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011.ハウル(2)

「あたしの名前は牧内穂南まきうちほなみ、じゅっさ……二十歳よ! 特技はパルスレーザーの早打ちと、部屋掃除。好きな食べ物はバニラアイスよ!」


 胸に手を当てながらざっくりした自己紹介をするホナミ。かなり日本名だよなぁ。


「次は貴方の番よ。時間は沢山あるんだし、まずは名乗りなさい!」


 一瞬十歳と言いかけたのも気になるが、ここは素直に従ってみよう。


「俺はショウだ、こう見えても三十三歳でホナミより年上だよ。特技だっけか? んー、独り言だな!」

「一緒ね!」


 そこは同意するのかよ! と胸中で突っ込みつつも、話は広がってゆく。


「本当にあたしよりも年上だったのね、パパよりも年上ってのが少し気になるけどあたしはヘーキよ。ママも年上のパパと結婚したって言ってたし!」

「ちょっと待て、何か言葉のニュアンスが変に聞こえたんだが?」

「何か変だったかしら? あたしとショウが結婚して、死ぬまでの人生を共に生きるんでしょう?」

「おい、入れ知恵したのは何処のどいつだ!?」

「ん、相変わらず無表情なのに声が大きくなるのは、あたしの為に怒ってくれてるのかしら?」

「ちげぇよ、ふざけた語り部に文句を言ってたところだよ」


 腕を組んでそう訴えて見せると、初めて穂南ホナミが笑ったような気がした。


「良い、わね。こういうの、あたしずっと憧れてた、パパやママ以外の人とお話する事に。産まれて十年間、ずっとこの場所に居たからパパやママが語り聞かせてくれたお話は実は嘘なんじゃないかって思ってたんだ。パパとママ以外に人間って実はいないとか、私が死ぬまでに他の誰かとお話することは無いんじゃないかって。強く願えば一日だけ願い事が叶うけど、そうしたら本当に一人ボッチになっちゃうって。だから私はいつか出会えた人と、パパとママと一緒みたいになろうって……まっ、頑張れば三日は生きれるわ!」


 一気に語って見せた穂南ほなみの表情は、最後の思い出を作りたいと必死に最後の生を全うしようとする心を感じた。


「十歳の時にあの場所で眠りについて、時計をみたら10年もたってるんだもの、気づいたらママと同い歳になっちゃったわ。あたしの話も良いけど、ショウのお話も聞かせなさい!」


 話を聞きながら、ふと違和感を感じる。

 十歳の時の母親の年齢が二十歳か? あれ、お前いつ生まれたんだよ!? ライター、ライタァァァ!?


「……っ、そう、だな。どこから話せばいいのか……」

「ショウは祈願者か何かなんでしょう? 救助に来てくれたようには見えないし、他の宇宙船も見当たらないし。ショウの事、色々教えて欲しい、な」


 お腹がグゥ、とタイミングよく穂南ホナミの腹から鳴るが、恥ずかしがることも無く俺の隣へと座り込んだ。


「そうだ、な……」


 コイツは今も尚、腹を空かせ水分すら他人の体液から摂取している状況なのだ。喋っているだけでも辛いだろう、とにかく色んな思い出を詰め込みたいのだろうか。柄にもなく、現実リアルの話を仮想世界ローグライフで語り出してしまった。


「俺は地球という星にある、日本って大陸に今も住んでいるんだ。埼玉って地域にある家からRLDローグライフデバイスを使ってここに来ている一般人男性さ」

「地球? そんな名前の星があるのね!」

「俺の世界じゃいくら強く願っても、叶うことは無いんだ。努力して、失敗して、それでも挫けず前に突き進まなけりゃいけない。それでもなお、願い事の先へ辿り着けるのはほんの一握りの人間だけでな? 大抵は夢半ばで諦め、妥協して、つまんない人生を生きるしか道の無い世界でさ。そんな世界から夢の世界へと繋ぐのがローグライフデバイスで、そのデバイスのおかげで今俺はここにいるんだ」


