表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶があるが、すべて許せない。
94/108

◆94

 第一に思ったことは「ひどい」の一言に限る。そうグーダンは渋った表情を見せていた。イアンがレーラの犠牲を厭わないとなれば、こちらの方が先に動くべきだと作戦を立てていたのだが、それがいささか遅れてしまったようだ。


 まだ作戦とやらは完成していない。そんな矢先にである。少しだけ離れた場所で作戦会議をしていた自分たちのところまで警報が届いてくるとは思わず、急いで町の方へ向かえば――。


「これが、イアン・アリスの力ってか?」


 グーダンは笑うしかない。膝が震えそうだ。それほどまでに恐ろしい光景が広がっているのだから。これを独りで、単身で、フォーム・ウェポン一つ持って行動する人間とは思えない。苦笑いの彼にエルダは「多分違う」と否定する。


「イアン・アリスだからと言って、ここまでの力はないはず。これは紛れもない、『イアン君』自身の本来の力も混ざっている」


「すると、あいつはバケモノだってか?」


「人を殺害することに関しての躊躇さはないところから見るに、そこだけはバケモノだろうね」


「あいつの本来の力もエルダが持ってきた手記にあったのか?」


 あれだけイアンのことについて記述があったのだ。きっと、昔の大戦中も畏れ多い存在として注目を浴びていただろう。だが、それならば、そう言った伝説は残っているはずだろう。たとえ、楽園の女王(クィーン)がこの世界の歴史を変えたとしても、この世界の設定を変えたとしても。たかが、二百年ほどだ。どちらかと言うならば、尾ひれがついてとんでもない話が残っていそうなのだが。ないのか。


「ううん」


 エルダは否定した。ということは、まさか、イアンがただの少年だったというわけあるまい。


「イアン君は強さを、本当を嘘で隠し通してきた人物だって書いてあったの」


「それじゃあ、これこそが本当のイアンだっていうのか」


「まさしく。彼の過去に何があったかなんて、あの人はあまり書いていない。いや、書くのをためらったって感じがするよ」


 それは文字を見ていてもわかった。どこか遠慮気味に書かれた文章。文の構成がおかしいわけではないにしろ、違和感はあった。昔に何があったかなんて、この手記すべて事細かに書いてあるかと思えば、そうではない。いくつかは推測。大抵は大まかな部分だけ。


 事実が書かれているのはほんの一部だけ。


「でも、あたしが一番怖いと思うのが、イアン君が過去に事実の塗り替えをしようとして暴走したこと」


「暴走だって? 今回みたいにか?」


「そこまでは書かれていないからわからない。人を殺したかどうかまでは……」


 そもそも、事実の塗り替えをしようとするなんて。まるでこの世界を構築するための『書』を盗み出し、世界を書き変えた楽園の女王(クィーン)みたいなことをしているではないか。こんな人物がこの世界における希望なんて。イアン・アリスだなんて――。


――何を考えていたのか。彼が昔の大戦の英雄だとしても、そのような過去を持っている時点で、同じ立場であるならば、あたしは絶対に世界を彼に任せるようなことはしない。


――なぜって、嘘つきだから。


――過去に何があったかなんて、今はどうだっていい。あたしのすることは先人たちの願っていた本当の平和を取り戻すまで。この世界の矛盾点をなくすまで。そのためにはイアン君にはきっちりと動いてもらわないと困る。


――今の彼の状態はこの町の惨状を見るからに暴走している。大量の死体を作り上げている時点で普通の人間として見ることはできない。


 これがレーラに対する想いか。はたまた、記憶を取り戻した、使命を思い出した本当のイアンの姿か。どちらにせよ、エルダが思い描いていた状況とは大きく外れてきているようだった。本当は彼が使命を思い出し、グーダン率いるレジスタンスに協力する形で戦うことを理想としていたのだ。だが、ここまで来れば、その理想はただの幻想だ。現実を見てみろ。予想外の行動を起こすイアン・アリスがいるではないか。これが彼をイアン・アリスと任命した者が思い描く事実か。


――最低だ。


『『――――』の性格は優しくて寂しがり屋』


『――――』の部分はイアン・アリスに値する。『――――』はイアンの本当の名前。楽園の女王(クィーン)に奪われてしまったと思われる本当の歴史に実在した名前。あの文章が本当ならば、彼は可哀想だと思わないだろうか。


 イアンが向かったであろうこの町で一番高い塔へと向かう。ここぞとばかりに血の道標があるから複雑な気分である。


 赤い町はしんと静まり返っており、一般市民どころかヘヴン・コマンダーすらも出てこない。彼らは地面に伏せている人数が多いとしても、この町の全員のヘヴン・コマンダーがこうなったわけではないだろうに。残りは楽園の女王(クィーン)を守るために塔の方へと向かったか。


「一つ訊いてもいい?」


 塔へと向かうグーダンたち。それにエルダが口を開いた。それに伴って、彼は足を止めた。ここには敵の気配がないからそうできるのか。それでも、グーダンは先を急ぎたそうにしているようである。


「グーダンさんたちは楽園ヘヴンに対して復讐心を持っていたけれども、イアン君の代わりに自分たちがそうしていたとするならば、こんな未来を望んでいた?」


 グーダンたちはこの現状を見て、ひどいと思っているだろう。だが、よくよく考えてみて欲しい。元々、彼らの思想は楽園ヘヴンに対する復讐だ。そうなれば、必然的にこのような惨状を望んでいるはずであろう。だが、現時点でグーダンの思いは変わっていた。彼は戸惑った様子で首を横に振るのだ。こんなのは望んでいない。いや、予想以上だ、と。


「昔の俺ならば、こうなっても当然だと思っていたかもしれない」


「今は違う、と?」


楽園ヘヴンに対する復讐心は変わらない。が、これ……あいつは人の命で遊んでいやがる。この跡はそうとしか見えないんだよ」


 人の命で遊んでいるだと? これにはエルダも目を丸くした。ただ単に殺したわけではないのか。イアン・アリスとして、邪魔者を排除したのではないのか。


「あいつに人の殺し方は、俺が教えたようなもんだ。状況を考えて無謀な戦闘は避けてやれ、と言っている。イアンは臆病者のクセに無駄に度胸があることぐらい、わかっていたからな」


「なるほど、グーダンさんが知っているイアン君の人の殺し方は基本的に隠密行動のようだというわけか」


「ああ。誰彼構わず人を殺しているからな。遊んでいやがる」


 ということは、イアンは誰もが思っている以上に狂って暴走しているということだ。もう嫌な予感しかしない。グーダンたちは止めていた足を動かすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