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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、彼女は何かを知っている。
21/108

◆21

 どこか不穏な空気に騒がしいレジスタンスたち。どうしたのだろうか、とイアンたちはその元を辿った。彼らは何かを囲んでざわついているではないか。


「何?」


「さあ? 訊いてみる?」


 どうしても気になって仕方がないイアンたちは、腕を組んで顔をしかめているレジスタンスに声をかけた。


「どうしたんですか? 何か問題が?」


「そうだな、問題と言えば問題だろうなぁ」


 どうも、その『問題』とやらを口にするのを渋っているようである。それでも騒ぎの正体を知りたいがため、レーラは「教えてください」と詰め寄った。もちろん、何も知らないイアンとオクレズ、タツもである。


「ああ、ちょっと……」


 レジスタンスは顔を騒ぎのもとの方に向けた。大勢の彼らの隙間から見えたのは一人の女性のようである。見たところ、イアンより少し年上。オクレズと同い年ぐらいの人物だろうか。


 レジスタンスの人間関係のいざこざだろうか。なんてイアンが考えていると、グーダンとその女性がこちらの方にやって来た。


「オクレズ」


 オクレズにこちらに来いというジェスチャーを見せるグーダンはあまりいい顔をしていない。火がついていないタバコを強く噛んでいるようだ。


 何も状況が把握できていないオクレズは「はい?」と片眉を上げてグーダンの方へと近付いた。彼らは何やら耳打ちをしたり、どこか困惑した表情を見せていたのだが、ややって「わかりました」とオクレズが苦渋の決断をする。


「信憑性は低いようですが……」


 二人が何やら話し込んでいる間、イアンたちはじっと佇んでいる女性を一瞥しつつ「誰だ?」と話し込んでいた。


「レジスタンスの人とはどこか違うよな?」


「俺、あの人を拠点内で見たことがないぞ」


「私も。別の派閥の人かな?」


 今一度、女性の格好を見た。周りの荒野と同化するような黄土色のマントを羽織り、その下から覗かせるのは濃い緑色のズボン。黒色のコンバットブーツを履いていた。そこから漂わせる雰囲気はただ者ではないという感じがしている。


「それとも、ノーサイドの人なのかな?」


 そうタツが憶測を立てる。聞いたことのないキーワードにイアンは「ノーサイド?」と訊ねた。


「それって楽園ヘヴンの人たちと関連しているのか?」


「いいや。ノーサイドは楽園ヘヴンでもレジスタンスでもない、どっちつかずの人たちを差すんだよ。平たく言うと、イアンみたいな?」


「えっ、俺、レジスタンス側だけど」


「今はだろ。前は楽園ヘヴン側でもなかったんだろ? 知らないけど」


 なんて言われると、そうしか言いようがなかった。どちらの味方でもないノーサイドの人間だったのかもしれない可能性が浮上してきたのである。だが、その可能性を信じたとしても、すぐに記憶が戻るということはないため――あくまで『可能性』として保留をしておくことにした。


「というか、ノーサイド以外の人間だったら何だって話だよな。楽園ヘヴンのやつらが顔を出すわけないし」


 もしも、出てきたとしても、こちらに対して攻撃を仕掛けてくるだけだろう。だから――ありえない、ありえない、とタツが鼻で笑ったときだった。グーダンとオクレズが会話を終えてこちらへと近付いてきた。そして、「イアン」と声を掛ける。


「それにレーラ。二人ともオクレズとそこにいる女性と共に拠点へ戻ってくるように」


「へ?」


「戻ってくる条件として、迂回しながら指定する場所に向かうんだ。いいな?」


 唐突なミッションが舞い降りてきた。どうも奇襲作戦が終わったから、拠点に戻れるという穏便さはなくなってしまったようである。それもそこでこちらを見ている女性が原因か。ミッションはわかった。だが、見ず知らずの彼女と共に拠点へ向かえという話はどこか無茶ぶりな気がしてたまらない。結局、誰なのかわからないし。


「あの、グーダンさん……」


「詳しい話はオクレズに訊け」


 どうやらグーダンは詳細を語りたくないらしい。彼は四人以外のレジスタンスたちに帰還の準備をするように促すのだった。何がなんだかわからないイアンとレーラが戸惑いを隠せずにいると、オクレズが「俺たちはみんなを見送ってから行くぞ」と彼もタバコを咥えつつ指示を出す。


「今回のミッションは厄介案件だ。一応はトラックで帰るが、イアンとレーラは荷台でやつらの見張りをしていてくれ」


 途中、途中で休憩は挟むと言われたのだが、それでもまだ納得はいかなかった。女性に話を聞こうとしたのだが、オクレズがここで待機をするようにと言い、彼女とどこかへ行ってしまうのである。


 こればかりはどうすることもないとして、二人は木を背にして座り込んで、ただ時間が来るのを待つしかなかった。


 時間が来るまで小一時間は経った。そろそろ夜明けが来る頃である。その時間帯はグーダンとタツを含めたレジスタンスたちがすでに帰還をしているだろう。


 かなりの暇。互いに話題もなくなり、どこか気まずい雰囲気が漂い出した頃になってオクレズがその空気を破壊しにきた。


「二人とも、そろそろ行くぞ」


 長かった、とこの時間が待ち遠しかった。二人が立ち上がって、服についた泥や草を払っていると――。


「一応、二人に紹介だけはしておく。彼女はエルダだ。エルダ、男の方はイアン。女の子はレーラだ」


「初めまして、イアン君にレーラちゃん」


 ずっと黙っていたということもあってか、このエルダという女性は不愛想かと思ったのだが――口調からして明るそうなお姉さんというイメージがついた。しかし、その声音はどこか裏側があるようにも思えるのは気のせいだろうか。


「それで、これより詳しい話は……まずは乗れ。下手にここで話していたら、ヘヴン・コマンダーの残党が来る可能性があるからな」


 そう言うオクレズは心なしかエルダを睨んでいるように見えた。しかし、そう見えただけであって、これも気のせいということもあるのだ。あまり決めつけはよくないだろう。とにかくトラックに乗れと言われて、二人は荷台に乗った。エルダは助手席。もちろん、運転はオクレズである。彼が発進をさせて、少し経った頃――こう言うのだった。


「話の続きだ」


「ああ、はい」


「心して聞くように」


 なんとも念入りである。そこまで保険をかけて話す内容なのか。イアンとレーラが顔を見合わせて不審そうにしていると、オクレズが「あのな」とバックミラーで二人を見る。


「今回、エルダはうちのレジスタンスに入ることが決まった」


「なんとなく察しはしたけれども、エルダさんって、ノーサイドの人ですか?」


「いや、違う」


 否定的言葉に二人は目を丸くした。ありえないと言わんばかりに、車内の方を見る。助手席に座っているエルダは開けられた窓に肘を置いて頬杖をついていた。


「彼女は楽園ヘヴンの人間だ」


 走るトラックから風が生まれ、マントで隠れていた彼女の右手が露わになる。そこから覗かせるのは入れ墨の入った右手ではなく、機械じみた手であった。

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