◆38
イアンは大きくため息をついた。
「はあ、ついていないなぁ」
その呟きが聞こえたのだろう。タツが「お互い、だろ」と皮肉る。それもそうか、と納得してしまった。
「そうだな、お互い様なら『罪』というのも半分こだな」
「待て。俺はイアンとの罪を共有したくない。俺は俺だけの罪を持って、イアンはイアンの罪を個々で持つべきだ。それだから、別々。いいな?」
「お前、本当に十二歳かよ。今の発言絶対に子どもはしないだろ」
タツの断固反対発言にイアンは鼻白みながらも「っていうか」と話をつなげる。
「なんでだよ。一緒に共有しようぜ。いつか何かの役に立つかもよ」
「罪を共有して役に立つかよ。だから、言っているだろ。別々がいいって」
もっともなことをタツは言う。それでもイアンは食い下がろうとしない。むしろ、罪を共有するという案を支持しているようだ。仕舞いには「なんだよ」といじけ出す。
「そんなに俺と共有したがらないって……タツは俺のことが嫌いなのかよ」
「なんでそう極端なんだよ。なんでそういうところは女々しいんだよ」
面倒だなこいつ、と思っていることは口にしないにしても態度は見え見えのタツ。顔が明らかに関わりたくなさそうである。だが、その状況を飲み込もうとしないのか、イアンは「誰が女だよ」と的外れ的なことを言い出す。
「俺は男だぞ」
「ンなこと一言も言ってないって。俺はイアンが女々しいって言ったんだ。そこのところをはき違えないでくれる?」
「結果一緒だっての」
――どこがだよ。
「結果一緒だから、何度も言うけど俺は男です」
「知っているよ、誰もが。イアンが男だって。女には見えないっていうか、絶対女々しいっていう意味間違った解釈をしているだろ」
絶対そうである。誰もがそのことについて大きく頷くところなのだが、イアンは「いいや」ときっぱり言う。
「そこのところを小うるさく言っておかないとな。タツはまだ子どもだから問題がある」
「何の問題があるかは知らないけど、十二歳と同レベルの大人は嫌だぞ」
「安心しろ、俺は子どもじゃない。多分二十歳前後なはずだ」
「だから、知ってるって。誰もが。こんな図体のでかい子どもがいてたまるかよ。いや、レジスタンスにとっては嬉しい限りかもしれないけどさ」
「なんだと!? 何度も言うが――」
本当に面倒だな。相手をするのも疲れる。タツは「わかっている」と呆れていた。なぜにこうもイアンは普通のときもあれば、こうして面倒なときがあるのだろうか。
イアンは男だ、大人だと嫌々に言うタツに彼は「わかればよろしい」と上から目線。それが逆なでをしてしまったようだ。
「腹立つやつだな」
タツは唇を尖らせて、イアンを睨む。そんな表情を仕向けられたのが好ましいと思わなかったのか、「そんな顔をするなよ」と少しばかり反省をしている様子。
「言い過ぎたけど、悲しいじゃないか」
コロコロと表情が変わるイアンを見てタツは少しだけたじろいだ。ここまで喜怒哀楽の切り替えが激しい大人を見たことがなかったから。それだから「イアンってさ」とどこか困惑気味。
「感情の起伏が激しいよな?」
「えっ? それは皮肉っているの? それとも誉め言葉?」
「誉め言葉に思えるなら、頭のメンテナンスを勧める」
「それって誰に見てもらえばいいんだ?」
まさかの返しにタツは鼻水を出す勢いで吹き出してしまった。まさか、本気で見てもらうなんて考えていないよな?
「見てもらうのか?」
「うーん、うん」
イアンの肯定に苦笑いをするしかない。
「ていうか、メンテナンスだからそれのついでに俺の頭の記憶の部分も見てもらおうかなって。もしかしたら、何か思い出すかな?」
それに関してはわからない。だが、あながちありえないという話ではないかもしれない。可能性は低きにあらず。いつか、忘れてしまった記憶が思い出せるといいな。
イアンが自身の記憶がないことをタツは知っている。記憶がないという恐怖は知らないにしても、そのことを不憫に思っているからこそ「かもな」と小さく笑った。
「それはいいかもな」
「……だったら、なぜにこうなったのかその原因もついでのついでにタツも見てもらったらどうだ?」
イアンとタツの前方から、グーダンの声が聞こえてきた。彼の声に二人は肩を強張らせて、背筋を伸ばす。それでも、その背筋を伸ばすことも疲れてきた。もっとも言うならば、足の感覚がない。
そう、二人は現在レジスタンスの拠点内にある倉庫の中で正座をしているのである。ジンジンと痺れてきていた足はすでに感覚を失っているが、ちょっとでも足をずらすとギーンという痛覚が襲ってくる。
どうして二人はこうしているのか。それをグーダンは笑顔で怒りながら「なあ」と言ってくる。
「俺は二人にここの掃除を頼んだはずなんだけどな?」
「ええ、それはきちんと覚えていますとも」
少しでも足を動かせば、痺れ痛覚が襲ってくるイアンは表情を引きつらせながらもその通りと頷く。もちろんタツだって「はい」と消え入るような声音で答える。
「イアンと俺で掃除を……」
「してくれと頼んだ。それに二人はいい返事で答えてくれた。これに上司の俺はさぞや気持ちのいい思いだったんだろうな」
グーダンは倉庫の中を瞥見すると「二時間ほど前までな」とこめかみに青筋を立て始める。
そうだ、グーダンは二人に二時間ほど前に倉庫の掃除を依頼したのだ。それに彼らは素直に従い、掃除を始めたのだが――。
「だが、教えてくれ。普通に掃除をしているだけで――」
床は水浸し。ここ、倉庫には一応火薬もある。『火薬』と書かれた箱も水に塗れている。あまつさえ、きちんと仕舞われていた武器類は無残に散らかっているではないか。
「こうなるか?」
「えっと、リーダー。これには深い訳が……」
「ほうっ! 訳とはなんだ? まさかのヘヴン・コマンダーが襲撃してきたか? なんともおかしな話だな。この倉庫の窓辺には他の連中が用心のために見張りを立てているというのにっ」
「いや、ヘヴン・コマンダーは来ていないけど、イアンが武器を床に……」
「あぁ! 俺言ったよな? 罪は共有し合うべきだって! だったら、タツが火薬の入った箱に水をぶちまけるのがいけないんだろ!?」
「なんだとぉ!? それを言うなら、イアンがおふざけで武器を床に落とすのがいけないんだろ!? 俺、びっくりしてこぼしちゃったんだからな! リーダー、全責任はイアンにあります!」
「お前っ、人に全部の責任を擦りつける気か!? そもそも、タツが俺に変なお題を出してくるのが悪いんだろっ!」
責任転嫁をし合う自称大人だと言い張る二人。こんな醜い争いを見せられてたまったものじゃないグーダンは「止めろ!」と荒げた声を出す。
「結局はどっちもどっちだろっ!」
もっともな話。これにより、二人はこってり、きっちりとグーダンに絞め上げられるのだった。そんな彼らが正座から解放されたのは彼に事の事実が発覚して四時間後だったという。




