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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶があるが、すべて許せない。
95/108

◆95

――ヴァーチャル・ブレイヴストーリって知ってる? あいつから誘われてやったんだけどさ、『――――君』はツインズっていう双子の雑魚ボスあたりで止めちゃったんだ。そいつらを倒すと、主人公にとって都合のいいレベルアップのレアアイテムをもらえるとか、なんとか。そのやり残したゲームを今から『イアン君』が久しぶりに消化しようと思うんだ。この目の前にいる、敵キャラを。


 この先は行かせまいとガブリエルとラファエルが立ちはだかっていた。以前に交戦したときの相手の雰囲気とは大違い。どこかキチガイのような面持ちだ。こちらを見据えるその目はこちらがどのようにして映っているのだろうか。


「ラファエル」


「ガブリエル」


 二人はイアンと戦うべく、取り出すのは一対の銀色の銃器である。真っ赤に染まり上げた相手の得物とは対照的に冷たい色を出している。


「イアン・アリス、お前は楽園の女王(クィーン)様にとって邪魔な存在だ。この世に存在するには相応しくない人間として、僕たちはお前を始末する」


 ラファエルの発言に小さく反応を見せる。にこにこにこと笑っていたというのに、いつの間にか大きく目を見開いて、口をきゅっと結んでいた。そこから伺えるこの表情は、感情は何を表すというのだろうか。


――今、こいつらはなんて言ったんだ? 『――――君』がこの世に存在するには相応しくない人間だって? この世に『イアン君』がいてはいけないだって? そんなの誰が決めた? 誰だよ、ねえ。勝手なこと。そんな勝手なこと――。


「何をしている」


 そこでじっとブツブツ呟く。それが不気味に思えて、二人はいつでも発砲できるようにして引き金に指を置く。一方で、よほど「存在してはならない人間」と言われたことがショックだったのか、むかついたのか、イラついたのか、下唇を噛みしめて――ややあって、彼らへと形相の睨みを利かせた。これ以上までに初めて見る鬼のような怒り。その凄味に二人は少しばかりたじろいだ。結構な気迫。だが、ここで怖けついてしまっていては何のために楽園の女王(クィーン)に忠誠を誓ったのか。自分たちは楽園の女王(クィーン)を守るための駒。


――生かしてくれた。こうして両足で立つことを許してくれた。この命に代えても、イアン・アリスを通すまい。


「ここでくたばれっ!」


 いつまでも、こうしてはいられない。それは隙をついて楽園の女王(クィーン)のもとへと行くなどというわけではなかった。ましてや、反乱軍らしいレジスタンスとしての誇りに恐れをなしたわけでもない。


――『イアン君』を蔑ろにした。『――――君』の存在を否定した。『俺』に対していなくなれって言った。『――――君』のこと、この世にいる価値ないって言った。『イアン君』のこと、世界にとって邪魔者だって言った。許さない、許さない、許さない。あいつらと同等だ。『俺』が羨ましいか。妬ましいか。羨ましいか。『――――君』という存在がそんなに要らないか。喚くなら、喚き散らせ。勝手に言っていろ。『イアン君』は『イアン君』でこの世には要らない物を分別しよう。区別しよう。差別しよう。要らないと思う「ゴミ」を潰して、潰して、潰して、潰しまくれ。それこそ、イベントみたいな血のペイントをこの場にぶちまけるようになっ! 殺してやる、絶対に。この言葉の意味を知って、後悔して死ねよ。


 あまりにも独り言、と言ったがいいか。その呟きが二人にとって不気味だった。一体、目の前にいる彼は何を言っているのやら。ずっと、その場に立ち尽くしては十面相がごとく顔の表情をコロコロと変えて。なんという喜怒哀楽の切り替えが巧いこと。手に持っているフォーム・ウェポンは微動だにしない。いつ、こちらに攻撃を仕掛けてくるかがわからなかった。だから、ラファエルは引き金を引いた。何を考えているのかわからないから、早いところ決着をつけたかった。この気味の悪い相手に向かって真っ直ぐと銃弾が飛んでいくのだが――。


 もしかして、フォーム・ウェポンは生きているのだろうか。意思に関係でもしているとは思えない。守るために盾となった。別に命令をしたとは思えない。それが勝手に動いたように見えただけだ。


 また、それが合図であるかのように相手とガブリエルが動き始める。ラファエルを見て、確信をしたのだろう。イアン・アリスを本気で殺しにかからないと、とんでもないことが起こる、と。


――邪魔だ、エンジェルズが。エンジェルズごときが、世界改変者クラッシャーの囮が。ああ、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァ! クソ邪魔だっ! ただのボードゲームの駒のクセに。殺されたら死ぬクセに。いつもいつも――。


