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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、嘘をつくことができる。
54/108

◆54

 右の巣(東から軍事施設)へと潜入したレーラは施設内の二階へと来ていた。外の爆発音により、ほとんどのヘヴン・コマンダーたちは屋外へと出ていってしまったらしい。しんとした廊下が薄気味悪い。


 おそらく、ではあるが、このコレクタルス要塞におけるヘヴン・コマンダーの部隊隊長は施設内にいるはずだ。隊長ともある人物が前線に出るわけがないのだから。ということは、彼らが全員出払っているという説は消えた。


 注意深く前へと進むレーラが考えるのはタツのことだ。彼女の視る予知は外したことがない。彼の死は薄ぼんやりではあるが――『このミッションにおいて死ぬ』のである。


 何がどうなるのか、どういった経緯であるのか、死因は一切わからない。ただ、死ぬ。それだけしか知らないのだ。それ故に誰にも相談ができそうにない。イアンにはつい本音ともあるべき言葉で言ってしまったが、気にしている様子はなかった。


「……いざとなったら、イアンが助けてあげるよね」


 そうレーラが呟いたとき、とある一室から「おい」と女性の声が聞こえてきた。声がバレてしまった。ということは、そこから武装集団が飛び出してくる!


 おっかなびっくりしつつも、フォーム・ウェポンを銃器へと変形させて、構えた。来るならいつでも来い、と言いたいところだが、一対複数の戦闘に関しては自身のないレーラ。そんな彼女に対して、部屋からは「入ってこい」と誘いの声が聞こえてきた。


「コレクタルス要塞防衛部隊隊長のこの私が相手になってやろう」


 どうやら、向こうは正々堂々としているようではある。だが、これは罠なのか。それとも――。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。行動を移してみよ。レーラは意を持って、自分の姿が見えないようにドアを開いた。一斉に銃撃が鳴ったりすることもなく、しんとしているだけ。それが逆に不気味に思えて気持ちが悪い。


「どうした? 早く入ってこないか。貴様は反乱軍の人間だろう?」


 これはもう入るしかなかった。レーラは銃口を構えたまま、入室した。その部屋は赤いじゅうたんが敷いてあり、奥には大きなデスクが。その席には濃い緑色の軍服を身に包み、記章や勲章をつけた女性が一人だけいた。彼女の黒色と紫色の鋭い両目がこちらを捕らえているようである。


「あなたが、ここの部隊隊長?」


「いかにも。そういう貴様が我が楽園ヘヴンの脅威となる者たちか。ド派手なお祭りを提供してくれてありがとう、とは言いたくないね」


「それはあなたの好きにしたらいいじゃない」


 ここでずっと話をする気になんてなれない。そう思うレーラはコレクタルス要塞防衛部隊隊長に一発銃砲をお見舞いした。だが、それぐらいの攻撃は読めていると言わんばかりに、部隊隊長はデスクの上に置いていた黒のペンを手に取って――弾いた。愕然とするしかないのも当たり前。ただのペンに見えるそれで秒速四百メートル以上の威力を出す弾丸を軽々しく弾いたのだから。いや、それをペンと見ていたのがいけなかったらしい。


「ふむ、それは我が楽園ヘヴンの代物。クレンシャス街拠点の物が盗まれたと聞いていたが……」


「そう言うあなたの持っているそれも同じでしょ?」


「ご名答っ!」


 にやり、と少しだけ嬉しそうな部隊隊長は手に持っていたペンを小型銃へと変えて、発砲した。レーラはそれを上手くかわす。その華麗なる回避術を見て舌なめずりをするのだった。


「ほほう、ただの子どもかと思ったが、弾道を読むとはすばらしい」


「ただの子どもだと見くびっちゃ困るわ」


「それは失敬。大した子ども戦士さんっ」


 部隊隊長は、今度は小型銃を短剣へと変化させて、レーラへと近付く。こちらへと近付かれても、引き金を引きにくい。そのため、間合いを取ろうとするのだが、どんどん距離を詰められる。これでもかというほど寄ってくる。それが鬱陶しいと思うレーラ。


