◆67
青年と女性の二人は武装集団に囲まれていた。その場所の半分は色とりどりの花畑、もう半分は木々があるのだが――何かによって倒されたのか。根っこがごっそりと抜けるようにしてあった。
そのような場所での戦闘体勢。正直言って、あまり好ましいとは思えなかった。青年――上半身裸に七分丈のズボン。そして、股間には謎のアクセサリーをしている。一方で女性の方はへそを出して、スカートとなる部分は膝丈まであった。二人は槍を手にして飛び道具を手にしている者たちに睨みを利かせている。
気になる。青年は歯噛みしながら、銃器を手にしている者たちに向けて槍を振るう。これで敵うとは思っていないが、敵わなければならない状況だった。ここでくたばれない。死ぬわけにはいかない。
「危ないっ!」
隙をつかれて、背中を攻撃されそうになったところを女性に助けてもらった。そのお礼として、「ありがとう!」と言う。
「そっちも気をつけてくれよ!」
「もちろんですわ!」
なんとしてでも、周りの敵を早急に片付けたかった。それには理由がある。周りの木が根こそぎ倒れていることにも関係しているのだから。だが、倒しても、倒しても現れてくる武装集団。何かしらによってこちらにおびき寄せられているのだろうか。もし、そうであるならば、傍迷惑というものである。このようなもの、自分たちは望んでいるわけじゃないのだから。
まさに大健闘といったところか。自分たちは傷付きながらも、着実に武装集団を倒していく。傷付くのは構わない。どうだっていい。そちらよりも、気になることはあるのだから。その焦りように、青年は再び隙を見せてしまった。銃弾が迫りくるのを女性によって助けてもらう。その拍子に、彼女の頬に弾が掠ってしまった。これに少しの苦痛を見せる。だが、彼は花畑に仰向けになりながらも、手に持っていた槍を発砲した者に対して投げつけた。槍は物見事に命中するのだが、疲労度が半端ない。肩で息をするしかない。もう気力で戦うしかないのだ。
花畑の向こう側にある高くそびえ立つ山を見た。その頂上からは一筋の光が放たれている。これがいい物なのか、悪い物なのか、基本的にお頭が弱い青年が悩まなくても一発でわかっていた。
――どうなるんだ!?
その光がどうなるのか。これから世界はどうなるのか。それを見てみたかった。疑問からくる好奇心。隣にいる女性はその自分の思いを汲んで、一緒にいることを選んでくれた。それはここにいる一年以上も前のこと。己の人生のために、彼女は自身の人生を捧げてくれたのだ。生涯のパートナーとして、敬愛する彼女として。
――俺はこの人を守りたい。
我が身を考えることは一度止めた。槍を手放してもなお、また手にするまでは素手で対抗しなくてはならない。それでも、やらなければならない。この人と一緒にいるために。友人と再会するために。
「らあっ!!」
飛び交う弾丸の雨を必死に掻い潜る。相手の動きを見切った上で、攻撃を加える。その繰り返しだった。自分の槍の場所まで数メートル。短いようで長い。手を伸ばしても届かない。それはまるで、自身の友人との距離と一緒だった。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。死ぬわけにはいかない。この世界の平和までを見届けるまでは。
――あいつは戦っているんだ!
それからどれほどの時間が経っただろうか。あれほどまでに湧き出てきた武装集団も少なくなり、その場には血の惨劇が残っていた。自分たちはこの場で見届けたいものがあるのだが、またこちらの方に彼らが来られてはたまったものではない。そう考えた二人は生傷だらけの体を引きずるようにして、離れた場所へとやって来た。一応は花畑のある場所でもある。
そこへと着いて、青年は倒れて横になっている木に寄りかかった。盛大に大きく息を吐く。
「怪我はいかがですか?」
女性は自身にある傷よりも、自分のことを心配していた。これに「平気だ」と答える。
「俺もだけど……」
青年が気になるのは女性の傷具合。何度も庇ってもらったせいで、綺麗な顔に傷がついているではないか。彼女に「ごめん」と謝罪すると、先に彼女の手当てをし始める。
「戦っているときに考え事をするものじゃないな」
「もしかして、彼のことをお考えで?」
「まあな」
応急処置に集中するため、しばし無言でいた。ややあって、女性の頬の手当てを終えて「うん」と言葉を続ける。
「俺、あいつにちゃんとした答えをやれなくてさ」
「でも、ケイに相談はしたんでしょう?」
「いや、結局俺もシルヴェスターもあいつにとっての最良の答えを出せていないんだ」
『彼』が悩んでいたことに何も名案を出せなかった。きっと、今頃『彼』は悩んでいるだろう。戦いに集中しなくてはならないのに。赤色の短い髪をくしゃくしゃにして頭を抱えた。そんな青年に彼女は優しく手を取ってあげる。
「信じて待ってあげましょう? それが友人というものですわ」
「ああ」
青年はもう一度、山から放たれた光を見上げるのだった。
イアンとオクレズは老人の話を聞いていた。話の内容は彼の先代から聞かされた昔に世界の命運をかけた戦いの話である。その戦いはこの土地で行われ、世界は救われたという。この話を聞いて、グーダンやレーラから聞いたことのあるなとイアンは思い返す。
【本物の世界平和が来るようにしてやるから】
話を聞く限り、その大きな戦いの後、世界に平和が訪れた――ような見せかけだったらしい。らしい、というのは聞いた記憶があったにしても、曖昧にしか覚えていないからだ。どちらにせよ、イアンにとっての目的はグーダンが率いるレジスタンスの目標を達成する手助けをすること。
「先代は友人が自分たちのところへと帰ってくるのをずっと待ち続けているんだ。わしら子孫も彼の気持ちを尊重し、毎日その友人の帰りを待っているのさ」
老人が待っているという友人は昔の戦いに戦死した人のことを差すのではないだろうか。そうだとははっきり言えない二人は互いに顔を見合わせた。
「おじいさん……」
事実を言ってあげた方がいいのか、それとも先人の遺言に縛られるしかないと思っているのだろうか。戸惑った様子でイアンが老人に声をかけると――「行ってみないか」と話を遮ってきた。
「村はずれにわしの先代の墓がある。待ち時間まで時間があるだろう? よかったらどうだ?」
その誘いに躊躇していると、オクレズが「行ってきたらどうだ」とイアンに促してきた。どうやら、自分は行かないらしい。
「そっちの兄ちゃんも一緒に来たらどうだ? 危ないやつらがここをうろうろしているぞ」
「いや、俺はここにいろって指示が下りているから」
「そうか、ならばそっちの若いの。行こうか」
老人は行く気満々、案内する気満々であった。そんなイアンは断る理由も浮かばずして「行きます」と答えるしかなかった。




