だって仕方ないでしょう? 延長戦 ?
世の中そんなに甘くない、と言うことで。
あぁ、残念。勝てなかったなー。
ま、なんせ動機が不純だったし、神様だって皆のお願い叶えるんで忙しいだろうし、仕方ないよね。
「残念会でもする?」
って石崎が言うから、お祝い会は口実で二人で会いたいと思ってくれてるのかも、なんて調子に乗ってたんだと思う。
自分がそう思うからと言って、相手も同じとは限らないのにね。
ちょっと仕事が片付かなくて、いつもより遅くなった休憩で、石崎まだいるかな?なんて早歩きで向かった休憩所。
「え、井沢さんって下の名前、早苗ちゃんって言うの?」
って驚く石崎の声と、
「そうなんですよ。南葛の井沢もありですけど、翼くんの彼女もありなんですよー。」
と楽しそうに話す声が聞こえて来た。そこから先は、いつかどこかで私とも交わしたような会話が続いて。
顔面でボールを受けたことはないのに、多分それくらいの衝撃を受けてた。
あれ?
よく考えたら、特別なんてこと、なくない?
調子に乗ってムクムク膨らんでた自信は、あっという間にしぼんでなくなった。
楽しそうに話す声なんて聞いてられなくて。
石崎の話す時の笑顔が、くしゃってなる笑顔がいいなって。少しテンション上がった時の、身ぶり手振りが面白くていいなって。優しいしゃべり方も、サッカーを熱く語る眼差しも、いいなって。
そうやって、いいなって思うことが、いくつも重なって重なって、気持ちは形になっていって。石崎のこと好きだな、って思ったんだ。
だから、もっと知りたいって。そう思ったから、もっと一緒にいたいって。何も伝えていないのに、石崎もそう思ってくれてると勝手に思ってた。
延長戦も何も、まだなーんにも始まってもいなかったって?
うん、本当。そうだよね。
ライバルが早苗ちゃんとか、本気だったらキツイけど、石崎のこと好きになっちゃったんだから、仕方ないでしょう?
さぁ、ここからやっとキックオフ。