おかわり ~嫌がらせ~
暖かいのどかな気温で思うのは、今日の昼飯は何だろうと言うことだ。智会にもたせてもらったおやつなんて、とうの昔に吸収してしまった。正直なことを言えば、3限目が始まる頃には腹が減って集中も切れていた。そんな中でも、行儀正しく座っている僕たちは、本当に偉いと思う。
ぐーぐーと腹の虫が文句を言って仕方がない4限目を終えて、いそいそと弁当箱をあけた。
今日の弁当には、僕の好物が沢山入っていて思わずにやける。
「あっ……あいつ、こんな嫌がらせしやがって」
僕の幸せな気持ちを邪魔するように、近い距離から舌打ちが聞こえた。
まだ弁当箱を開いただけなのに、思わず舌打ちするほどの弁当とはどんなものなのか興味がわく。確か、彼女に作ってもらった愛妻弁当だと言っていたのに、さっきとは全然表情が変わっている。そんな風に考えたのは僕だけじゃなかったようで、佐藤たちと件の弁当をのぞきこんだ。
けれど僕には、言葉の意味が分からず首をかしげる。別に弁当が空な訳でもないし、二段とも日の丸ご飯オンリーと言うこともない。肉だって入っているし、敢えていえば量が少し少ないかもしれないが、全然許容範囲だ。これのどこが、嫌がらせなのかわからない。
それにも関わらず、佐藤なんかは訳知り顔で頷いている。
「あー、確かに男子高校生にそれはないわ」
「ちょっと、そのキャラ弁はな」
どこが問題なのかと更によくよく見ると、かわいらしいクマの顔の横に小さく『バカ』と書かれている。でも、本気で嫌がらせしたいなら、こんな弁当作ってくれないだろうし、マシなほうだと思う。智会に見せたら、この形や彩りを再現するのにどれだけ頭を悩ませ、時間をかけているか分かっているのかとこんこんと説教しだすだろう。幸い、智会たちの耳には聞こえていないようで安心する。その代わりに、心なしか周囲にいる女子たちの視線が厳しい気がして目をそらす。
「これが、ダメなのか?」
「うるさい、リア充。お前のところは、弁当作ってくれなきゃ死活問題だから、こんなことされたことないだろう」
「そんな事ねぇよ。一時期キャラ弁作りにはまったみたいで、むちゃくちゃ可愛いウサギや犬がぎゅうぎゅうに入っていたことある」
「……何で、ぎゅうぎゅうに」
そんなの、彩りとして野菜を敷き詰められても嬉しくないし、腹にも堪らないからに決まっているだろう。当たり前のことを聞くなと言えば、「俺たちと言ってることは大して変わらねぇな」とどこか呆れた眼差しを向けられる。同じ中学だった奴は、「そういえば、ずいぶん可愛い弁当食っていたときあったな」と思い出した様子だった。
「第一、以前に肉だけの弁当作ってくれっていったら、謝るまでの三日間、肉なしの料理しか作ってくれなくなったことあるし」
智会だって、怒らすと怖いのだ。
日々感謝はしているが、逆らえない相手でもある。それを聞いて、同情してくれたのだろう。揃いも揃って同じようなしょっぱい顔で、こちらをみてくる。
「お、おぉ、それは辛いな」
「でも、意外と頑固なお前が、良く三日で謝ったな」
お前に言われたくはないと思いながら、話が進まないので軽く流す。こうも話しながらだと、なかなか箸が進まないから、早く切り上げたくなっていた。
「嗚呼、実は以前にもっとひどいケンカして、あいつを怒らせたことがあってな」
「何、その不穏な話し出し方」
茶々をいれられたが、無視して続ける。
本当に、智会に聞かれるまえに、この話題を終わられたい。
「僕が嫌いなピーマンと、プチトマトがメインの料理しか作ってくれなくなったことがあるんだよ」
「それは……弁当だけじゃないんだよな?」
「勿論。作りおきしてあった冷凍品まで自宅に持ち帰られて、見事に奴らで埋め尽くされていたんだよ」
「それがきらいなものだと思うと、ぞっとするな」
「だろ?白米が出される頻度が減り、炒飯やオムライスにはたっぷりピーマンが入れられていて」
「白米だけバカ食いっていう手も防がれているのか……」
「そう。本当に、巧妙に苦手なものがピンポイントで出されるんだよ。もう最後の方は、どれだけ料理のレシピがあるんだと関心すらした。でも、僕もケンカなんて慣れていないし、そこまでされたらひくに引けなくなって」
「なんて、無駄なプライドなんだ」
「俺だったら、絶対耐えられない」
「そうなんだよ。いくら手を変え品をかえと努力されていても、結局は嫌いなもの。徐々に我慢は限界を迎えてな」
むしろ、生で出されなくて良かったな、なんて言う佐藤は殴っておいた。だが、茶化していても続きが気になるのだろう。息を飲む連中の顔を、ゆっくり見渡す。
「一週間もすれば禁断症状だ。食えもしないコンビニのチキンが旨そうにみえて、ヨダレが止まんなかったり、夢で腹一杯好物食べてみたり」
今思いだしても、無駄な意地をはってしまったと呆れてしまう。
ちょっと同級生にからかわれたくらいで、日々の献身や気遣いに唾をかけるようなことはしてはいけなかったのに。当時の僕は、まだその有り難みをキチンと理解できていなかった。
「しまいには、自分で料理しようと牛肉を出して、半生のままかじりついているのをみた親父が、慌てて智会のところに僕を連れて謝罪にいってくれたんだよ」
「肉焼くぐらい、出来なかったのかよ……」
「あの時は自分でキッチンに立つのも嫌で、まともに切ったり焼いたりも出来なかったんだよ」
正直、そんな状態でも自ら謝ろうとしなかったことに、智会は心底呆れていたが。そんなことまで、話してやるつもりはない。
「おまけに、おかずをあんまり食べずに白米ばっかり食っていた僕は、少し痩せて、僕が食わなかった料理の残りを食べていた親父は、三キロ太っていた」
「ーーー親父さんが、ただただ不憫だ」
みんなの白い目線を気にすることなく、僕はじっくり弁当を味わっていた。




