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第三部1  『前夜』

 殺風景なコンクリートで周りを囲んだ廃墟のような室内でスーツ姿の男、透明人間インビジブルが椅子に座って地面を見つめていた。物憂げに佇む男は、無言で判決を待つ囚人のように安価なパイプ椅子に腰掛けて時が経つのをただ待っているようにも見えた。


「待たせたか?」


 透明人間インビジブルは声を掛けられる。こんな人気のない場所で声を掛けられコンクリートに囲まれたこの場所には男の声はひどく響き渡った。


 男の手元にはスーツケースがあり、透明人間インビジブルの前にケースを渡された。


「頼まれたもんだ、これでいいんだろ?」


 素っ気ない声だった。透明人間インビジブルは特に気にした様子もなく、軽く礼を言って、スーツケースを受け取る。よく見ると、彼の周りにはスーパーコンピューターと呼んで差し支えない巨大なコンピューターが辺りに広がっていた。盤面は剥き出しで、コード類が地面に一杯に広がっている。業務用エアコンを大量に付けているにも関わらず室内は異常な暑さを醸し出していた。


 ケースを渡した男は、この初老のスーツ男が、こんな辺鄙な場所で何をしているのか気にはなったが、知りたくはなかった。


「何をやろうとしているか? といった表情かおだね仕立て屋ティンカー


 仕立て屋ティンカーと呼ばれた男は、透明人間インビジブルの考えなど興味ない様子だった。


「知りたくはない。お互い良い関係でいたい」


 男の簡潔な言葉に透明人間インビジブルは笑った。まるで求めていた回答が出てきたかのように。


「そういう所を買ってるんだよ」


 男は、すぐに席を外すように部屋から出て行った。出て行った後も透明人間インビジブルは何事もなかったように、ケースの中に入っていた、銃を取り出す。


 この国に銃を持ち込むのは決して難しい訳ではなかったが、可能な限り足が付くのは避けたかった。結果的に手に入れるのは時間の掛かる作業だった。


 透明人間インビジブルの側に置かれた粗末なテーブル上のノートパソコンから連絡が入る。非通知の表示。そもそもこのパソコンに連絡してくる人間という時点で誰だが検討は付いていた。透明人間インビジブルは、ノートパソコンを操作して連絡してきた者と通話を始めた。


「君か」


<随分と辺鄙なところだな>


「おかげさまで。ずいぶんと無口な男を派遣したものだね」


<お前好みだろ。まさに、よろず屋の様な男だよ>


 パソコンからの声は丁寧に加工されていた。透明人間インビジブルからしてみれば話している奴など皆目見当は付いていたが、この通信をしてきた者は用心した上での行動なのがよく分かった。


<追加のリストだ。大変だったぞ>


男の言葉に透明人間インビジブルは礼を言った。


<聞かせてくれないか。何でMI6シックスからわざわざリストを盗んだんだ? 手に入れる方法は色々あっただろうに>


 パソコンの音声から、先の透明人間インビジブルによるMI6シックス襲撃の顛末を聞きたがっていたようだった。


「単純な話だ。一番目立つからね。奴らの無能さは今に始まったことじゃない。それに私が動けば一部の者は感付くと思ったんだ」


<その一部の者ってのは気になるな>


 透明人間インビジブルは音声の発言を無視した。音声もそれが答えかといった様子で、それ以上は何も答えなかった。


 透明人間インビジブルは、パソコンの画面を確認し、写真や名前が書かれたリストがずらりと並んでおり逐一、その名簿を確認していく。画面には『クロエ・ディズレーリ』の写真も見えていた。透明人間インビジブルの口元が、一瞬上がった。


<イスタンブールの件もある。あまり目立ち過ぎるな。『奴ら』はお前が何処で何をしようとしてるのか簡単に場所を突き止めてくるぞ>


 仕立て屋ティンカーの言葉に透明人間インビジブルは相づちを打った。


「ああ、正直なところ奴らが顔を出してくるかと思ってたくらいさ。そうしたらMI6 シックスの連中が顔を出したって訳だ」


<一人だけの軍隊を気取るなよ。自分がタコの脚だということも忘れるな>


 仕立て屋ティンカーは釘を刺す様に透明人間インビジブルに言い放った。


「今も昔も一人だ。これからもだ」


 透明人間インビジブルの返答に、仕立て屋ティンカーは詰まらなさそうな様子で愚痴を溢すと、そのまま通信が切れた。透明人間インビジブルは特に気にせず届けられた銃の点検を始めた。

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