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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、彼は俺のことを知っている。
18/108

◆18

 二人とも双子のように瓜二つだった。中性的な顔立ちに亜麻色の髪がよく似合っている。彼らはただのヘヴン・コマンダーというにはどこか言葉違いな気がする人物だった。


「ヘヴン・コマンダー!」


 違和感があっても、気にせず己の使命を全うしようとするイアンは銃器を構える。だが、二人は銃口を見せられても動じることはなかった。それどころか「惜しい」と笑っているではないか。


「僕たちは確かにヘヴン・コマンダーだ。でも、それを名乗るには物足りない。何がくると思う?」


「知るか」


 グーダンは予想がついた。それでもイアンは気にしようともしない。ある意味器の大きな人物か。いや、もしかしたら、二人のことに興味がないのかもしれない。冷めたやつめ。しかし、あちらも特に気にすることはなかった。一方的でどこか勝手さを見受けられる。


「答えはね、ヘヴン・コマンダー特殊部隊『エンジェルズ』でした」


「僕はラファエル。こっちがガブリエル。きみがそうして歓迎する気なら、こちらもたっぷりと歓迎をしなくちゃね。反乱軍ゲストならっ」


 そう言う二人は銀色の銃器を取り出した。


「歓迎するよ、イアン・アリスっ!」


 一発の弾に込められたものが迫りくる。まさに先手必勝。自分のことを知っているという素振りを見せて、相手を動揺させようとしていた。この動揺こそが考えを分散させてしまう。一つ以外のことばかり気にして戦闘にままならないだろう。だが、一人だけ何事にも動じようとしない人物がいた。そう、グーダンだ。彼は二人の言葉に惑わされることもなく、フォーム・ウェポンを盾に形を変えた。それが銃弾を弾く。


「あらら。そこのおじさんは、なんとも思わないの?」


「そうそう。自分の味方をこうしてエンジェルズが知っているんだ。普通は本人と一緒にびっくりするのにね」


「舐めるな、若造。こちらとらただ単に年を食っているわけじゃない」


 いわゆる年の功らしい。


「なるほどね。そのほうれい線はそれだけの経験をしたってわけか」


 グーダンを中年男性としてからかうのはガブリエルである。その煽りに耐性がないのか、彼はこめかみに青筋を立てていた。


――本当に舐めるな、ガキどもが。こういう風に他人をばかにするやつこそが将来苦悩に満ちた人生を歩くんだよ。


 感情的ぶち切れ寸前。フォーム・ウェポンを盾からハンマーへと変えて、二人に向かって振り回す。それを軽々しく避けられた。


「おぉ、怖い怖い。中高年はキレやすいし、これだから嫌だね」


「本当、本当」


「でも、その中年と一緒にいるやつの存在を忘れるな」


 二人が避けた先にはグーダンと同様にハンマーを手にしたイアンがいた。避けた先にそれがあるとは思わないだろ? いいや、予想はしていたさ。


 重々しい音が部屋にこだまする。勢いつけて振り回したハンマーをガブリエルが止めたのだ。一丁の銃器で。


 ガブリエルはイアンがしている銀色の指輪を一瞥した。


「はぁ? きみは奥さんに尻を敷かれるタイプなの?」


「勝手なことを言うな」


 受け止められることは予測済み。ならば、急激な変化についてくることができるか。


 イアンはハンマーの形状から軽そうな片手剣へと変えて銃身を弾いた。この反動で二人がすぐに動ける状態ではなくなり、その隙をついてラファエルが彼を狙うのだった。引き金に置かれた引く手――人差し指を止める時間稼ぎぐらいはできる。


 そうはさせまいとして、グーダンがハンマーを振り回した。これによって、ラファエルは防御態勢に入るしかない。せっかくのチャンスをこの中年オヤジは。


「じゃ、ま、だっ!」


 重たい武器の使用では俊敏に動けない。こちらの方が、機動性が高いと言わんばかりにラファエルはグーダンにハイキックを仕向けた。


――我が足を舐めるな。この足は楽園の女王(クィーン)様に忠誠を誓った証となる金属の足だぞ。ただの生身の人間がモロに受けて無事で済むとは思うな。当たった個所は絶対に複雑骨折は間違いない。おまけに頭を狙っているのだ。脳震盪と頭蓋骨陥没を起こして床でおネンネしていろっ。


