3 『政府は、いや、密室の爺共は現場を見ろってんだ。』
1929年某日。
数日後に、ジュリのいるマフィア組織で新幹部が決まり。
更に一ヵ月後に、惨殺される、そんな頃の警察署。
その近所の闇酒場にて。
先輩後輩である2人が、杯を開けていた。
黒髪に濃い茶色の瞳の人相が控えめにしてもマフィア風な壮年が先輩。
金髪碧眼の王子様と言うか優男な青年が後輩だ。
実年齢としては、逆転して、幼児と棺おけに両足を突っ込んだ老人ほどの差はあるのだけれど。
「政府の馬鹿は、最近止めてばっかじゃねぇか。」
法を守る立場が飲んだくれていいのか、というツッコミもあろうが。
最近、上からの圧力で、事件捜査を止められることが頻繁にあるのだ。
全て殺人事件ではあるが、血を貰うのにうっかり失血死させたようなのから、バラバラまで共通点はない。
「同一犯で、上が触って欲しくないんでしょう、先輩。」
「は?」
「うん、同一犯ですよ。」
「うっかりからバラバラまでがか?」
「先輩も、俺の眼知ってるでしょ、そういうことです。」
「あー、あのお嬢ちゃんの関係か?
イヤに顔の広い顔役でもあるような。」
ある程度の確信が今日捜査を止められた事件までで得られたのだろう。
後輩は、そう先輩に話す。
まだ、夜の民であると言うことは言えていないけれど、能力者であることはバレてしまっている。
というよりも、ジュリともう一人のせいでバレたとも言えるのだが。
「あぁ、ローゼンマリア様ですね、ええ。
一応、俺の制御方法の師匠でもありますし、強力なとか言われる夜や俺達みたいなのと知り合いですもん。」
「あー、お前らのコミュで調べて欲しいことあるって言ったら?」
「ホワイトカメリア、ですか?
先輩、口説かれてましたもんね。」
「おう、解決したら、週一計牛乳瓶十本。」
「わかりました。
……違法捜査ですが、いいんですね。」
後輩の知り合いで、『白い椿』と呼ばれる吸血鬼が居る。
それは、長い手と耳を持つ情報屋だ。
後輩が、異能力者であることを知るきっかけになった存在であり。
先輩の『血』が好みであると公言する存在。
なので、と言うわけではないが、時折力を貸してもらっている。
「自分で完結できるなら違法捜査だろうがどうでもいい。」
「はいはい。
では、明日の昼までにと急がせますね。」
後輩は、先輩には話さない。
夜の民であることを隠しているからと言うのもあるが。
犯人が、コミュの指導者であった存在であること。
犯人が、ジュリの知り合い、親友に近しいことを。
そして、終りがとても近いことをなんとなく察してしまっていることを。
次回は、ホワイトカメリアと死人の会話。
と言う名の当時はジュリの知らない話し。