 一気に近付いて、首を取る算段か。それにやられてたまるか。近付いてくるならば、近付けさなければいい。銃器からリーチの長い槍へと変形させる。刃を仕向けさえすれば――。


「これで私が逃げると思わないで欲しい」


 回避に関してはどうも部隊隊長の方が一枚上手だったようだ。急な展開すらも臨機応変に対応してくる。そのせいであっという間にレーラは逃げるに逃げられない状態――首に短剣の刃を突きつけられた。


「うぅっ……!」


「貴様のその目は、私は好きだぞ。危機的状況に追い詰められても、諦めようとはしないその精神」


――見ているだけでもぞくぞくするではないか。


「貴様とはここで出会いたくはなかったんだがな」


「別に私でなくとも、他の誰かがあなたの首を取る」


「強情な子よ。死に際もさぞかし勇敢な戦士として派手に散っていくんだろうよ」


 部隊隊長はそこまで言うと、突きつけていた短剣を下へと下ろした。その意図はわからなかったが、隙ができたのだ。これならば、殺せる。レーラは持っていた槍を強く握ると、逆刃にした刀を上へと振り上げる。これで彼女の首はもらった!


 はずだった。


「貴様は本当に私好みの戦士ではないか」


 攻撃は避けられ、後ろへと回り込まれてしまう。再び、短剣の刃が迫りくる。


「諦めたかと思わせといてのフェイント。そういう意地汚さの方が私は大好きだ。人間のもっとも醜いところが出て、最高と思わないか?」


「趣味が悪い」


「そうかな? 私はいい方だと思うがね。取り繕う人間こそ、滑稽としか思えないよ。そうじゃないか、必死過ぎて笑えるんだ。嘘つきだから、私はこちらを必死に命乞いでもしながら、涙や鼻水、小便を垂らす姿を見たい」


 それが人間だ、と言う。


「貴様のそのような無様な姿を見せてくれ。この私に。できないのであれば、私がしてやってもいいが?」


 黒色に光るその刃は徐々に首に当たろうとしていた。不気味な部隊隊長との対戦。正直言って、気味が悪いこの人物。人の醜さが最高と言うなんて。頭がどうかしている。


「××××××××××、×××××××××××××、××××××××××××」


 耳を塞ぎたくなるほどの不快な発言。だが、体が動けないため、大人しく聞いているしかないのだ。


「××××、×××××××××××××××××××××。×××××××。×××××××××××××××、×××××××××××××××。×××、××××××××××。××××××××××××××××××」


 金属の独特な冷たい感覚が首筋を駆け抜ける。全身鳥肌が立つようだった。


「だからこそ、楽園ヘヴンとはすばらしい存在なんだ」


「すばらしい? どこがっ!」


「まだ抗うか? 大人しく、楽園ヘヴン身を委ねればいいものを」


 当たり前だ。抗うからこそ、レジスタンスにいるというのに。誰が楽園ヘヴンに屈服するものか。


 レーラは自身をこの場で死ぬが本望だと思い込ませ、一つの賭けに出た。刀を後ろに向ける。首に刃が当たっているにもかかわらずだ。


 突然のことにびっくりしたのか、部隊隊長は思わずレーラの首に当てていた短剣を離してしまった。これにより、彼女は自由となる。


「なっ!? このっ!」


 レーラを傷付けるが早いか、自分が傷付くが早いか。どちらに転がり込んだとしでも、危険だと判断した部隊隊長は避けるしかなかったのだ。


 交渉決裂。レーラに向けて、短剣で殺そうと刃を突き立てようとするが、もう遅い。フォーム・ウェポンは盾を展開しているのだ。それに伴い、部屋にガキンッと金属音が響く。


――かかったな?


 これだけで終わりではない。フォーム・ウェポン同士がぶつかった瞬間、展開された盾からはいくつもの刃が飛び出してきた。それに避ける暇もなく、部隊隊長は呆気なく串刺しになってしまった。


 赤いじゅうたんは更に濃い赤い染を作っていく。そこで横たわる穴だらけの死体を見て、レーラは無情の顔でさっさと部屋を出てしまった。


「お生憎様」


 その言葉を残して。

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