 ガブリエルが引き金を引くが早いか、その心臓を貫かれるが早いか。それはどちらも同時だったという表現が早い。相手は彼からの銃弾を受けた。逆にガブリエルは相手からの攻撃をもろに受けた。どちらとも急所に当たったようである。どちらも、と致命傷を受けているはずなのに、二人は横している体を強引に起こさせるのだった。ガブリエルは元より改造人間。多少の致命傷は受けても、すぐに復活はする。


 問題は相手である。彼の場合は普通の人間の体を持っているはず。一般的な肉体を持った存在だ。それが、『彼』からイアン・アリスとしての使命を受けていたとしても。


 それなのにもかかわらず、銃弾痕を脇腹に残していても、立ち上がった。元々返り血を浴びているのに、そこからは鮮血が止めどなく流れるではないか。それでもお構いなし。血が出ている? 怪我をしている? 武器を持つ力があまり入らないだって? 


――だから何?


――そんなの知ったこっちゃあない。たかが、血が出ただけだ。金属の玉が横腹を貫いただけだ。これぐらいで死ぬわけない。喚く必要もない。『俺』には……。


 再びガブリエルへと攻撃を与えようとするのだが、一歩だけ防御が遅れているようだ。攻撃の怯みで体勢がまだ整っていない。


――赤い鬼が来る。赤い鬼が、目をぎらつかせて。その色と違う目をしやがって。


「ガブリエルっ!」


 死の一歩手前まで来ていたガブリエルを救ったのはラファエルが持つ銀色の銃器だった。こちらに迫りくる黒色の刃を見事それで受け止めたのである。ガンガンキンキンと一度だけではない。何度も、何度も、彼らはどちらかがくたばるまでその手に握る物で闘うのだ。何と闘っているだって?


 もちろん、二人は相手から押し寄せてくる意味不明な恐怖を。もう一人は彼らからの言葉を書き変えようと。


――なあに、確かにこいつは気味が悪いほどの恐怖をこちらに仕向けているが、こちらは飛び道具持っている。離れて戦えば、戦うほどこちらに勝機はあり。


 にやり、と不敵な笑みを浮かべるのはガブリエルとラファエルである。


――体勢は整った。準備もできている。そう、いつでもイアン・アリスを殺す準備がなっ!


 二人の指はくたばれとばかりに動く。銃口からは金属の塊が発射される。それは大きく逸れることも、飛ばないこともなく――真っ直ぐに、確実的に相手の体へと吸い込まれていくのだった。


 すべてがスローモーションに見える。着弾したその弾は美しく、体に真っ赤な花を咲かせていた。狙うはイアン・アリスの息の根。これで最後だ、と言わんばかりにラファエルが最後の一発にと、胸へ仕向けた。


――この世の「ゴミ」の駆除はこれにて完了。楽園の女王(クィーン)に誓ったその言葉通り、イアン・アリスを始末した。


――死んだ、死んだ。やったね、やったよ。これで、そうだね。×××君と×××君にとっての最大の平和が訪れたんだよ。そうだね、やったね。これで誰もが――。


――まだ早いよ。


 完全な勝機を見せていた二人だったが、突如彼らの脳に楽園の女王(クィーン)と一人の男の声が交じったかのように聞こえた。まだ早い? 何が早いというのだ。


 意味がわからなかった。誰がそう言ってきたのか、唐突に楽園の女王(クィーン)がこちらに話しかけてきたのかを。いや、これは違うか。話しかけてきたのではなく――俗に言う第六感。


 他の五感を研ぎ澄ませても、わからなかったというのに。


「あはははっ」


 ぞわり、と耳の下から鳥肌が立ちそうだ。それに気付いたときには、ラファエルの体は地面に伏せていた。


――なぜにこうして倒れている? 分からない、判らない、解らない。何もかも、ワカラナイ。


 ラファエル!! とガブリエルが大声を上げているのは聞こえた。聞こえたが、残念なことに耳障りな笑い声の方が大きいようだ。ずっと耳に残っている。頭にこびりついている。すごく楽しそう。とても面白そう。仲間に加わりたいなと思いつつも、笑い声がする方を見た。


 お前、何をっ!! なんてガブリエルが努罵を上げる。許せない、という思いがこちらに伝わってくるようだった。


――ガブリエル、その気持ちだけで十分だよ。いつも、いつもきみは僕のことを思ってくれていた。生まれたときから、今まで。きみは……×××君は僕の最高の友達にして、親友だ。僕は×××君がいてくれなければ、生きていけなかった。それはもちろん、×××君だってそう。


――あははっ、あははっ。血のペイントをぶちまけたぞ、ぶちまけた。ラファエルが盛大に地面へとぶちまけた。ラファエルの上と下の体がバラバラになっちゃったよ。おかしいったら、ありゃしない。


 血塗られた武器を持つ人物に悪意は『ある』。

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