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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、ここには手掛かりがある。
70/108

◆70

『何もできなかった』


 父親の言葉を今も覚えている。当時のキュレット村の村長は先祖の恨みを、嘆きを子どもに教えていた。


「昔はな、ここで世界のために戦う人たちが集結していたんだ。世界を滅ぼそうとする者たちを倒すためにな」


「ふうん? それで悪い人は倒されたの?」


「ああ、倒されたよ。だけれども、それで平和になったわけではない。村の外でも物騒な人たちがいるだろ? あの人たちがこの世界を構築しているという『書』を持っていってしまったんだ」


「それ、取り返さないの?」


「取り返せないんだよ、もう。私たちに残されたのは、心の教えだけ」

 取り戻せばいいのに、と子どもの頃から思っていた。先人たちが取り返せないならば、自分が大人になったときにすれば叶うと夢を見ていた。


 なぜに奪われた『書』を取り戻せないのかを知ったのは自身の父親が死ぬ間際のことだった。すべてを聞いた。何もかも。昔の戦いであったことも。


 世界のために『書』を守り続けてきた先人たちはさぞかし悔しいだろう。悲しいだろう。世界は書き変えられて、楽園ヘヴンの人間だけの世界になってしまったのだから。楽園の女王(クィーン)がふんぞり返っているだけの世界になってしまったのだから。子どものときに夢見ていたものなんて、所詮は夢物語。それだからこそ、この世界は彼らに乗っ取られたのも同然だった。


 そう、世界は夢を見せるほど私たちを嫌っている。それがこの世の真理だ。真実だ。どう足掻いてもひっくり返すことはできない。


「さあ、私はあなたの質問に答えました。次はあなたが答えてもらいましょうか。……貴様は誰だ?」


 何者だという村長の問いかけにエルダは観念したようにして「あたしは」とため息をつく。


「あたしは昔の王国民の子孫だよ」


「ただの子孫が『書』の存在を知っているというのか」


「ただの子孫が『書』の存在を知っているわけがないでしょ」


 つまりは、エルダは自分のことをただの人間ではないと物申しているようなものである。いや、事実そうなのかもしれないが。


楽園の女王(クィーン)の企みを知っているような人は限られてくる。第一にあなたたちキェレット村の人たちであること。そして――」


 その先を言おうとしたエルダを村長が「もういい」と疲れた顔を見せていた。


「これ以上はもういい。見たんでしょう? 早くこの村から出ていってくれません?」


「知らなくていいの?」


「知りたい、知りたくない以前にこの世界が元の世界に戻ったとしても、素直に喜べると思いますか? 『書』がこちらに戻ってきたとしても、安心できると思いますか?」


 村長はエルダの傍らにいた村人に手の縄を解いてあげるように指示を出す。そして、グーダンたちが持ってきていた武器も返却するように促した。早いところ立ち去ってもらいたいからだろう。


「仮に楽園の女王(クィーン)が倒されたとしても、第二、第三の楽園の女王(クィーン)が現れますよ。この世界はそういう呪いがかけられているようなものだから」


「そんなのわからないじゃない」


「いいや、絶対そう。『書』はこの世界の存在その物。気に入らない世界の設定を書き変えるなんて――!」


 仕舞いには、村長は村人たちに強引に村の外へと追いやるように言った。彼らに押されながらも、エルダは「待ってよ!」とまだまだ話がしたい様子。


「あたしは絶対に諦めない! 平和で幸せがある未来を彼らは夢見ていたっ! それをあたしは見てみたいんだ!」


 もうあんな泥水を啜って生きるような思いはしたくなかった。だからこそ、願う。世界から嫌われたっていい。構いやしないから、夢を見たい、と。


「村長さんだって……!」


 レジスタンスたちは村人たちによって閉め出されてしまった。もうここで物資交換の同盟を結ぶなんて不可能だろう。何がいけなかったのか、エルダは「ごめんなさい」とグーダンに謝罪をする。


「あたしが勝手なことをしたから……」


 本当はあの場所に『書』がないことは自分も村長も知っていたはず。ただ、確認をしたかったのだ。実はあの場所にまだあると信じたくて。楽園の女王(クィーン)が持っていっていないと願って。それがトリガーとなったようになって、同盟の話は白紙へなろうとしていた。なんとか軌道を修正させようと、『書』のこと、楽園の女王(クィーン)の企みや『計画』、彼の存在について言おうとした。


 だがしかし、敵わなかった。どうしようもなく、怒りを爆発させてしまった。これに関して他の者たちに責められても仕方がないとエルダは思っていた。どうされるのか、リンチか追放か。覚悟を決めていた彼女であったが、グーダンは「いや、いい」と首を横に振った。


「ここが外部とは閉鎖的な村だとはわかっているし、エルダがいないときでさえも同盟を結ぼうとは考えていなかったようだ」


 村長のあの反応から察するに自分も似たようなことを言ったならば、結果は変わらなかっただろう。


「だから俺が咎めるのは急にいなくなることだ。あとできっちりと搾るからな」


 なぜかグーダンの言葉が嬉しかった。他のレジスタンスたちはあまりいい顔をしていない様子であったが、彼がそう言うのであれば、と納得してくれたようだ。それが嬉しくて思わず目の奥が熱く感じられた。


「さて、オクレズたちを迎えに行って、帰ろうか」


 グーダンは同盟交渉が決裂しても別段構わなかった。なぜならば、本来の目的はこの村が信仰している教えが楽園の女王(クィーン)の企みのヒントにつながる可能性があるということ。


 村長を始めとする村人たちに話を聞かずとも、フロンゼのところで手に入れた本――この教典を読めば何かがわかるかもしれないのだ。結局そのことを口に出さなかった。理由は周りにいるレジスタンスたちは楽園の女王(クィーン)の企みや『計画』について何も知らないから。まだ知らせていないから。情報源がエルダであるということもあるが、それらが確信のある情報であるとは断言できないのだ。


――もっと、エルダから訊き出さなければ。


 エルダは言いかけていたことがある。向こうの企みを知っている可能性があるのは自分たちとこの村。そして――『そして』の言葉が気にかかる。おそらくは、彼女はすべての情報を出しきっていない。これまでの情報はただの小出しであっただろう。


 グーダンはエルダにしか聞こえない音量で「教えろ」と言ってくる。


「今回の償いとして、エルダが持っている情報をすべて出せ」


「わかった。でも、時間をちょうだい」


 やはりか。まだまだ表に露わとなっていない代物があったのか。その資料が何かはわからないが、これで自分たちはまだ目にしたことのない楽園の女王(クィーン)という存在に一歩近付いた気がしたのだった。

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