 その場に痛々しい音が貫く。横目でそれを見ていたガブリエルも勝利確定の表情を見せていた。


「ああ、その長い脚じゃ、邪魔だろうよ」


 グーダンの声が聞こえてラファエルは背筋が凍る感覚がした。


――逃げろ。


 第六感がそう告げる。それをばかにはできない。ラファエルは慌てて間合いを取った。


「エンジェルズが金属の塊の体を持っていたとしても、人間は鍛えればその鋼の肉体すらもまともに受け止めることができるっ」


 全くの無傷であるグーダン。彼は「ただ」と苦笑いをする。


「エンジェルズとまともな戦いまでは至らないがな」


 だとしても、その発言はどこか問題が発生している、と三人は開いた口が塞がらなかった。そして、思うのだ。


 それはグーダンだけではないだろうか、と。


「――こ、のっ、酔っ払いっ!」


 別にグーダンは酔っ払いではないのだが、受け入れがたい事実を目の当たりにしたせいか、ラファエルは混乱しつつも、もう一度蹴りを入れてきた。骨が折れるような音が聞こえてくるのは間違いないのだが――。


 顔色一つも変えずにラファエルの攻撃を受け止めているのは何かの間違いだろうか。それも素手で。まだこの状況に慣れないイアンではあったが、この好機を逃すわけにはいかなかった。目の前には誰もが屈服するであろうエンジェルズが視線を泳がせながら、焦っているのである。


 ラファエルは完全に自分の存在を忘れている。これは卑怯ではない。勝つために、巡り巡ってきたチャンス。背後から――。


「僕がいることは忘れていないよね」


 後ろからラファエルを攻撃しようとしていたイアンにガブリエルが立ち塞がった。睨み合う双方はどのような戦いになるのだろうか。


 これだけは言える。決してイアンはグーダンのように狂人――失敬。強靭的な肉体で戦わない、と。というか、戦えない。どの武器を使うか。おそらくは先ほどの奇想天外な状況に弱っていたから――意表をつくようなやり方で戦えばいいのだろうか。そうとなれば、どれが一番適した武器なのだろう。


 剣や槍はありきたり。銃も弾道に気付かれては意味がない。盾は? ああ、防御以外の使い道が思いつかない。弓矢は? そもそもが使用したことがないから、当たる確率は低い。ハンマー系も隙が大きい。


「何度もお前たちに拠点を潰されるのは面倒なんだよ」


 だから、ここで死ね。ガブリエルはあたふたとしているラファエルから銃を奪うと、双銃として扱うわけでもなく、それらを合体させて機関銃へと変貌させた。彼らが持っている武器もフォーム・ウェポンなのだろうか。


 なんて考える時間はないんだよ。この現状での選択肢は二つ。避けるか、防御。だとしても、今のイアンにとってできることはどちらかと言うならば、あまり動かない防御が好ましいと思う。それは彼自身もよく理解していた。それだからこそ、混乱する彼がした行動とは――。


 弾を弾く金属音が喚く。連射撃をしていたガブリエルはイアンがやった行動を見て引き金を引いたまま茫然としていた。いや、何もそういう風に唖然としているのはこの場にいる全員である。いいや、それには少し語弊があった。グーダンは、多少は驚いているが、すぐに平常心を取り戻している。逆にそれを行ったのはイアン自身だというのに、彼が一番驚愕していた。


 イアンが起こした行動とは――フォーム・ウェポンを変形させたこと。その変えた形は――まさかのグーダンである。すなわち、彼はグーダンの形に変形させて、それで防御しているのである。


「な、なんだ!? 僕たちをばかにしているのかっ!?」


「違うっ! そういうわけじゃない!」


 もちろん、わざとでもない。これは事故。そう事故である。必死に弁解をするイアンであったのだが――どうもラファエルにとってはグーダンが生身で自身の攻撃を受け止めたことがトラウマなのか「もう嫌だっ!」と嘆く。


「こいつらが人間に見えないっ!」


「ラファエル!?」


 戦意喪失か。ラファエルはその場を逃げ出す。慌ててガブリエルも追いかけるのだった。この戦いの場において残ったのはイアンとグーダン。奇妙な空気がその場を流れるのをよそに「あの」とイアンが申し訳なさそうにする。


「なんか、すいませんでした」


 これは誰が悪いのだろうか。

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