 ったく、子供エヌピーシー相手に一体何を語ってるんだか。


「難しすぎてわからないわ! でも、努力して、失敗して、それでも挫けずに前に進むことが出来るって凄い世界ね。あたしたちは諦めるか祈願しちゃって一日の祝福と、その後の無を受け入れるかの二択だもの。パパとママが言ってたわ、今じゃ誰も願い事を言わないって、願うような事に直面すれば、素直に諦めなさいって」


 願い事が叶う世界か、努力をしてなお願い事が叶わない世界か。

 どっちが良いかなんて、俺には判断出来ないが。


「……諦めんなよ? 俺のファーストキス奪ってまで、生きる気満々な奴に諦められちゃたまらんからな」

「勿論よ! 私はあきらめない、きっと何か道はあるって思ってるから。でも……」

「ん、どうした?」

「宇宙船の主人格、ララからの応答が無いの。ララがいなきゃ、重力制御も水も出ない……」

「ん、何だそりゃ?」

「この宇宙船の人工知能で、色んな制御をしてくれてる子なの。あたしが眠っている間に壊れちゃったのかな……」


 人工知能が船の制御をしている、と。もしもそれを復活させれば水だけは何とかなるのか。


「どうやったら修理出来るんだ?」

「知らないわよ、全部パパとママがやってくれてたし。ねぇ、ショウは宇宙船操縦出来たりしないの?」

「いや、流石に」


 俺が無理だ、と言おうとした時だった。

 ピコン、と電子音が脳内に響く。ゲーム内では聞きなれない音だったが、現実でよく耳にするその音に体が自然と反応していた。


「ピンアウト? 何かアイテムボックスに入ってるの?」

「ん、穂南もピンアウトからメニューが呼べるのか?」

「誰だって出来るでしょう? 私のメニューは空っぽだけどね」

「そうか」


 まさかNPC、いやこっちの人間にも自分たちと同じような操作が出来るとは意外だった。が、今は電子音の正体を探る。


みなみ まさる様へ

 俣妻またづま香織かおりの母、俣妻またづま奈央なおと申します。

 連絡が遅くなり、申し訳ございません。

 娘を保護していただき、本当に感謝しています。

 今、私は有明にあるビックサイトでとても大切なプロジェクトを進行中で、スグにそちらへ向かう事が出来ません。ローグライフをプレイしていると、勝手ながらログから調べさせてもらいました。

 部外秘の機能なんですが、娘の為に特別に許可を貰い、ある機能ツールを添付送付させていただきます。南様がローグライフの世界で、よき人であり続けれますように。

 短いですが、以上となります』


 一通のメールがログに表示されると、指でクリックして開いてくれと主張する添付アイコンが目に入る。

 じっと、俺が何かし終えるのを待っている穂南ホナミに、これ以上放置するのも悪いと思いウイルスデータなどの疑いを持つことも無く添付ファイルを開いた。


『起動、完了。初めまして、ショウ。私はハウルデバイス、世界最強のサポートをする為に生まれた人工知能だ』

「ひゃっ、ショウ! 突然変な声出さないでよ」

「いや、俺じゃ無い」

『私の事はハウルと呼んで欲しいね、穂南ホナミお嬢様』

「お、おじょう、さま? やだ、何わかってるじゃない、どこにいるかわかんないけどわかったわ、ハウル!」


 何勝手に馴染んでやがる、てか俺の体から声が出ている?


『是。ショウの体を通して音声を発信しています。ログより、重力制御が必要と判断しました、実行しますか?』

「ララと同じ事が出来るの!? お願い、体を軽くして!」

『承。無重力制御を開始します』


 合成音声で作られた女性の声が、勝手に穂南ホナミと会話を進めるとフワリ、と俺の体が宙に浮きだす。


「うわっ、うわあああ!?」

「ぷっ、ははははは。何してるのショウ!」

「な、何だこりゃあああ」


 手足をばたつかせながら、その場に浮き上がりグルグルと回転して気分を悪くする俺であった。

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