聞くと実家もここから、そう遠くない場所にあるとのことだった。


「戻ったらいいじゃない。ここに文句を言う奴なんかいないのは、よく知ってるだろ」


 ジェフの言葉に霧絵は首を横に振る。


「大丈夫よ。それより明日の支度よ。伊里谷も明日も学校でしょう? 早く寝なさい。これは命令よ」


 伊里谷はちらりとジェフを見る。まだ互いにMI6シックスに提出している報告書の類が終わっていなかったからだった。


「俺を見るな。先に寝てろ。報告書は明日の提出で構わない」


「了解。何かあれば言ってくれ」 


 伊里谷はそう言って立て付けの悪い居間の襖を開けて就寝準備を始めた。 



                △▼△▼△▼△



 上海のMI2支部の局長室で、ミルヴィナ・モーズレー局長は顔をしかめていた。彼女は考え事をしているときは手で表情を隠すように顔を落とすような癖があった。彼女は、部下への示しのため気を付けようと意識していたが、他の癖は何とか直してもこの癖だけは抜けきらなかった。今、彼女は遅めの昼食を摂って透明人間インビジブルに関する報告書を読んでいた。どれも次に繋がるかも不確かなものばかりだった。日本に飛んだ4人も情報を集めてくれているものの確実に次に繋がるものとは言えない情報であるのも厳しい状態だった。


「局長、少し宜しいですか?」


 ドアにノックと同時にハーディ主任の声が扉越しから響いた。


「どうぞ」


 ハーディ主任は局長室内に入ると、彼女のやや憔悴している様子も気にせず報告する。


「先ほどMI6シックスから連絡がありました。透明人間インビジブルの件です」


「どうでした?」


「残念ながら良い結果ではありません」


 言葉の割にハーディ主任の表情は特にいつものと変わらない様子だった。


「例の大里化学工業の契約者について洗ってみましたが、その人物は戸籍上、既に死んでいるという報告です。リュエリン職員にも話は通っています。」


「死人と透明人間インビジブルとの繋がりは?」


「不明です。名義は日本人でしたが、数年前に病死しているとのことです。おそらく何も関係ないダミーでしょう」


「では、透明人間インビジブルは日本いる可能性は低いと?」


「痕跡を残さないための行動とすれば恐らく」


 ハーディ主任の報告に、モーズレー局長は眼を瞑り逡巡している様子だった。何とか痕跡を見つけたかったが、それもままならない厳しい状況だった。


「霧絵たちに伝えて、帰国の準備をするようにと」


「了解です。帰国手配もすぐに進めます」


 ハーディ主任は、そう言って踵を返すように退室した。モーズレー局長は手元のノートパソコンの電源を入れた。情報局のアカウントではなく、あくまで個人のアカウントで画面上にパスワードを打ち込んでいく。MI6シックスに報告する前に報告しておきたい人物がいたからだった。


「カミングさん、モーズレーです。突然の連絡でごめんなさい」


<どうしたね?>


 パソコンモニター先に眼鏡を掛けた柔和な表情の老人が映っていた。MI6シックスのサマセット・カミング職員だった。モーズレーを幼い頃から知っている人物の1人だった。


「カミングさん、透明人間インビジブルの件です」


 ミルヴィナの報告に柔和な様子の老人の顔が厳しいものに変わっていく。カミングは眼鏡を外し、ひと呼吸置くようにしてから言葉を選ぶように話し始めた。


<君も知っているだろうが、いま本部はその男の行方で大変だ>


「分かってます。私の進退についても含めてですよね?」


 モーズレー局長は特に声色が変わる訳でもなかった。本部でもそう言った話が出てるのは予想していたからだった。


<私から見れば、君は考え付く限りの行動を起こしている。それは保証する。ただ、本部には君を快く思っていない人物もいるのも事実だ。旧体制然の悪しき風習だよ>


 カミングは自分が所属する組織の陰口を叩くが、言葉のトーンを落とすようなこともしていなかった。彼が情報部で、どういう立場なのかよく分かる言動だった。


MI6シックスで把握してることを是非お聞きしたいのですが」


 ぴしゃりと発言を遮るようにミルヴィナは言った。カミングは口元が少し微笑む。


<最近、君のお母さんに似てきているよ。あの人も強い人だった・・・・・・。いや、余計なことを言うのを止めよう。結論から言うと、現在、透明人間インビジブルは日本にはいないと考えている>


MI6シックスも同じ見解なんですね」


 モーズレー局長の言葉にカミングは少し驚いた様子だった。


<ということは現地にいる諜報員エージェントからも同じような報告が来ているのかね>


「ええ、透明人間インビジブルが使っていた爆弾が日本で作られたものもあって調査を進めていた結果です。残念な結果ですが」


 モーズレー局長の報告にカミングは別の報告を始めた。


<だが、MI6シックスの見解はここから異なる>


「続けて下さい」


透明人間インビジブルは日本に内通者か隠れ家の類を持っているということだ。これは、あくまで推測の域を出ていない話ではあるがね>


 モーズレー局長は頷く。カミングに話を続けるように促した。


<MI6(シックス)は、以前から、とあるテロ組織の情報を集めているのだが、我々は透明人間インビジブルも一枚噛んでいると考えていた。また定期的に日本の企業に資金を流している記録が出ていたが、>


 組織の具体的な名前まで出ていなかった。それはカミングでも分からないことなのかMI2支部の局長クラスでは教えることが出来ない内容なのかモーズレーには理解出来なかったが、今は頭の中に留めてカミングの話に集中することにした。


「それは、うちの諜報員エージェントから報告済みです。何でもただのダミー会社だったとか」


<ああ、だが以前に資金繰りを行っている、別の企業がある。その報告書を後で送るよ。本来であればこんなコソコソせずに送れればいいんだがな>


「ありがとうございます」


<さっきも言ったが、あくまで推測の域だ。組織はその金を使って何か造ってるようだ。MI6シックスでもこの話を知ってる者は少ない。君を気を付けろ>


 カミングの言葉にモーズレー局長は笑みを浮かべる。カミングもその表情を見ていつもの柔和な表情になる。彼は眼鏡を付け直してモーズレー局長に別れの言葉を言った。


<ミルヴィナ、私は健闘を祈るなんて言わない。頼む>


 そう言って通信が切れた。モーズレー局長はカミングから送られてきたデータをすぐにハーディ主任に報告後、霧絵達にも送信した。

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