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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶があるが、すべて許せない。
97/108

◆97

 その青年はただ単に眼前にいる邪魔者を。ガブリエルは大切な人を殺した最低者を。互いを互いに殺す目的がはっきりと明確になってきた。


 ガブリエルが指を動かす。数発の金属の弾が発射され、相手に向かう。それをごくごく当たり前とでも言うように、避けようとはせずフォーム・ウェポンで防いだ。その内の一発だけは防げずに頬を掠める。


 そう、最初から攻撃を避けようとはしないのである。いや、避けるだけでも無駄。攻撃ぐらい受けたってどうってことはない。要は確実に相手の息の根を止めればいいだけなのだから。


 御首頂戴。


――別に首じゃなくてもいい。あちらさんの上と下がバラバラになるように。そちらさんの上と下もバラバラにしてみませんか? それこそ、瓜二つの双子のように。あっ、もしかして、双子? だったら、同じ顔なのも頷けるものだ。ははっ、哀れな双子の片割れ。待ち望んだあの姿はどうだったかい? バラバラ、バラバラになれて嬉しかっただろう? 楽しかっただろう?


「黙れっ!」


 こちらへと迫りくる攻撃をガブリエルは銀色の銃器で受け止めた。小うるさい金属音がその場に響くではないか。何だか、勢いつけてぶつけているものだから火花も散っている。


 これにしめたと言わんばかりに、ガブリエルへと猛攻撃を与え続ける。その動きは止まらない、止まらない、止まらないっ! 時間よ、止まれと言いたいほど時が止まらない。流れいく「時」。誰も止めることができない「時間」。これが運命か。


 近接攻撃の防御が不得手のガブリエルは苦痛の表情を浮かべる。それが苦手だとしても、ここで負けるわけにはいかない。くたばるわけにはいかない。死ぬわけにはいかない。死んでしまったラファエルのためにも。この世の全員に知らしめたい。僕らの、×××君と×××君のこうして残された片割れの哀話を誰かに受け継ぐまで。


「死ねぇ!」


 攻撃を避けないならば、真正面からゼロ距離で撃ってやろう。流石のフォーム・ウェポンだって防御には間に合わないはず。


 隙を伺ったガブリエルはギラリと光る銃口を相手の額へと押し当てた。その間一秒にも満たずして、引き金を引く。


――さあ、この世のお別れは済んだか? いや、こんなろくでもない狂者にそんな人間臭いことをする方がおかしいか。どちらかと言うならば、頭を空っぽにして死に逝くのを黙って知るしかないだけだ。


――だから、このまま死に逝け。


――死に逝くのが、『俺』だと決まったわけじゃないぜ?


 引き金を引いた直後、ガブリエルは背筋が凍るような違和感を覚えた。何か、この感覚はと思う前に零点以下。握っていた各々の武器に大きめの振動が伝わってきた。


 何があったのかはその振動後にわかった。目の前の相手が弾速よりも速いスピードで、剣の形をしたフォーム・ウェポンで防御していたのだから。フォーム・ウェポン任せばかりではなかったようだ。


 その隙。驚愕している隙。


――イタダキマス。


 ガブリエルが次の行動をとろうとする前に、剣先をくるりと変えた。それがどういう意味を成すのかはすぐにわかった。それだからこそ、回避するべきだと脳で信号を発しているのだが、体が言うことを利かない。いや、その発している信号を受けて動くというロスタイムがあるからいけないのだ。それがあるからこそ――。


 ラファエルは上と下がバラバラに。


 ガブリエルは右と左がバラバラに。


――あーあ、死んじゃった。


 地面に二つの赤色の大きい円ができた。彼らは動こうとしない。いいえ、動けるはずがない。悲しいことに。自分の意思では動かせないから。


――しーんじゃった、死んじゃった。


 何を思ったのか、ラファエルの体が浸かっている赤色の水たまりを足で蹴った。ぴしゃんという水が跳ねるような音が聞こえて、彼の体の上に濡れる。それが面白くて、何度も何度も血のたまりを蹴る。蹴りまくる。


