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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、記憶をよみがえらそうとすることはできる。
85/108

◆85

 わからないデータの内容を把握するにはコンピュータに関して一番詳しい者に訊けばいい。それはイアンとレーラの友人にして、コンピュータ世界の住人であるガンのことである。彼ならば、自分たちにとって理解不能なデータ情報を読み取ることができるだろう。


「ガンっていうのは、この前イアンたちが行ってきたというコンピュータの世界とやらか?」


 イアンたちがコンピュータの世界へと行ってきたことを知っているグーダン。それでもあまり自信なさげに、そう訊ねた。


「そうです。ちょっと、行きと帰りは面倒ですけど、ガンならこのチップの内容がわかるかもしれないですし」


 確信はない。だが、自身が拾ってきた謎のチップのデータ情報の解析をガンならば、できると思っていた。いや、彼に頼らざるを得ないのだ。それほどまでに、理解不能の数文字羅列が並びに並んでいるのだから。


 訳のわからない文字が並ぶ画面を見て、グーダンは「わかった」と決断する。


「今のところ、イアンにミッションはないしな。時間もあるから、行ってくるといい」


「ありがとうございます」


 早速、イアンがタッチパネルの方へと歩み寄ろうとするのだが、そこをコンピュータ室の管理人が止めた。ここから行かなくとも、問題のない行き方があるらしい。こちらだ、と言う言葉に着いていってみると――。


「こういうことがいつかあるだろうって思って、作っておいてみたんだ」


 コンピュータ室の裏の部屋には一つの大きなモニターと椅子のようなベッドのような硬い質感の台があった。管理人はそれをあごで差しながら「寝てみて」と促す。


「寝た状態でもコンピュータの世界に行けるような台を作ってみたんだ。これが一番安全だからね」


「わあ、ありがとうございます。これなら、いつでも行けますね」


「そう。で、ここ。右手のところにはタッチパネルがあるから」


「本当だ」


 そう、コンピュータの世界に行くにはあまり気軽に行けるようなものではないのだ。向こうに行っている間、体は気を失った状態で、自分の意思で動かせないのである。逆にコンピュータ世界から現実の世界に戻るにはタッチパネルに手をかざした状態でなければいけない。つまり、誰かが常に付き添っていないといけない。そこで管理人が考えたのは誰かがいなくても、気軽に行けるよう体を寝かしておいておける台と備えつけのタッチパネルだ。


 イアンはその台に寝転がると、右手の平をタッチパネルにかざした。しばらくそうしていると、大型モニターに変化が訪れ――彼は一瞬で気を失うのだった。

 誰かに肩を叩かれた気がして、イアンは目を覚ました。最初に目に入り込んできたのは白くて無機質感のある床だ。青くて光っているラインが所々走っている。


「イアン? 大丈夫かい?」


 次に聞き覚えのある声が聞こえてきた。ゆっくりと体を起こすと、そこには愁眉を見せるガンがいた。


「ああ。やあ、ガン」


「びっくりしたよ。いきなり普通のデータとは違う何かをインストールしたって情報が届いてね。確認してみれば、イアンだったよ」


「うん、俺、ガンに用があってここに来たんだ」


 イアンはこれまでの経緯をガンに話した。そして、見つけたチップの解析をしてもらいたい、と依頼を申し立てた。


「何かしら、俺たちの都合のいい情報が詰まっているかもしれないんだ。手伝ってくれないかな?」


「それは別にいいんだけど……もしかして、十分前に情報提示してきた物のことかい?」


 これ、とガンは縮小サイズでチップのデータ情報を見せてくれた。これだ、意味不明な数文字数列の代物。


「それ。それのデータの内容をわかりやすく知りたいんだ」


「これは……いくつかは欠損があったにしても、人の記憶が入っているね」


 人の記憶、というキーワードに反応するイアン。管理チップ、偽装チップよりも薄いチップ。こんな小さな物に人の記憶情報が詰まっているなんて。


「チップに人の記憶を入れることができるのか?」


「このチップならね。相当スペックが高いだろうね」


「なあ、人の記憶をそうして情報提示ができるなら、俺の記憶もそのように見ることできる?」


 気になるのだ。失った自分自身の記憶を。知る術がなかったから、ずっとそのままにしておいていた。なんとなく、本当の自分を知るのが怖かったから、思い出さなくてもいいと思っていた。己は本来、どちらの立場に立たなければならないのか。レジスタンスか楽園ヘヴンか。それとも、ただのノーサイドだったのか。


 いつまでも逃げてばかりではいけない。そろそろ知るべきときに目を背けてはならない。


――結果が怖くとも、俺は知りたい。知らなければならない。


 イアンがガンに訊ねると、彼は渋った表情を見せた。


「もしかしたら、できるかもしれないけれども。でも、私にその方法はわからないんだ」


「……そうか」


「それでも、データ・スクラップ・エリアに行けば情報はあるかもしれない」


「うん」


 その希望にすがるしかなかった。たとえ、情報のごみ捨て場だとしても。くずくずになった小さな使えなさそうなデータの塊しかなくても。

 相変わらずデータ・スクラップ・エリアはたくさんの楽園ヘヴンのユーザーでいっぱいだった。その人ごみをすり抜けて、情報の海岸へと向かう。相変わらずの黒いデータの海だ。そこへと足を踏み入れないように、砂浜を歩く。大、中、小と様々な形と色の情報データがそこかしこにあるではないか。


「イアン、これ」


 ガンがイアンにある物を渡してきた。それは手の平に乗る大きさの白い板のような物だった。黒い色をしているフォーム・ウェポンと対照的である。


「これは?」


「それで情報データを解析できるから。自分のプログラムに組み込めば、知ることができるよ」


 ありがたい物だった。これならば、情報の内容をガンに教えてもらえなくても自分で知ることができるし、二手に分かれての作業でもできる。なんだったら、ガン自身Re:WORLDシステムの仕事もあるだろう。そのときは自分だけここに残ればいいだけの話だ。


 イアンはガンからもらった情報読み取りプログラムを自分のデータプログラムへと組み込んだ。そして、近くにあった少し大きめのデータの塊を拾い上げて読み込んでみる。


『ちょっぴり辛めの肉野菜炒め』


 何かの料理のレシピではあったが、きちんと読み取れているようだ。わかる。これはとても便利な代物。


「ありがとう、ガン」


「うん、じゃあ探そうか」


 自分の記憶を取り戻すため。知るため。イアンとガンは情報を探し出すのだった。

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