◆42
イアンたちのレジスタンス御用達であるコンピュータシステムRe:WORLDの不具合の理由はすぐにわかった。コンピュータウィルスの感染だそうだ。まさか、この前のような情報データを見境なく喰らおうとするものなのかと思ったらば、どうも違うらしい。
「全く違う別のコンピュータウィルス?」
「うん、そう。この前のウィルスのときはこうして、私自身の体を動かすのがつらいなんて思ったことはなかった。だけれども、今回はまさにそう。正直言って、事の顛末を二人に話すことさえもつらいほどだ……」
確かにガンの顔色は悪かった。傍から見れば、普通に具合の悪そうな人物として見ることができるぐらい。
「おそらく、そのコンピュータウィルスの名前は『バグ・ワープ』だ。それは遠隔操作でシステムの部屋の書き変えをしてしまうとか……」
「書き変えだって? じゃあ、俺たちが今いるこの場所は前にも来たことのある場所だったりする?」
「そうだ。ここはシステムの中枢的な場所でもある。たとえば、私がここのシステムのコアであるならば、この場所は防壁と言うべきだ。すべてスキャンやインストールされたデータはまずここへと来る仕組みになっているからね」
だからなのか。
「この部屋の書き変えを行ったということは防壁としての機能も低下している証拠にもなる」
「ああ、それだからガンの顔色が悪いのね」
「システムの顔でもあり、防衛システムとしても起動していたしね。私の活動能力も著しく低下してしまったようだ」
ガンは立つことがつらいのか、その場に座り出す。それほどまでにきつい思いをしているのだろう。イアンは彼の目線の高さになるように、腰を下ろした。
「今回のコンピュータウィルスも『親』というのを倒せば、問題ないのか?」
「と、思う。私の場合はその『親』らしきものに間接的な攻撃を受けているようなものだしね」
コンピュータウィルスの『親』探しとなると、時間がかかるのは必至だ。まずはこの感染においての不具合の根源自体が見当たらないのだから。以前のような虫の姿をした何かがかさかさとあちらこちらに動いているわけではないようだった。そして、何よりガンの言う『遠隔操作』。こちらも厄介だ。それはすなわち、現実世界の誰かがコンピュータウィルスを介してこちらに攻撃を仕掛けているというのだから。どこかの誰かもわからない状況の中、どのようにして探し出せばいいのか。どうやって感染の侵攻を止めたらばいいのか。これはガンが教えてくれた。
「書き変えのときのコードを読み取れば、何かわかるかもしれない」
「コード? コードってなんだ?」
「コードというのは情報データをユーザーが目視確認するために存在するプログラムの言葉って言ったらわかるかな? 見たことある? コンピュータの画面上に現れる長ったらしい文字数列を」
「なんとなくはわかる」
「そもそも情報データは最初からきっちりと明確にコードが組み合わされている。どこもおかしいと思われることもなくね。今のこの場所はどこかおかしいだろう? それはコードが書き変えられているから、おかしいんだ」
足場の不安定さが気になるのはそういうことなのか。
「二人の組み込まれたプログラムの中にもコードを読み取る物は存在するはず。まずはこの部屋のコードを読み取ってみて。わからなかったら、私に訊いてみて」
ガンはある程度の説明をすると、すぐにうつむき加減になってしまった。彼の言うこの部屋のコードの読み取りをしてみる以外何もできない二人は、以前に教えてもらったやり方で自身のプログラムの中身の確認をしてみた。
あった。確かにあった。それらしきプログラムを起動させて、おぼつかない様子ながらもレーラがコードの読み取りをやってみた。
「どう?」
「何か訳のわからない文字数列が出てきたよ」
訳のわからない文字数列とは。気になるイアンもコードの読み取りをしてみた。ここがコンピュータの世界だからだろうか。それとも、その文字数列が現実世界のコンピュータの画面でしか見られないからだろうか。頭の中にコードが入ってくる、くる!