「あははははははははははははははははははあははは」


――これが面白いだって? すごく面白いよ。動かない人形たちが赤色に染まっていくから。半分だけ染まっているのが、いずれは全部染まるのが楽しみだから。ね、『――――君』。そうだな、『イアン君』。どうせ、死んでいるから文句なんて言えやしないって。


 面白おかしいと思っているのか。にやにやくすくすと笑いながら、その行為を続けていく。ずっと、ずっと――そこへ、遅れて到着してきたグーダンたちに呼びかけられるまで。


 イアン、とどこか震えている声。その声の方を見れば、怪訝そうな顔、不安そうな顔、恐怖している顔――とにかく楽しい、嬉しいという表情がレジスタンスたちにはなかった。どちらかと言うならば、こちらに対して向けている顔は疑り深い感情を持っているのだ。


「お前……」


「リィマヤタシェ グロック ブージャ」


 そのレイの言葉に誰もが顔をしかめる。特にレイの言葉を理解できるオクレズとエルダは誰よりも眉根にしわを刻めていた。


 エルダが何かを言おうとするのだが、ここに来て何者かが邪魔するようにして天井が崩れてきた。これにて何かを訊くということはできなくなってしまった。なぜならば、その崩れてきた天井からは小隊のヘヴン・コマンダーたちが降下してきたからである。


「イアンっ!」


 向こうにこちらの声は聞こえてきただろうか。こちらに駆けつけてきたときの様子は普通ではなかったと言える。一部始終を見ていたわけではないが、死体から出ていた血だまりを蹴って無邪気に遊んでいた。常人がするような行動ではない。これは異常だ。


「反乱軍だ! 一人残らず、殺せ!」


 ヘヴン・コマンダー小隊の隊長らしき人物が周りの兵士たちに大声を張り上げた。それに隠れるようにして、瓦礫の向こう側では駆け足で遠ざかる音が聞こえるのだった。その音がするのはすなわち、自分たちが追いかけていた相手がどこかへと行ってしまったという証拠。


 せっかく追いついたのに。――いいや、追いついたとしても、どのような言葉をかければいいのか。何を話せばいいのか。何もわかるまい。二百年もの前の存在に、何も話せまい。すべてを知る者に、どうしようもない。これはどちらが正解かというのはない。むしろ、何もしないが正解だったのかもしれない。グーダンはレジスタンスたちに指示を出しながら、ヘヴン・コマンダー小隊と戦うしかなかった。


 流石は楽園ヘヴンの中枢都市で警備をする兵どもだ。各地にいる拠点のヘヴン・コマンダーたちとは違って、動きは機敏としている。苦戦するだろう、ここまでの彼らは。


「り、リーダー!」


 ヘヴン・コマンダーたちの攻撃にひたすら耐えているレジスタンスたちは苦しそうだ。グーダンは彼らの隙をついて、反撃に挑んだ。生半可に戦うべき相手ではないようだ。ほら見ろ。力に、経験に負けたレジスタンスたちが下に転がり始めている。


 来る来る来る来るこの攻撃。防げ防げ防げ防げその攻撃。悠長に技を見極めている場合ではない。見極める前に見極めて行動せよ。さもなくば――。


 レジスタンスの一人目。二人目。ヘヴン・コマンダーの一人目。


 飛び交う銃弾。怒号と悲鳴による合戦。殺伐としたその場の雰囲気。瓦礫のせいで見えなくなっていた赤色の地面は再び彼らのもとに合い見えるのだ。仲間が、敵が体中から鮮やかな血を落としていく。


――違う、違うんだ。


 こんな光景を望んでいたといえば、望んでいた。だが、すべてを知ると――。


――もう嫌だ。


 投げ出したくなる。それでも、死ぬのが怖い。誰かが死ぬのが恐ろしい。グーダンは戦わなければならない。どんなに拒否反応を起こしても、それが自分の望んでいたことなのだから。業苦の神様が与えたグーダンの業なのだから。


 嫌々ながらも、うんざりとした様子ながらも黒から赤色に染まりつつあるフォーム・ウェポンを振るうしかなかった。

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