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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、ここは情報の宝庫のようである。
35/108

◆35

 あの八本足の大きな虫型コンピュータウィルスをどうすれば、退治できるのか。イアンはそのためにはここにある武器所蔵データでどうにかならないかとガンに提案を持ちかけた。


「データを基に武器を形成するのか……」


「できるかはわからないけど、俺たちのプログラムを再構築したガンならできるかなって思って。俺でもできる?」


 できることならば、ガンの力を借りずして自身で武器を作り上げたいと思っていた。やってもらうのは構わないが、負担がかかるならば、自分でもできるならば、やりたいのだ。


「できないことはないよ、うん。ここにあるのはレジスタンスの拠点内にある武器のデータだからね。精製用データが足りなければ、他のネットワークから情報データを取ってきて……は無理があるね。ここにある物だけで作らないと」


 作るならば、どういう物がいいか。思案するガンをよそにイアンは「あのさ」と懐からいくつかの情報データの欠片を取り出す。


「ちょっと情報の砂浜でこれ、使えないかなって持ってきたんだけど」


 その欠片の色は橙色の物だった。そして、ここにある情報の塊の色も――橙色。


「情報の仕分けをしていたとき、なんとなく情報は色分けされているなって気付いたんだ。で、これを……」


 ガンはそれらを受け取って、早速情報データの判定をした。それらは物見事に武器情報に関するデータだったのである。


「うん、使えそうだね! 武器の作り方は教えるよ」


 自分が使いやすい武器を選ぶ、という前に情報データの判別の仕方を習った。難しいかと思っていたのだが、そこまでないようで、すぐにイアンも使えるようになるのだった。


 武器を選び、自分のプログラムへとコピーして組み込む。更に必要であれば、武器の使い方などの情報データを書き変えたりして――イアンが作った武器が完成した。もちろん、ガンもである。


 二人の武器のお披露目は――。


「ドアの向こう側が少しばかり騒がしくなってきたぞ」


「多分、美味しそうな情報データのにおいにつられたんだろうね」


 それならば、話は早い。早速作り立ての武器のお試しができるではないか。それはガンもやりたそうにうずうずとしているようだった。


「私が合図を出そう。それに伴って、あいつらにご馳走を与えようじゃないか。それを食らえるかは知らないけど」


「わかった」


 二人はドアに向かって身構えた。ガンが合図のカウントダウンを上げる。


 三、二、一――。


 ド派手な破壊音が通路の奥にある部屋から聞こえてきた。破損するドア、壊れてしまったが原因か。ブレを見せながら、消えてしまった。そこから見えるのは――。


 二つの高記憶情報データを持つプログラムたち。彼らの登場を待ち侘びていましたと言わんばかりに、姿を見たコンピュータウィルスたちは集まり出す。


 ご馳走が出てきたぞ。それだけではない。壊れたドアの奥の方には二つのご飯よりは少しだけ劣るが、これまた美味しそうな情報データが見えているではないか。みなの者、今日は宴だ!


 一斉に襲いかかってくるコンピュータウィルスに対して――。


――誰がご馳走だ、こら。


 完封させるほどの武器を構築させて相手を叩きのめす創造武器シャットアウトと自身を周りに囲った刃のサークルを四方八方に飛ばす包囲攻撃用武器シージュ。イアンとガンは橙色に輝く自作の武器を振るってはコンピュータウィルスを次々に消滅させていった。


 最後の一匹を倒したところでイアンは「あ」と声を上げる。


「そう言えば、ドアを破壊してしまったけど……」


 そのままの放置は危険だろうな、とイアンが武器情報データがある部屋の方を見るのだが、破壊されたはずのドアは綺麗に修復されていた。これに驚きを隠せない彼は唖然とする。一方でガンは「当たり前さ」とほんの少しだけからかう。


「ここのシステムは私でもあるんだ。多少の壊れぐらいだったら、すぐに修復することは可能だよ。失ってしまったら元も子もないけれども」


「そうだったんだ」


 よかった。つい勢い余って自分たちで作った武器で破壊してしまったものだから。壊れたまま、移動するのはあまりにも危険だろうし。


 安心した二人はひとまずホールへとやって来る。


「さあ、こいつらの親玉を探しに行こうか。このウィルスは親が子のオリジナルだからね。倒せば、ここのシステムから消滅してくれるよ」


「なるほど。それで、その親はどこに? ここって結構広いよな?」


 コンピュータウィルスの親玉がどれなのかはわからない。それに加えて、あちらこちらに移動するのであれば、とても大変だろう。そして、何よりガンも情報が掴めないのか、残念そうな顔を見せる。


