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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、考えは自由である。
78/108

◆78

 どうにか、こうにかププチェの町から地下水道を通ってクェイラたちの拠点へと無事に戻ってきたイアンたち。追いかけてきていたヘヴン・コマンダーたちを撒いていた。


 これ以上は大丈夫かな、とイアンはグーダンの姿をしたフォーム・ウェポンを元の平たい板へと戻す。これにより、抱きかかえられていたクェイラは地面へと落とされた。下へと落とされた音にレーラは口を押えて性格の悪い笑い方をし、イアンと他の女性レジスタンスは彼女の心配をしていた。


「あの、大丈夫ですか?」


 思わず、クェイラの目の前でしゃべってしまったイアンは手を差し伸べる。いけないとわかっていても、愁眉を見せていた。


「いったぁ……! ちょっと!」


 クェイラはぎろりと睨みつけてきた。これにうっかり滑らせた自身の口を塞ぐ。ただ、差し伸べた手を引っ込めようとはしなかった。


「なんであの人を消したのよ!」


「え?」


 自分の手ではなく、他の女性レジスタンスの手に捕まって立ち上がる。よほど落ちた衝撃が痛かったらしい。腰を擦りながらふくれっ面を見せていた。


「……そうね! 一応、お前たちにも手伝ってもらった。それを上乗せした情報とその武器をこちらに寄こしなさい!」


 どうやらクェイラはただ働き同然で死にかけたイアンとレーラを労うこともなく、情報提示の条件を出してきた。これにはたまったものじゃない、としゃべることができない彼の代わりにレーラが「冗談じゃないですよ」と一瞥する。


「どう考えても、私たちのリーダーが欲しがっていた情報の対価と釣り合わないと思うんですけど。元々、この武器は私たちの物。これが欲しければ、それなりの価値あるものと交換に決まっているじゃないですか」


 それならば、とクェイラが口を開こうとするが、レーラがそれを遮って「でも」と鼻で笑う。


「ププチェの町で爆弾倉庫がすっからんからんになるまで爆弾を使ったもの。こちらが欲しいと思う物なんてあるわけないでしょうね」


「何ですって!?」


「ほら、こっちは元よりププチェの町のヘヴン・コマンダーたちの情報を提示するから、早く私たちが欲しい情報をくださいよ。そこから、フォーム・ウェポンをどうするか考えてあげるんで」


 どうも、レーラが一枚上手だったようだ。クェイラは悔しそうな表情を見せながら、本来グーダンたちが欲しがっていた情報のデータを二人に渡す。その代わりとして、レーラはこちらが持っている情報データを渡した。渡した情報データを見ながら彼女は「言っておくけど」と念押しをする。


「私たちが渡した情報って、今日から大幅に変わると思いますよ。だって、全滅しないまま逃げてきたんだもん。より楽園ヘヴンの警備は厳しくなるんじゃないですか?」


「なっ!? そ、それならば、その武器を――」


「あげるわけないでしょ。私たち、死にかけのミッションを請け負ったぐらいですもん。逆に、あなたたちがしでかしたことは因果応報、自業自得。まさにそれですよ」


 だから、フォーム・ウェポンを渡すものか、とレーラはイアンに「行くよ」と急かす。


「情報交換は終わった。リーダーの指示に従って、私を拠点まで連れて帰って」


 イアンの返事の有無すらも聞かず、彼の手を引っ張って拠点へと出ようとする。そんな彼らの後ろからはクェイラが「待ちなさいよ!」という怒声が響き渡っていた。

 それから数日が過ぎた頃にグーダンはクェイラに呼び出しを食らって、ダミー拠点で会談をしたという。話の内容は二つの派閥の同盟申請だった。しばしばの情報交換、そのためのネットワークを共有すること。ヘヴン・コマンダーの拠点壊滅における作戦、武器共有すること。この条件の下にクェイラはグーダンを説得しようとしていた。


