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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、記憶をよみがえらそうとすることはできる。
86/108

◆86

『No.0001/カルテ:患者84627:仕事中の事故により両腕切断。幸いにも命はとりとめたが、まだ気を失ったままである。切断された腕は使い物にならない。彼の経済的状況から察するに義手をつけにくいだろう。もしかしたらこのままで過ごすと諦めざるを得ないかもしれない。』


『No.0007/カルテ:患者84627:両腕切断となった患者が目を覚ました。やはり、切断がショックなのか精神が不安定である。どうにかして義手をつけたいと悲願してきた。だが、生憎こちらは偽善団体でもないため、彼の経済的状況から考えて不可能ではないだろうか。』


『No.0023/カルテ:患者84627:一人で自分の世話が不十分な患者は日に日に増して精神状態が悪くなる一方である。ここまでくれば、私自身も可哀想に思えてくる。だから、少しでも精神が和らぐようにカウンセリングを行った。それでも、彼は義手をつけたがっているようだ。』


『No.0044/【極秘】カルテ:患者84627:【ロック解除】どうしてもと義手をつけたがっている患者にある計画を提供してみようかと思う。きっと、この計画に賛同するに違いない。なぜならば、彼は「手」さえあれば、「何でもいい」と言っていたから。』


『No.0051/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】本日を以って、患者84627を被検体No.810へと変更。早速、計画通りに沿った被検体の施術は成功。見た目は火傷痕のように見えるが、それは皮膚硬強化剤の影響によるものである。だが、見た目が悪くとも、「人の腕」のようには見える。これならば、小うるさい生物学会にも目はつけられまい。』


『No.0054/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】もっと実験成果を見てみたい。そこで被検体に医療実験に付き合って欲しいと嘘をつくことにした。彼には医療実験の報酬を与え、こちらに協力的にさせるつもりだ。彼だって現状からすれば、喉から手が出るほど報酬が欲しいと思うに違いない。』


『No.0063/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体No.336と戦わせてみた。被検体No.810は話が違うと憤怒していた。どこが違うというのだろうか。私が考えている計画「MAD計画」に不備はないはず。それを用いれば、世界は救われるというのに。』


『No.0068/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体が幾度も脱走しようとするため、一日に何度も鎮静剤を打つことにするしかない。ずっと彼を説得しているのだが、聞く耳を持たないようだ。それでも誰が絶対にこの成功個体を野放しにするものか。「MAD計画」はあの教えに基づいてしているのだから。』


『No.0076/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体を上手く操作するように脳情報遠隔操作装置の運用を開始。実験のときだけ被検体の脳を麻痺させ、眠っている状態にする。その間、それはもう一つの脳としての機能の役割を果たすとのこと。これで実験もスムーズに動かせるはず。娘に感謝だ。』


『No.0077/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】実験は上々。すべてにおいて都合の悪い記憶だけの記憶に鍵をかける状態というのはなんというすばらしい物なのだろうか。この脳情報遠隔操操作装置はそれだけに飽き足らず、こちらの命令で体の機能を活動させることができ、都合の悪い情報は隠蔽できるのだから。』


『No.0255/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体が脱走。どうやら隠蔽していた記憶を知られてしまった上に政府軍に捕まってしまったようだ。非常に惜しい話ではあるが、もうこの被検体は捨てるしかない。こちらが捕まる前に。まだ実現できていない計画を遂行させるために。』


『No.0256/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体が政府軍からも脱走し、こちら側に対して一番厄介な人物と共にいるらしい。だが、その人物は「あれ」を持っていない。一応は一安心ではあるが、非常に面倒であることには変わりない。一刻も早く、被検体を連れ戻さなければ。彼らが結託する前に。』


『No.0259/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】私の手元から被検体が離れて半年が経つが、何度も見つけては逃げられているようである。彼らを総動員しても、必ず撒かれるらしい。やはり非常に面倒である。もしかしたらば、こちらの計画を潰すつもりで結託した可能性がある。』


『No.0260/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被検体捜索している彼らの情報では、被検体は成長したという。どうも皮膚硬強化剤を投与された別の成功個体と戦闘になり、その個体のMADを食したという。腕だけだったそれは全身に回ったらしい。実にすばらしいし、その成功個体すらも凌駕する力だったという。早く、私の下へと戻ってきてくれないだろうか。あの被検体の帰る場所なんて、ここしないのだから。』


『No.0263/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被験者があの人物から離れたという情報が入った。脳情報遠隔操作装置を脳に植えつけて、操作するには被検体の位置情報が確かでなければ命令することが叶わなかったが、なんとか位置情報を掴んだ。そこで私が被検体に命令を下したのは「彼」の殺害である。これで邪魔者はいなくなる。殺害後は私の下へと帰ってくるだろう。』


『No.0264/【極秘】カルテ:被検体No.810:【ロック解除】被験者が「あれ」を所有する彼に殺害された。つまりは、被検体は私の下へと戻ってこなくなることが決定付けられた。私の最高傑作はこの世からなくなってしまったのだ。成長すらもする完全な成功体だったのに。もはや、被検体No.645と被検体No.200に期待するしかない。』

 色々と探し回って見つけた情報データの塊。かなりの大きさのものがあった。それを見つけたとおきのイアンは驚愕したが、内容を読み取れば、もっと驚いた。これはとてつもなく重要事項であり、楽園ヘヴン側が管理してなければならないようなデータではないだろうか。


「……これ」


 とんでもないようなデータでもあり、今のイアンにとっても必要的な情報でもあるのには間違いない。この研究データには脳情報遠隔操作装置という自身の記憶を取り戻すのに使えそうな代物があるから。


 それがデータ内にないかどうかを見てみたが、残念なことになかった。だが、有益な情報を得た気分だった。これをガンのもとへと持っていき、これらの情報だけでどうにかならないだろうか、と訊いてみると――。


「もしかして、これのことかな? それっぽい情報があるよ」


 自分も有益な情報を拾ったという。それは所々欠けている物だが、データとしては『MAD計画について』とある。ここで出てきているMAD計画とは一体何なのか。この時代におけるような内容ではないことは間違いないだろう。これに「政府軍」と表記などせずに「楽園ヘヴン」となるだろうから。いや、この時代において必要性のない計画データだからこそ、データ・スクラップ・エリアに捨てたのだ。


「…………」


 ふと、思った。もしも、もしもである。イアンが元々持っていた記憶というのは楽園ヘヴン側からしたら、不都合な記憶を持っていたならば? そうと考えるならば、ヘヴン・コマンダーたちに追いかけられていたという事実の辻褄は合う。この重要事項も闇に葬りたいならば、ここに捨てればいいだけの話。ここに人はこない。ユーザーも来ることはない。何より、現実世界の人間がこうしてコンピュータ世界へと潜り込むと考えないだろうから。


 そうと考えるならば、なおさらイアンの記憶は取り戻さなければならなくなる。こちらには勝利の情報が脳に詰まっている可能性があるのだから。しかし、待てよ。一つだけ気掛かりなことがある。


 楽園ヘヴンにおいて、都合の悪い情報の記憶があったとしても、どうして自分の名前以外の記憶はないのだろうか。そこだけが気掛かりである。とにかく、それも知る必要があるとして、イアンはガンに思い出せない記憶をよみがえらせるためにお願いを申し立てるのだった。

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