2 『人間なんかの味方になると思う、オレが?』
オレは、終りの姫の仕事関係で呼び出されはしたが、タゲ待ちで少し待機になった。
だからじゃないが、禁酒法だったか、その頃のことを思い出した。
うん、夜の民の国があったころだから、千年前の知り合いの最期のことだ。
禁酒法時代のアメリカで、連続殺人があったわけだ。
表向きは、適当な移民の顔のいい奴が犯人に仕立て上げられてる事件だ。
まぁ、知っている奴が密かに語り継いでるから、未だに陰謀論系の本で割りと真犯人が居る系にあげられる。
言っちゃ悪いが、そうだと認定されてるのとオレが把握してただけでも、100人以上を数年以内に殺しといて、普通の人間じゃねぇよな。
二十年で四桁ってのもあるけど、あれは集団だからこそだし?
性別は、女が中心でも年代はそれこそ、ゆりかごから棺おけまでバラバラ。
知ってる範囲でも、生まれる前の男児を死なせはしてるけど、手は出してないし。
生まれたての女の子から、余命いくばくも無い老夫婦までバラバラ。
殺し方も、吸血の有無も、飲血の有無もそれこそバラバラだ。
個人的な話、殺すのとヤるのを両立させるなら、十五から二十五までが具合がいいし、十歳以上でも悪くは無い。
だけど、そういうのが希薄なオレであっても《歌乙女》の本能で、あんまし殺さないけどな。
好きと実行は別と言うか、嗜好と実行は別と言うかそういうの。
後、あんまり嬲るのもな、戦闘以外であんましない。
コップ一杯だけ血を吸ってたかと思えば、腹の赤ん坊まで引きずり出してバラバラにしてたり。
本気に同一犯か?ってレベルだもんな。
でもな、夜の民と異能力者は気付いてたんじゃないのかね、同一だってぐらいは。
オレの感覚になるけど、気配とか霊力の類が、微妙にこびりつくのよ。
殺しってのは特に、殺される側の怨嗟に引きずり出されるのか知らないけど。
言語化できるレベルでそれこそ、分かるのは数少ないだろうけど、言語化できないだろうけど違和感はあるんだろうな、うん。
その実行犯、ラスイルのことを知ってるのほとんど居ないだろうから、わかんなかっただろうけど。
同一犯であることはわかっても、ラスイルだってことはね。
それに、所謂、黒幕。
数十年後に孫が、ジュリを拉致監禁実験するマッドのつく科学者の祖父がそれだったんだけど。
まぁ、純血の癖に狂ったラスイルに罪はないとは言わないけど、それでも、夜の民を操れる兵器として運用する計画をしたからなぁ。
血は争えないってか?
ジュリも、ああまで怒り狂うとは。
オレも猶予期間で、幽霊じゃなけりゃ参加してたけど。
一応、知り合いだったし、大昔に世話になった小父貴の息子だったもんな。
ホントーに人間って変わらないよね。
そりゃね、そういう愚か者ばかりじゃないって分かってるよ、分かってるけど、それとこの科学者の愚かさ具合は別じゃないの。
この世界のさ、異能力って、足が速いとか料理が上手とかのそういう個人の能力の延長線上で多少伸びはするけどゼロにいくら掛けてもゼロでしょ、そういうこと。
だけどね、終りの姫を見ても、ラスイルも見ても、強い能力を持って普通の幸せって本当遠いよ?
『嫌いでしたか、そのラスイル。』
ああ、エルザね。
思考に埋まってたオレに話しかけたのは、エルザって言う、薔薇飾りのゴスロリ娘。
無表情な小娘で異能力者じゃない魔術士娘。
オレと同じ終りの姫の“前”。
嫌い、嫌いじゃないねぇ。
エルザも、終りの姫の末っ子居るでしょ。
そうそうルキね、あれに『えるねぇしゅき、』とか言われたら、とぅんくするでしょ?
オレの場合、ラスイルは終りの姫に対するあの子みたいな年齢差でさ。
その関係もあって、可愛い弟分だったよ。
陛下ほどじゃないけど、あの子の両親も夜の国の上層部だったから、国が滅亡した時の指導者にあの子がいたしねぇ。
オレは集団に馴染めなかったから、別行動だったし。
そう、オレを殺したのラスイルだよ?