「どう? 思想こそは違うけれども、私たちの目的は一緒でしょ? 同盟とか結んで……」


 ゆくゆくは武器共有で手に入れたフォーム・ウェポンをグーダンの姿にして――。クェイラは本物のグーダンには興味がなかった。あるのはあの黒光りをした人間味のない彼である。


 この提案にこれまで苦渋を飲まされてきた経験があるグーダンは警戒心を高めていた。そう、彼もまたイアンと同様に彼女から殺されかけたのだ。かろうじて、助かったことのある記憶。人生で死ぬかと思った体験ランキング一位。その悪夢が再び舞い降りてくるのか。そう考えると、首を縦に振ろうとは思わなかった。このまま話の内容を有耶無耶にするかと思えば――「悪いが」。


 グーダン一派とクェイラ一派の同盟交渉決裂。その答えにクェイラは血の涙を流す勢いで「なんでよ!」と認めようとしなかった。


「私は互いのメリットを考えて、同盟の提案をしたのであって――」


「いや、だって。そっち男と組まないって……」


 正確に言えば、二度と組まないである。クェイラは以前にそう言っていた。この二つの派閥の仲介役であったティアナの死によって、元々存在していた条約は無効になってしまったのであるから。


「もう一度同盟を結んでちょうだいよ! いいでしょ!」


 いいわけないだろ。グーダンは心底思っていた。ティアナの件だけではない。やたらと時間のかかったイアンとレーラの情報交換。話を聞けば、以前に自分が体験のしたことのある罠に引っかかっていたではないか。トラックが運転できる女性レジスタンスがいなかったことが今回の騒動になったというのに。イアンなら、レジスタンスの中で運転ができる若者だと思っていたら。それでもダメだったんじゃないのか。彼を利用したというのであれば。


「何度も言うが、こちらはもうそちらとは組む気はない。以前、あなたが契約書すべてを俺の目の前で燃やして見せたじゃないか。それに、コレクタルス要塞の作戦もほとんど加わっていなかったようだし」


「何よ! こっちはか弱い女しかいないのよ!? 助けてくれてもいいじゃない!」


「それなら、ゲジェドの方に交渉行けよ。あっちの方が規模の大きいだろうし」


 現状を考えるならば、である。女性しかいないレジスタンスを強化するならば、元より人手不足のこちらと同盟を結ぶよりも。ただ単に楽園の女王(クィーン)を倒した先の未来のヴィジョンを見据えていない自分たちよりも、きちんと将来を思って戦おうとするゲジェド一派の傘下に入った方がいいだろう。それこそ、か弱いのであれば、ゲジェドはフェミニストでもあるのだし、喜んで手を組んでくれるだろう。


「ということで、話は終わりでいいな? 悪いが、こちらは人手不足に加えて、内情が複雑なんだ。これ以上の混乱を他の連中に与えたくないんでね」


 さっさと撤収を促すグーダン。これに対して、クェイラは「そんなっ!」と下唇を噛む。


「私たちのところだって……」


「そちらが何を狙っているのかは分からないが、ゲジェドはお菓子さえ与えれば、誰でも動いてくれるさ。それもなおさら美人のあなたならな」


 これだけ、なんとかしてくれる誰かの情報を分け与えたのだ。あとは自分たちでどうにかして欲しい。これ以上の関わりを持とうとは思わない――いや、持ちたくないグーダンは息を吐きながら部屋を後にした。その場に残ったクェイラは彼が言っていた言葉を頭の中で繰り返す。


【美人のあなた】


 不本意ではあるが、そういう風に言われると――。


「な、何よ……もうっ!」


 顔が熱くなる。思うはグーダンではなく、フォーム・ウェポングーダン型。あの逞しい体つきに黒光りの笑顔。フォーム・ウェポンとはしゃべるのだろうか。もし、そうであるならば――それが自分の隣にいてくれたならば、どんなに毎日が楽しいことか。


 それを思い出のままに残したくない。そんな考えのクェイラは同盟交渉を何度も行っていたという。

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