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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶がないわけではない、記憶はここにあった。
93/108

◆93

 殺す、殺す、殺す、殺す。一人残らず殺してやる。誰がどんなに泣き喚こうが、叫ぼうが、楽園の女王(クィーン)の傘下の者は絶対に殺してやる。怒りをぶつける場所がないから、楽園の女王(クィーン)にぶつけてやる。


 感情任せにやって来たのは楽園ヘヴンの本拠地である中枢都市だった。そこでは楽観的に暮らしている人々が見えていて、それを見る度に憤怒が込み上げてくるよう。グーダンの教えでは一対複数の時は勝ち目がないから、無謀な戦いは避けろと言われてきた。だが、そんなこと関係ない。どうでもいい。知らない。


――だって、今から楽園ヘヴンの人間は一人残らず殺すつもりだから。


 手には禍々しく光るフォーム・ウェポン。その形状は夢に見た奇妙な柄の形をした剣。町の入口にあるゲートへと迷いなく足を進ませる。もちろん、警備をしているヘヴン・コマンダーはあやしい人物だと捉える。呼び止めようとした。


「きみ、ちょっと――」


――黙れ。


 声をかけてきたヘヴン・コマンダーの首が飛び、血があふれ、それを見た楽園ヘヴンの者たちは大騒ぎ。ぎゃあぎゃあと喚く彼らに気付いた他のヘヴン・コマンダーたちが駆けつけるのだが、その場所はただの殺人事件ではなかった。


 無言状態の青年が右手に真っ赤に染め、一風変わった武器を手にして、ヘヴン・コマンダーだけに限らず一般市民にも手を下していたのだ。無言、であるは少し語弊があった。誰かを斬る度にニヤニヤとにやけている。その表情から察するに普通の人間とは言いがたい。彼は人と呼ぶより、鬼だった。


「そ、そこのお前! 武器を捨てて、手を挙げろ!」


 ワンテンポ遅れて、事態に駆けつけてきたヘヴン・コマンダーが声を荒げるようにして銃口をに向けた。こちらをじっと見つめるその薄くて青い目は鋭く冷たい。だからなんだ、と言っているようだった。


「早く武器を捨てろ!」


 この殺人鬼、狂っていやがる。どうにもならないと思ったのだろう。一人のヘヴン・コマンダーが発砲をするのだが――その弾は相手の体に着弾することなく、代わりに手に持っていた武器が変形して盾となった。


「な、にぃ!?」


 驚きは隠せない。更に焦りを見せる彼らはどんな形でもいいから、被害を抑えるために引き金から指を離そうとしなかった。相手を本気で殺そうとしないと、こちらも殺される。そんな奇妙な雰囲気が、空気が取り囲う。


 そんな豆鉄砲が効くものか。じっとヘヴン・コマンダーたちを捉える。だが、口元だけはにやりとつり上げている。次の標的、殺すおもちゃを見つけたようだ。


――ゲームをしましょ。ルールは簡単、俺がお前たちを殺すだけ。お前たちは大人しく殺されろ。それがこのゲームのルール。この世界においての俺独自のルール。


 ヘヴン・コマンダーに一度も銃弾を着弾させることなく、振りかぶった剣を叩き落とした。そこに新たな苦痛に満ちた顔が二つ、三つ、四つと生まれるのだった。


 ゲートを潜っても、警報は鳴らない。当たり前だ。右手には偽装チップをしているから。それでも、危険な侵入者が来たとして、戸惑う市民とヘヴン・コマンダーたちがやって来るのだった。


――わあ、やったぁ。こんなにいっぱい来たよ。こんなにたくさんのおもちゃがあるなら、飽きないね。でも、こんなにたくさんのおもちゃを俺が独り占めしていいのかな? うん、いいんだよ。誰もダメとは言っていないからね。これは俺の、『イアン君』のおもちゃ。これは『――――君』のおもちゃ。


――さあ、『イアン君』のために死んでくれ。


――思いを叶えるため。望みを叶えるため。すべてはあの子に逢うため。記憶を勝手に思い出さないようにしてきた『彼』に対する腹いせ。関係のない人を巻き込んでの虐殺。笑える。全部楽園の女王(クィーン)が悪い。悪いんだ。何もかもが。悪い、悪い、悪い。『イアン君』はいい子にしていた。ずっと、運命に抗いながらも。嫌々と絶対的運命に翻弄されながらも、ずっとそうしてきた。それは好きだった前回のイアン・アリスがいなくなろうとも。