Co.no5467811245000154/ID154614661/ww4q/111/Hall333/8756565652126547956594582516914752545145151551625552563246655454779884512106316457219105874579431645472896424542164647545464125156464577445655464764247547476479485451124645475748449151210244004546454546745454544667478587783786741548798225442767425745882764544275857867/758451/df69242545/54214458./70051/1624781672/i712571587174546/f464ss/275767978424314./fe1545/H4254675604/2/457/573142579/Ch:000/875465445866:4655752651000155679546:754623559566855.ac/Ch:999/452623/22529823/6227914249216/6457572764975728285615818105061242748497467634546743628673776799818151245286786728794847979481810973.0001642676757675797579782826219454679736743412510581067425782415901685258526745745274674814691026104157467452886742745742674674596742742672415901957492410267495285268510927524615017471451584265883469246154/9420006145484648/0000000/a5784925145a/4785455794/2239410694/47948/Ss1./656./888./15453466./545655/548629p/457455/Te4756546:8548526:1000001:1./579640/Re:WORLD.
だがしかし、意味不明に尽きる。これを理解できる者なんているのか。見てみたはいいものの、そこからどうするなんてわかりっこない。もし、ガンであるならば、このコードを見てみて、不自然なところを割り当てるはずだろうが――。
「イアン、これ意味わかる?」
「わからない、全く」
元々が普通の人間であるイアンとレーラにとっては読み取れた。それから何? 状態なのだ。これはもうガンの助けが必要だろう。彼女がうつむいている彼を見たとき「あ」とイアンが声を上げる。
「最後だけわかる。この『Re:WORLD』だけは。ここのシステムのことだよな」
「ああ、本当。もしかしたら、ゆっくり解いてみたらわかるのかな?」
「うーん、でもやっぱりガンに訊いたが早いかもな。ガン、つらそうだし、早く楽にしてあげたいし」
二人は申し訳なさそうに、うつむき加減のガンに読み取ったコードについて訊ねてみた。つらそうな表情を見せていたのだが、それでも気を張って自分たちにわかる言葉に置き換えてくれた。
「一番目の『Co.no5467811245000154』はコードナンバーネームのことだ。わかりやすく言えば、この部屋のコードの名前になるね。……ああ、わかったぞ。遠隔操作をしている個体の番号は『i712571587174546』だ。となると、この個体番号の固定システムは『HEAVEN:NetworK』か」
HEAVEN:NetworKと聞いて、二人はすぐにそれがどこのシステムであるか判別した。このシステムを運営としているあちらであるならば――楽園であるならば、敵存在であるレジスタンスにシステムサーバー攻撃してくるのも無理はないだろう。
しかしながら、それはありえるのだろうかとレーラは思う。聞いたことがある、このRe:WORLDシステムはグーダン率いるレジスタンス独自に開発したシステムであるのだから。要は、このシステムは何にも介さない独立した存在であること。いくら楽園のシステムだとしても、こちらの方にハッキングすることは可能なのか。
そのことをガンに訊いてみると、「その可能性は高い」という答えが返ってきた。
「いくら独自に開発したシステムであっても、そのシステムを存在させる媒介とするサーバーが必要になってくるんだ」
「それって、楽園のシステムと共有しないといけないってこと?」
「そう。二人はデータ・スクラップ・エリアに行ったことがあるよね? あの場所を通していかなるシステムが存在しているんだ。この前のコンピュータウィルスだって、そこを通じて感染したようなものだし」
「てことは、コンピュータウィルスも向こうのユーザーもこちらに来ることができるから、俺たちも行けるってことにもなるよな?」
何かを思案していたイアンは話に割り込むように、あごに手を当てた。彼の表情や目の色から察するに何かを企んでいる様子。
イアンの言うRe:WORLDシステムとHEAVEN:NetworKシステムの行き来はデータ・スクラップ・エリアを介して可能かどうか。その問いにガンは「ああ」と何やら察したようだ。
「イアン……」
「遠隔操作をしているなら、なおさらだ。俺たちも楽園のシステムサーバーへハッキングするぞ」




