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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、嘘をつくことができる。
52/108

◆52

 我が耳と目を疑った。確かにグーダンはイアンに言ったのだ。タツは危険だから、戦線離脱をさせた、と。確かに見たのだ。戦いから離れたはずのタツが自らの足で軍事施設へと乗り込んでいく姿を。


 これはかなり危険なのではないだろうか。聞いていた情報と目で捕らえた情報の相違に困惑しながらも、イアンはグーダンとの連絡を取ろうと耳元に触れるのだが――。


「あっ……!」


 そうだった。今回のミッションの舞台は要塞。レジスタンスの通信手段を断ち切るのは安易である。というよりも、これだけ騒ぎを立てれば、ジャミングをするのは当然の結果。それを見越して、こちらは通信機器を外したのである。


 自身のミッションは要塞の部隊隊長の首を取ること。指示は左の巣へ向かえ(西から目的地へ侵入しろ)。その命を背くわけにはいかない。


 何より、騒ぎを聞きつけて武装体制に入っているヘヴン・コマンダーたちが軍事施設から蟻のようにして一斉に出てきたではないか。そのせいで、タツを見失ってしまうし、自分は戦わなければならないのだ。いや、町の住人のふりをしていればいいのだろうか。


「あいつ、反乱軍だ!」


 それでやり過ごそうとしたのに。すぐに見つかってしまうとは、ここのヘヴン・コマンダーはどうも優秀らしい。こうなってしまえば、戦う以外に何をしろと? 逃げることは不可、仲間との連絡を取る手段もない。イアンは孤軍なのである。


 ヘヴン・コマンダーたちは皆飛び道具である銃器を手にしている。これらの銃弾雨に当たらず、相手を倒すには? 彼ら以上の武器を持っていなければならない。それならば、何があるだろうか。たくさんの火薬の殺気を一掃するには――。


「俺、何を考えているんだろう?」


 強くイメージを出し過ぎたらしい。頭を抱えるイアンを残して、フォーム・ウェポン・グーダンバージョンがただの素手(だが、金属ではある)でたくさんのヘヴン・コマンダーたちを蹴散らしているから。


「なんだ、このバケモノはっ!?」


 それはこちらが考えていることと同じである。なぜにこうも自分はグーダンをイメージしてしまうのか。確かに強そうだとは思ったことあるけれども。確かにトレーニング中の彼の筋肉ムキムキの体見てすごいと思ったことあるけれども。どうやら人というのは見たもののイメージが強ければ、強いほど現実に強い反映を出すようだ。


「……楽だし、いいかな?」


 この独りではどうしようもない局面のときだけだ。でなければ、グーダンに怒られるのが目に見えているから。


 殴りに殴り、銃弾すらも跳ね返すとんでもない人型フォーム・ウェポン。なんという利便性か。その代わりに、人の信頼に溝ができそうだが。


 金属のグーダンがほとんどのヘヴン・コマンダーを倒し、イアンはそろそろとフォーム・ウェポンをナイフへと変えた。ごめんなさい、グーダンさん。なんて心の中で謝罪を一応して軍事施設の西側にある入口へと侵入した。


 軍事施設、と言ってもここは軍事関係の備品の保管庫のようなものである。この場所と連携するようにつながっているのは何かの研究所だろうか。中へと入ってこそこそしていれば、誰かの姿も見る。その誰かが軍というには似つかわしくない白衣だったからである。研究員と言うが正しいだろう。


「白衣か」


 いいことを思いついた。それをさっそく実行しようと、その白衣を着た研究員のあとを足音立てることなく、着いていき――。


 どこか耳を塞ぎたくなる音が聞こえたかと思えば、研究員はその場に倒れてしまった。イアンは他の誰かに見つからないように、その人物を引きずりながら物陰へと隠れる。そして、白衣とカードキーを盗むのだった。