「そうだね。地道に探すしかない、かな」


 手掛かりは一切なし。見つけたとしても、それは運がよかったということである。


「けど、これを使おうかと思う」


 やってみる価値はあるというガンは情報データを取り出した。その色からして、金色に輝いているではないか。ここまでにおいて、きんきらと光り輝く姿をしたデータを見るのは初めてである。


「それって?」


 使うには誰もが渋りそうな代物。なんとなく、予想はつく。


「このシステムデータの中枢。つまり、私の心臓とも言えるデータ」


「そ、それは――!?」


 イアンの言葉を遮るようにして、これほどまでに見たことのない美味しそうな情報データのにおいにつられてコンピュータウィルスが集まり出してきた。どこからともなくわらわら、わさわさ、わっさりと。気持ちが悪いほどに周りはそれらで埋め尽くされる。


「……気持ち悪いな」


「でも、このシステム内にいるほとんどのウィルスが集まってきたよ」


「それでも、こいつらの食み攻撃は受けたらダメなんだよな?」


 これだけの量を無傷で相手をするのは骨が折れそうな話ではある。しかし、ここで根を上げたとしても、どうすることもない。戦えるのはここにいる二人だけなのだから。やるしかないのだ。この状況を打破するには。


 イアンは橙色の刃サークルを構えた。もちろん、ガンも金色の情報データを仕舞って。


 ざっと見るだけで百以上数えるのは足を投げ出すぐらい面倒そうな存在の多さ。自作の武器がどこまで通用するものだろうか。


 二人の右足は強く踏み込まれて――それが合図かのようにホール内は阿鼻叫喚と化する。ほぼ勢いだけでやらなければ、押し負けてしまう勢い。イアンは武器をコンピュータウィルスに四方八方ぶつけまくった。だが、一つのサークルに刃は三十個。これだけで足りるかと言えば、答えはノーである。


 武器が足りない。刃は急所をつけば、一撃で倒れるだろうが――いかんせんナイフサイズの刃だ。火力は小さい。それだからこそ――。


――もっと、刃が必要。


 第一に、この武器――シージュはイアンが持つプログラムの中に組み込まれた物である。それは彼の任意があれば、いつでもシージュに関する情報を書き変えることができる。第二に、コンピュータウィルスは気持ちが悪いほど多いし、倒すのに一苦労する。どこから現れたのか、本当謎。


 それだからこそ、シージュの武器情報を書き変えた。サークルは一つだけだったのが、二つ、三つと――増えていく。それらを同時に扱えるように情報の書き変えもしている。


 ぶつけるは四散する刃のサークル。それに当たるコンピュータウィルスはもの悔しそうに消滅していく。それらをよそにイアンはガンの方を横目で見た。彼は様々な武器へと変えながら戦っていた。それほどまでに苦戦はしていなくとも、小さな隙ぐらいはできるのも当然。


「ガンっ!」


 イアンは刃サークルの中から一つの刃をとある方向へと向かうことを指示する。刃は真っ直ぐとガンへと向かうかと思えば――彼に飛びかかろうとしていたコンピュータウィルスの頭に直撃した。


「ありがとうっ!」


 この危機的な状況を二人だけでも切り抜けられる。そこまで気持ちが高ぶっていた。


 しばらく時間が経った頃だろうか。完全なまでにコンピュータウィルスをほぼすべて消失することに成功した二人は大きく息を吐いた。


「粗方、片付いたか?」


「そうだね。これなら、あとは残党を見つけるぐらいだ」


 なんて一息をついていたのも束の間。まだまだ終わっていないぞ、と通常のよりも数倍の大きさのコンピュータウィルスが姿を見せた。その大きさはまさにあれらのトップに君臨する親玉と言える存在だろう。ここまでしての威圧感があるのは緊張が走るものである。


「来たぞ」


「ああ」


 二人は次の戦いに備えて構えるのだった。

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