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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、考えは自由である。
77/108

◆77

 怒号と悲鳴が煙に紛れ込むようにして、クェイラたちは苦戦を強いられていた。町の中で、しかも大層賑わっているような場所に駐車して待機しておくように指示は出した。その場で巨大爆発、町の住人たちには多大な被害が及び、ヘヴン・コマンダーの大半の者たちはそれらの救助と原因、警備で忙しいと思っていたのに!


 予定外だった。少しばかりのヘヴン・コマンダーたちと戦うことはわかっていても、戦えば戦うほど援軍は増えていくのだ。


「くのっ!」


 クェイラは少しばかり後悔した。トラックの荷台に乗せていた爆弾に火薬を使い過ぎた、と。ププチェの町は大きい。だから、制圧するためには大量の火薬を使った爆弾が必要になる。町の中心地に爆発を起こせば、いいとばかり思っていたのだから。


 これはとんだ見込み違いとでも言えばいいのか。弾薬もなくなり始めてきている。このままではイアンとレーラのように死ぬだけだ。


「た、退却! 退却だ!」


 これはもう負け戦でもいい。自分たちの命が惜しいのだから。そうクェイラは女性レジスタンスたちに呼びかけるが――「無理です!」そんな答えが返ってきた。


「退路からもヘヴン・コマンダーが来ています!」


「何ッ!?」


 冗談じゃない。ただでさえ、少ない銃弾しかないというのに。この状態で長期戦に入るとなると――死ぬのは確実。それを回避する術もない。死にたくないのに、死にたくないのに。まだまだ生きたい。それでも、あんな思いをするのは嫌だ。自分たちが男たちを見下す生活が止められないから。もう見下される生活はしたくないから。


 必死に逃げた先が――。


【男なんて信用ならない】


――女だから、男だから。女はただの男に頭を下げていればいいの? それは違う。男が女に頭を下げていればいいんだ。これまでの人生は大きな間違いがあった。だからこそ言える。男なんて関わっていると、ろくなことにならない。


 事実そうだった。イアンに指示を出したのに。爆殺したのに。なぜかこちらに怒りの矛先が向けられているのだから。


――その目でこっちを見るな。私を見るな。その目、その目、その目ぇ! 男の存在がなくならないならば、目を潰せ。二度と、光を見せるな。光は女だけの見てもいい物。男は一生暗がりの中で――。


 そう、死を目前と向かえていたクェイラを暗がりの中から現れた黒い人物が救い出す。


「えっ!?」


 見覚えはある、その体格。だが、無機質だ。当たり前だ。人の温かさはない謎の存在がクェイラを抱きかかえていたのだから。


 なんだ、これは。なんだ、この――「人?」? 人と呼んでもよろしいだろうか。生気はないように見えるけど。


 混乱するクェイラであったが、ヘヴン・コマンダーたちの悲鳴を聞いてそちらの方を見れば、もっと困惑する。ごつい体格をした男――黒いグーダン――金属質のあるグーダンはもう一人いたのだから。


「は、えっ!?」


 何も戸惑っているのは自分だけではない。他の女性のレジスタンスも、ヘヴン・コマンダーたちも反応に困っているのだ。これ、どうしたらいい? 何、人じゃないよね。グーダンであるのはわかるけど――何、これっ!?


 呆気に囚われる一同。そんな彼らの珍妙な空気を破壊する者の声が響き渡る。


「こっちです!」


 物陰から死んだはずのイアンとレーラが誘導してくる。クェイラを抱えていた方の謎のグーダンを筆頭にレジスタンスは退却していく。その列の殿しんがりはもう一人のグーダンだった。


「お、追いかけろぉ!」


 ワンテンポ遅れて隊長らしきヘヴン・コマンダーが叫ぶ。その指示に他のヘヴン・コマンダーたちはイアンたちを追いかける。それを待ち侘びていたかのように、殿にいたグーダンが――この先は何人たりとも行かせるものかっ!


「な、なんだ、この訳のわからないのは!」


 殿グーダンに頬を殴られるヘヴン・コマンダーの悲痛の叫びがイアンたちの方にも聞こえていた。まさか、それらを操っている当の本人たちの方が訳がわからないとは思うまい。自分たちがかろうじて理解しているのはこのグーダンが本物のグーダンではなく、フォーム・ウェポンで形成された武器だということだ。人の形をした物を武器というにはいささか変な話ではあるのだが。


 地下水道へと急ぐイアンたち。そんな彼の目の前にも逃がさない、と騒ぎに駆けつけてきたヘヴン・コマンダーたちが立ち塞がる!


 しかし、安心して欲しい。楽園ヘヴンクロシキ社で作られたどんな金属にも負けない商品がこちらっ! フォーム・ウェポンですっ! どうです、この美しいボディ! 特殊な金属に対して、更に硬度繊維と弊社独自加工によって、水につけようが雨風にさらされようが――一切錆びつきません! 見てください、この洗練された綺麗なブラック! ですが、この商品はただ単に硬い金属ではないんですよ。ほら、見てくださいっ! これに触れて念じるだけで色んな形にも変形できるんですよ。普段はこうして携帯できる手の平サイズ。あなたが持っている小さなバッグにもズボンのポケットにも入りますよ。そして、そして――これだけではないんです! 色んな形にも変えることができると言いましたが、その想像力は無限大っ! 無限大ですよ! なんならば、用心棒として人の姿に変形させて警備役をさせることだってできるんですから! そんなフォーム・ウェポン、今ならこのお値段! 更に、更に今から三十分以内にお電話をしていた方だけに、こちらっ! もう一本おつけしてこのお値段! 据え置きですよ!


 いつかこれを売るときは高値で売れそうだと思うフォーム・ウェポン。グーダンの形をしたそれ。それはクェイラを抱きかかえたままでもヘヴン・コマンダーたちを殴る、殴る。殴るだけ。時たま蹴り上げる。


 そう、グーダンの形をしているからその手は人間の形をした手のまま。銃器になることはありえないのだ。人間を模倣として作られているのだ。見た目だけで言うならば、鈍器と言うが正しいだろうし、武器性能としては限界があると見せかけて――ないっ! フォーム・ウェポンというのは持ち主の無限大にある想像力によって形を変えることができる代物なのだから。


 そんな到底普通の人間ではないのだが、クェイラはこの逞しい腕に加えて果敢(人ではないから感情もないため、平然と敵に突っ込める)さに顔を赤く染めた。


 この自分の気持ちに首を横に振って否定する。ありえない、これまで男に対して屈辱を味わってきた自分が――私が男に惚れるだなんて!


 何も考えようとはせず、むしろこれが当たり前だと自分を正当化しようとするのだが――フォーム・ウェポングーダン型を見れば見るほどかっこいいと思ってしまう自分がいる。そういう強い男に助けてもらって得意げになっている自分がいる。おかしい、おかしいぞ、この世の中はどうなっている!?


――この私が!? おかしいし、ありえない!


 頭を抱えるしかない。それでも、黒光りするグーダンを見れば――。


――かっこいい……!


 そう思うクェイラが悪女から恋する乙女に変貌を遂げるのだった。

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