 これである程度自由は利くだろう。だが、この研究員は何の研究をしているのか。気にはなるものの、ミッションはまだ遂行できていない。ここでフォーム・ウェポンを扱うのは自分とレーラ、エルダにグーダンだけ。ただ、この施設内へと入り込んだタツがいるのも事実。彼がフォーム・ウェポンを所持しているかも不明。


「見つかるといいんだけど」


 白衣姿のイアンは先を急ぐ。そんな彼の姿を裏口から侵入したグーダンとエルダは見捕えていた。彼らは物陰に隠れてどこか怪訝そうにしている。


「グーダンさん、イアン君が白衣姿で行っちゃったけど?」


「あいつが計画に気付かなければいいんだが」


「こういうときが気付かれそうだけどね」


 それよりも、こうしているわけにはいかない。早いところ二つの『計画』のデータを探さなければならないのである。


「エルダ、イアンが白衣を着ているということは研究員がいる証拠だ。ここの研究施設はどこにあるか知っているか?」


「いいや、知らないなぁ。データはあると知っているんだけども」


「それは誰情報なんだ」


「ケイ・アーノルド・シルヴェスターって人」


 誰だ、それはと訊こうとするのだが、エルダが口を塞ぐ。駆け足で聞こえてくるはコンバットブーツの音。ヘヴン・コマンダーか。足音は三つほど。これぐらいならば――。


 グーダンはエルダの手を退かして、フォーム・ウェポンを強く握りしめて物陰から勢いよく出た。変形させる形は巨大なハンマー。鈍い音が壁を、床を鳴らす。そうしてできた潰れた人肉の塊。それを一々気にしていられない。先へ急ごう。イアンに『計画』を知られる前に。


 エルダに合図をかける。それに伴って、彼女は物陰から出てきた。急ぎ足でデータがある場所を探す。先ほどの会話を聞き返している暇なんてない。それよりも、こちらが最優先である。


「とにかく、しらみ潰しに探せっ。部隊隊長を倒そうが、倒さまいが問題はない。本部がこちらに駆けつけてくる時間までに、それを見つければ――!」


 片っ端から部屋の中を探していた二人であったが、とある部屋へと入り込んだとき、事件は起きた。入口は完全に開かなくなり、閉じ込められてしまったのだ。開かないドアを懸命にこじ開けようとするのだが、全く開けられない。


「くそっ、閉じ込められた!」


「ロックがかけられてるっ! は? 『60』?」


「どうしたんだ?」


 エルダは入口の横にある認証パネルのモニターに表示された数字に片眉を上げた。この数字は一体? 謎解きで開ければいいのだろうか、と頭を回転させるのだが――。


「おい、エルダ」


 グーダンの声に部屋の方を振り向く彼女は引きつった笑いを見せる。なぜって、その部屋の中央にはフォーム・ウェポンと同じような金属材質を身に着けたスクラップ風情の金属人形ロボットがいたのだから。


「こ、これって……」


「戦うしかあるめぇよ」


 こちらが先に敵意と殺意を向けずとも、生気のない目は自分たちの姿をしっかりと捕らえるのである。そう、この場で肉へと変えるために。回転刃をうるさく取り出す。ぎゅんぎゅんと互いの会話を阻止してくるのが、いやらしいと思った。


 エルダも戦わなくてはならないと、モニターの方を一瞥したとき、二度見する勢いで「え」と声を漏らす。その声音が戦いの火蓋を切るかのように、金属人形が動き出した。全く見ていないわけではない。かろうじて避け、それの眼前には堅いガードの扉。勢いよくぶつかっても双方壊れないとはとても頑丈に作られているらしい。


「エルダ、こいつを早いところスクラップにするぞ」


「言われなくても、しなきゃ何かやばいよ」


 そう言うと、パネルのモニターを指で差した。そこに表示されているのは『60』ではなく、『59』である。これは一体?


「グーダンさん、多分だけど、制限時間付きの何かだよ。それがこいつの強さが更に外れるか、それとも爆弾か」


「なっ!?」


 どちらにせよ、この局面を打破するには、眼前で音うるさくしているやつを倒さなければならないらしい。

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