人間をちょっと殺し過ぎてね。
恨むねぇ、オレはね死ぬ気は無かったけど、殺されるなら、ジュリかラスイルがいいとは思ってんだし?
その時はもう滅んでたけど、夜の国の元老院連中から差し向けられる暗殺者よりは、知り合いがいいなとぐらい思うよ。
歪んでる?
今更でしょ、歪められてるのに歪んでるも何もないでしょ。
でもねー、オレから見てもってレベルだけど、あの子は指導者向きじゃないね。
良くも悪くも、生真面目と言うか肩の力を抜かないというか。
後、どっちか言うなら、副官タイプな子で生粋の文官、武官でも軍師タイプなんだわ。
グラップラータイプの魔剣士だったけどさ?
『何があったんですか?』
ふふ、敬語が崩れてるよ、エルザ。
はいはい、むくれないの。
ジュリから聞いた話とその数十年後の拉致監禁実験からの推測だけどね。
異能力者やオレらの飼い馴らしと言うか使う為の実験かな。
今はさ、裏稼業経由とか医者でも催眠術で異能を封じれるよ。
でも、昔はそれの暴発で死ぬとか割と珍しくなかったじゃない?
禁酒法のあれこれの時期は、一個目の世界大戦が終わって、次の大戦の為の準備期間って感じだったじゃないあの頃。
日本は、上手く嵌められたよねぇ、本当。
それは、さておき。
市民権のある異能者でも軽いのに、そうじゃないのは更に軽いけど。
でも、黙って使われてやるほど甘くは無いってのが、オレ達なわけだ。
だからね、強大なオレ達夜の民や異能者を使えればその頃の新兵器、戦車以上の働きはすると思ったんじゃない?
実際、終りの姫よりランクとしては下に当たる雷神でも、現代戦に限らず、対集団なら結構いけるでしょ?
一騎当千とまでは行かなくても、一騎当五百までいけるんじゃない。
それは、《炎の教皇》も同じでしょ。
ジュリは、口にしなかったし、そうなのかは分からないけど。
連続殺人の前後に、割と強力な夜の民――吸血鬼や人狼――、異能者が何人か行方不明になってたっぽいんだよね。
だから、ラスイルは本命のジュリのタゲ取りか本命だったじゃない。
ラスイルもサポートタイプだっていっても、それでも純血だもん。
力こそ、強大でも、ジュリとは格が違うんだよ。
ジュリは、生成りで、親が強力なのと素質のせいでラスイルより強大なだけなんだよねぇ。
逆に言えば、当時生き残ってる純血ってラスイルか、隠遁賢者達ぐらいだったから、そういう意味でラスイルが制御できれば、他も出来るってことだよね。
ジュリの場合は、《御伽噺》関係もあって吸血鬼の格には当てはまらないし。
『失敗作でしたか?』
うん、戦闘用って意味なら、某機動戦士種の生体CPU並みにヒドイ。
あ、無印の方のね。
制御しようとする術式科学アプローチとそれから逃れようとするラスイルとのせめぎあいで、オレと終りの姫みたいな関係で、純粋無垢な殺人鬼を作り出したのかもしれないってのが当時の推論。
まぁ、詳しくは知らないし知りたくも無い。
ジュリに教えなきゃよかったと思う程度にはな。
うん、オレがね、ラスイルの可能性を教えたんだけど、マフィア関係のバランスで手出しできないまま、じりじりと犠牲者を増やしてた。
で、やっと、ジュリの属していたマフィアの新人を殺したから、追うことが出来たんだ。
ん、そうだね。
ラスイルは、ジュリに殺してもらいたかったから、目立つようにしてたんだ。
恨まれることも、ジュリのほうの事情もわかってたから。
自分が戻れないこともわかってたから、殺されたがってた。
うん、本当に、……救いはラスイルが笑ってたことぐらいだよ。
最期に、ジュリの腕の中で笑ってたことぐらいだよ。
一応、その実験してた連中は、死ねたほうが楽だったんじゃない?
次回は、当時の警察(異能者含む)の愚痴。