――なのに、楽園の女王(クィーン)ときたら。わがまま放題もいい加減にしろよ。これは『――――君』とあいつらの世界だというのに。『――――君』が一番望ましいとしてきた世界をぶち壊しやがって。夢から覚めさせやがって。絶対に許すものか。絶対許してやるものか。泣き喚いたって、全部お前が悪いんだからな。


――そうだ、いいことを思いついた。今から別のルールを作っていこう。楽園の女王(クィーン)のもとへと辿り着くまで、この町を血で染めよう。ペイントしよう。初めてそういうことをするから、上手くできるかわからないけど。難しいかもしれないけど、楽しいに決まっているよね。真っ赤に染まった町。ふふっ、楽しい、楽しそうな町じゃないか。ほらほらほらほらぁ! 『イアン君』にインクを寄こせ。その血のタンクを『イアン君』に持ってこいよ。


――あははははっ! ぶちまけろ、ぶちまけろ! みんな、来い! ここじゃ、楽しいイベントをしているぞ! 『イアン君』独りより、他のみんなも参戦した方が楽しいはずだぜ! ネットゲームをするよりも、ボードゲームをするよりも、何よりも楽しい。


――インクが足りないから探すよりも、誰かがこちらにも持ってきてくれるからイベントは止まないよ。何か途中でタイムアタックとかサブクエストが出てくるかな?


――おお、見てみろよ。ここら一帯が血塗れだぜ。赤くペイントで染まった町も悪くないものだな。ちょっと金属臭いけどな。


――いやあ、この町って結構広いよな。独りでペイント塗りたくるの時間がかかるなぁ。誰か助っ人に来てくれないか? もしもし? 『――――君』だよ、どうせヒマだろ。ちょっとこの町でペイントぶちまけ大会に参加しない? へえ、来てくれるって? 助かるぜ。『イアン君』独りだと、タイムアタックは厳しいと思うからな。おっ? あの人も連れてくるって? 頼りがいのある人じゃないか。きっと、『イアン君』たちの中でも、誰よりも仕事をしてくれるよ。楽しそうにな。これ、仕事じゃないけども。


――うおっ、タイムアタックが始まったよ! この期間中にたくさん血のペイントを塗れば、アイテムがもらえるんだよな? どんなアイテムがもらえると思う? 『イアン君』はね、ちょっとレベルが高い回復アイテムだと思うんだ。参加賞ももらえそうじゃないか?


――来る来る来る来る来る! 来たぁ! 血のタンクが来たぜ! これで一気に大量のペイントができるぜ! ああ、楽しいな。え? あいつは来れないって? うーん、あいつはノリが悪いからな。いや、『――――君』はノリがいい方だろ。お前だって、『――――君』はベスト・オブ・ツッコミマンとかなんとか言っていなかったか? ほとんどのお前らのボケを処理してきたのは誰だと思っているんだよ。


――そう、決まっている。すべて『――――君』のおかげなんだよ。『――――君』がきちんとボケとツッコミを両立させていたんだよ。覚えている? いや、覚えているよな? お前らだもん。あいつのことだもん。『イアン君』とお友達だもんね。


――タイムアタック終了まで後五分! 意外に長いっ! 時間は長いのは嬉しいけど、悲しいことに町が広過ぎる! どうしようかね。手分けする? いやぁ、こうしてみんなで参戦して遊ぶのってスター・トレジャー以来だよな。ガンと『――――君』と――。


「そこまでだ」


 鈍い金属音が聞こえてきたかと思うと、攻撃を受け止めている人物がいた。だが、その人物は一人ではなく、二人いた。背後からすっと来た誰か――ガブリエルはこちらの首を獲ろうとするのだが、獲れなかった。フォーム・ウェポンによって邪魔をされたのだから。


 間合いを取る三人は互いを睨み合う。


――出てきたぞ、出てきた。ここには雑魚ボスがいるんだった。気をつけないとな。


「お前はイアン・アリスか。ここまで来たということは楽園の女王(クィーン)様の首獲りか」


 そうはさせまいとして、ガブリエルとラファエルは身構える。どこか以前の雰囲気とは違う相手に怪訝そうにしてきたが――。


――雑魚ボスのときって、二人出てくるのは厄介だよね。でも、大丈夫。レベル的に問題なぁい。逆に倒せば、ドロップアイテムはレア物だろうし、経験値もたくさんもらえるからな!


 相手のことを気にせずして、動き出すのだった。もちろん、まだゲームの最中だと思っている。

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