1 『うん、可愛い弟分だった』
私は、新しく淹れ直したコーヒー、羽羅にはよく眠れるようにちょっとだけチョコリキュ―ルとたっぷりのホットミルクを入れたそれを机に置いた。
正直、前の養い子のイライアスよりも伸びるだろう。
対象が対象だったからあの子は、この子よりも早く情報にたどり着いたけれど。
私達のような夜の民に関しては、存在を認めることだけでも国家機密だ。
それがある程度の確度で分かるのはそれこそ、自力でたどり着くしかないのだ。
超能力者も含めて、“異端”が呼吸をするには、子の世界は息苦しい。
羽羅や双子、イライアスを含めた友人達は、異能力者だ。
それは、兵器として使うにも有効なほどに強力な。
あぁ、私はあのコミュニティにいたけれど、それでも、夜の国があるうちはまだ、人と私達の世界は同じ空の下に在ったのに。
今は、どうしようもなく、遠い。
まだと言うレベルでも、異能力者との距離が近いぐらいに、ヒトとは遠い。
そうして、私は話す。
1930年前後、禁酒法華やかなりし時代の“夜に生きた”彼らのお話を。
あの頃、禁酒法だった頃。
酒はマフィア連中の資金源になっていた。
そんな頃のアメリカでのことだ。
うん、そうだね、今の麻薬なんかと似ているかもしれない。
タバコと酒は、合法麻薬だって揶揄があるくらだもの。
それにね、それが廃止になった理由が、五億ドルだったかな、それだけ税金取ってたのに禁止にしたでしょ?
一応、完全に禁止じゃなくて乱用しちゃダメよ程度でも、一割以下だかに酒の税収が下がって見なさいな。
単純には行かないけど、五百億円超が、五十億円になっちゃったのよ?
それに、戦争は終わったけど小さいどんぱちはあったし、そういう恐怖を和らげるのも、酒だったんだもの。
で、私はその頃、化粧で誤魔化して二十歳少々だって言って、マフィアにいた。
マフィア、とは言うけど、半分は互助会ね。
イタリア系の移民がボスをしてたけど、構成員は半分が人間の移民で、残り半分が私達のような夜の民か異能力者だった。
幹部の比もそれぐらい。
うん、今もだけどね、超能力者ってのはそうだと明記できないし、知れるとまず表の家業にはつけない。
裏だとしても、使い捨てがいいトコだよねぇ。
まぁ、その辺りは移民の扱いで調べて、あれとか、黒人奴隷と同じぐらいだったからね、当時も。
本当にクソ笑えない話をするなら、大陸間鉄道。
アレの鉄道は、アイルランド人とイタリア人の血と肉と涙で出来てるっていうブラックジョークがあるくらいだよ。
うちの組織は、ボスを頂点に三十人ぐらいの幹部と八十人ぐらいの構成員で構成されていた。
そこそこの小さいとはいえないけど、デカイともいえない微妙な組織でね。
リトルイタリーとかあの辺りをナワバリにしてた。
私は、外部と言うか、相談役兼踏み絵だった。
二十歳ぐらいを自称しててね、ナワバリがナワバリだから、ある程度の外からの連中は警戒するの。
それに関する踏み絵。
当時のボスとサブ・ボスが、子どもの頃からの付き合いだってのもあるけどね。
ミカジメ料と拳銃なんかの密輸系統でシノギ、稼いでた。
後は、骨董屋の奥でレストランをしてた、うん、もちろんお酒を出すね。
シャルって呼ばれた子が幹部になった頃だから、1929年だったかな、まぁそれくらい。
その頃ね、ナワバリを含めた辺りで、殺人事件が起こってた。
うん、最初に言うけど、犯人は吸血鬼。
それも、かなり珍しい古種の純血。
……知り合いと言うか、人間風に言うなら、同じ学校の違う学年みたいな。
両親が当時で千歳以上の吸血鬼同士から生まれたって言う子。
結構親しかったよ。
両親が、私の吸血鬼としての親の知り合いだったわけ。
年齢的には、私のほうが上ぐらいかな。
あの子が生まれてすぐぐらいに夜の国が滅亡したから。
私が居たのは、北の方のコミュニティだったけど、知り合った当時人間で言う三歳とかで「ジュリねぇ、ジュリねぇ」っちょこちょこ付いてきて可愛かった。
それこそ、「おおきくなったら、ジュリねぇをおよめさんにするの!!」ってさ、可愛かった。
私も、30そこそこで可愛がったしね。
そのうちに、夜の国が滅亡したことと私側の事情もあって、そうそう会えなくなって、この事件が起こる数百年前に養い子を失って、私は長く引きこもってた。
だから、この事件で会った頃で数百年会っていなかった。
一応、引きこもってた間に手紙のやり取りをしていて、直前の手紙でアメリカに行くようなこともあったから私も渡ったの。
それとね、犯人は殺したのは、あの子、ラスイルだけど、被害者でもあるわ。
貴方達を兵器として運用しやすい超能力者に仕立て上げようとしてたように。
私達のような夜に属する民を兵器として運用しようとしてたの。
黒幕、とでも言うようなそれの孫に私も、色々とされたからね。
ほら、オルクスいるでしょ、それ、私を利用しようとした科学者との子よ。
色々とあって殺し合いもしたけども。
うん、そうね、ラスイルは死んでる。
私が殺したよ。
次は、羽羅(聞き役)も知らない&ジュリ(語り手)も語らない別サイド。