第二部6 『邂逅』
クロエはマンションの近くの公園のベンチに座っていた。既に渋谷の支部に着いているのであろうメンバーには行き先を何も告げずに、この場所に来ていた。日本の都市部であるのにも関わらず、思っていた以上に興味を引くものがなかったので、クロエは退屈していた。
こんな有様では透明人間はおろか手がかりも追えない。クロエは物憂げな表情で自分の掌を見つめた。それに伊里谷との関係もあった。
「お母さんと離ればなれにでもなったの?」
クロエは顔を上げると、そこには学生服を着ていた女に話しかけられていた。見た目の雰囲気から言って、おそらく女子高生なのだろう。黒髪の面倒見の良さそうな学生だった。快活が良いとも言ってよかった。
一人でいるところを気を遣われたのか分からなかったが、手短に話を終わらそうとクロエは返事をした。
「いや相棒との関係で悩んでいると言ったほうがいいな」
「パ、パートナー!?」
クロエの誤解を招くような発言で学生は面を食らっていた。相棒ではなく恋人といった方向に捉えてしまったようだった。クロエは特に気にした様子もなく話を続けていく。
「ああ、詰まらない男だが、今後のことを考えやらんとな」
「今後のこと」
学生はクロエの言葉を繰り返した。言葉を噛みしめて、何とか上手く返答しようとしている様子だった。
「君、名前は」
学生がクロエに尋ねる。彼女は興味ある様子でクロエを見つめていた。
「クロエ・ディズレーリ」
「貴方みたいな女の子だと、その男の子も大変なんじゃない?」
学生の言葉に悪気はなかったが、ストレートな物言いにクロエは内心感心した。子どもにどうやって話し掛ければいいか分からず困っている大人を何人もみているため、彼女の態度に興味を持ったし、クロエも気分が乗ってきた。
「奴は女を労ると言うことを知らなすぎる」
「大変ね・・・・・・」
あきらは遠い目を見るような様子で答えていた。今度はクロエが質問する番だった。
「まだ名前を聞いていなかったな」
クロエはいつものように尊大な口調で話しはじめる。学生は特に気にした様子もなく返答した。
「私の名前? 私は夏目っていうの。夏目あきら。下の名前で呼ばれるから、あきらと呼ばれるけどね。クロエは小学生?」
「お前達と同じハイスクールの学生だ。訳あって今は通ってはいないがな」
「えっ!! 高校生なの!?」
「無理はない。少しばかり子どもぽいのは自覚してる」
クロエは、尊大な様子で答える。
「じゃあ、学校に通うとしたら、この辺の高校なの?」
「だろうな、まだ何とも言えんが」
「クロエが来たら注目されるよ」
「人に好かれるのは得意だ」
クロエは半分冗談のつもりで言ったが、あきらは特に気にしていない様子だった。
「そうね、大丈夫だと思う」
あきらはクロエが座ってるベンチの隣に座りはじめる。学校の鞄を膝の上に置いて話を続ける。
「クロエってなんか面白いね」
「あまり聞きなれない褒め言葉だな」
クロエは不思議そうに尋ねる。あきらは頷く。
「そもそも、あきらはこんな所で何をしている? 学校はどうしたんだ? 嫌で抜け出したのか?」
クロエはあきらに話を促す。
「テスト期間中で早上がり。まあ、学校のことで悩みがないと言えば嘘になるけど」
「上手くやれている様に見えるが?」
「そうでもないよ。馴染むのは案外大変なのを痛感しているところ」
「心配するな。そんなものすぐに終わる」
クロエの言葉を聞いて、あきらは嬉しそうな様子だった。
「クロエが、うちの高校にいてくれれば気が合うし嬉しいんだけどさ」
あきらは嬉しそうに話しつつも、何処か言葉の重い様子だった。
「私も同じ事を思っていた。相棒にも見習わさせたい」
あきらは、可笑しそうに笑った。
「逆にクロエの相棒さんに会ってみたいかも」
あきらの言葉にクロエは首を横に振る。
「止めておけ。あの男の辛気くささが移ってしまう」
「なにそれ」
あきらは可笑しそうに笑う。
「どうしようもない奴だ。互いにチグハグでな」
クロエは手振りで、可笑しさを伝えていく。
「でも、自分にも非があるって認めてるじゃない?」
あきらは少し感心した様子でクロエに尋ねる。クロエは首を横に振る。
「奴と私の噛み合わなさを是非、見てほしいくらいだ。奴も他人の眼があれば少しはまともになると信じているからな」
「それってすごく相手のこと信頼してるじゃない」
あきらの言葉にクロエは同調する
「ああ、信頼関係を築けないと命に関わるからな」
「またまた〜」
あきらは冗談はよしてよと言った様子でクロエに突っ込んでいた。