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世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
記憶はないが、彼は俺のことを知っている。
15/108

◆15

「こんなに大量……二人ともどうやって盗ったんだ?」


 戦利品であるお菓子四箱を見て、オクレズは驚いた表情をしていた。どうも、いつもは一人で一箱がやっとらしい。


「簡単です。レーラの提案、従業員に扮する」


 にやっ、と不敵に笑みを浮かべるイアンはついでに盗んだとされる従業員の工場用制服を見せびらかした。これを見て、オクレズは「なるほどな」と納得する。


「これなら堂々と工場内に入ることもできるしな」


「そこまでの度胸は俺たちにはなかったんですけれどもね」


「いや、それでも十分だ。これならゲジェドさんたちにもっと有益な情報を聞き出せるかもしれん」


 そう言うオクレズは二人とお菓子四箱を荷台に乗せて、自分たちが寝泊まりしている拠点とは別方向へとトラックを走らせた。これからそのゲジェドという別派閥のレジスタンスの拠点へと向かうらしい。


「そう言えば、そのゲジェドさんってどんな人なんだ?」


 自分が見ているレジスタンスはグーダンたちがすべてと言っても過言ではない。今回の別の派閥があると聞いて気になって仕方がなかった。


「えっとね。私もそう何度も会ったことがないからよくわからないかな。ねえ、オクレズさんは知っているでしょ?」


「ああ、知っているぞ。見た感じはお菓子大好きおじさんだな」


「へえ、優しそうな人なんですね」


 なんとなく想像はつく。そのレジスタンスの子どもたちにお菓子を分け与える人なのだ。きっと、グーダンよりも優しい人物なのかもしれない。


 イアンがゲジェドの物柔らかな様子に予想を立てていると「そうじゃない」そうオクレズの言葉のハンマーが打ち砕いた。


「確かに、自分たちのところに関しては優しいおじさんでまかり通るかもしれないだろうが……別派閥となると、取引にかなりうるさいおっさんだ。あの半分以下となったお菓子では話すらも聞いてもらえないからな。絶対」


「だから、いつもオクレズさんが取りに行っていたんですね」


「そうだな。だが、今回の二人の作戦は多用できないが、使えるだろう。また頼んでもいいか?」


「いいですよ」


 頼られることは嫌ではない。そう感じるイアンはどこか嬉しそうである。そのわずかに緩んだ頬は一つの疑問によって掻き消された。彼は腕を組んで「あれ?」と不思議そうな表情をする。


「別派閥だと取引にうるさいって……どうしてレジスタンスは対立みたいなことをしているんですか?」


 考えてみれば、である。レジスタンスというのは楽園ヘヴンに対立をする反乱軍である。なぜに彼らは派閥を作るのか。なんだかややこしいし、力量が分散されてもったいないな。なんて思っていると、オクレズが「それはだな」と教えてくれた。


「思想の違いだな。うちはとにかく楽園ヘヴンに対する復讐。向こうは楽園ヘヴンの乗っ取り。他にも指導権の奪取なんて考えもいるから様々だ」


「ああ、だから」


「向こう曰く、楽園の女王(クィーン)を倒すだけでは、平和にならないと言っているからな。もっともな話だと俺は思うよ。復讐だけではどうしようもない、そこから自分たちが優位に立っているんだって押さえつけないと、意味がないんだって」


「…………」


 どうもオクレズの発言がレーラに突き刺さったようだ。彼女は膝を抱えて、一点を見つめている様子。


「オクレズさんはどうしてこちらに?」


 これまでの話を聞いている限りだと、オクレズがこのグーダンが率いるレジスタンスにいても仕方がないのでは、と思った。どう考えてもそうだ。ゲジェドの思想に納得しているのだから。


 イアンのその質問にオクレズは淡々と返した。


「リーダーに恩があるから」


「恩ですか?」


「そうだ。俺は正直な話、レジスタンスの人たちのどの派閥にある思想にはすべて理解して、納得した上でリーダーを慕っている。それはもちろん、俺だけじゃない。リーダーもすべての意見に耳を傾けなければならない。それが先導者だから」


 それだけ言うと「しばらくは周りを警戒していてくれ」と荷台にいる二人に指示を出してきた。曰く、近くにヘヴン・コマンダーたちが見回っているという情報があるからだそうだ。


 それを機に三人の会話はなくなってしまった。オクレズには色々と訊きたいことがあるのだが、まだ時間はあるとして保留にしておくことにした。


 それから警戒すべき道のりを走り続けて三時間。ゲジェドと取引する拠点ダミーへと着いた。荷台からは二箱のお菓子を取る。もう二箱は盗まれないように、車内へと隠してきた。


「一応はイアンもあの人たちと顔を合わせた方がよさそうだな」


 オクレズに着いてこいと言われ、二人はあとを着いていく。この拠点の雰囲気はどこかピリピリとしていた。それもそのはず、半分敵に近いレジスタンスの自分たちと取引をするのだから。


 見張りのレジスタンスの者と少しだけ話をして、奥へと案内してもらった部屋に噂のゲジェドがいた。見た目の印象からして、優しそうな顔をしている。だが、その表情の下はどこか厳しそうな一面を持っていそうで、一言でも間違えれば怒り顔がお見えになるだろう。


「珍しいな、オクレズ。きみが他の人たちを連れてくるなんて」


「どうも。今日は情報交換のついでに新入りの顔を見せておこうと思いましてね」


「そっちの女の子は見たことがあるから、男の方か。ふうん? きみは結婚しているの?」


 すぐに気付かれたイアンの左薬指にある婚約指輪。彼は自分が記憶喪失だということは黙っておいた方がいいだろうという自己判断のもと、「そうです」と嘘をついておくことにした。その発言にレーラとオクレズが小さく反応を見せてくるが、特別何か言ってくることはなかった。


「初めまして、イアンといいます」


 フルネームも伏せておいた。聞けば、グーダンたちは情報収集において、ゲジェドたちを頼っているとのこと。もし、彼らが楽園ヘヴンに関しての情報を得ていたらば? 自分の正体をよく知らない己が知っている情報を持っていたら? 故に最低限の情報しか与えないと決めた。


「イアン。聞いたことがないけど、何? その婚約者が楽園ヘヴンの連中に殺されたの?」


「それに関しては伏せさせておいてください」


「ふうん? 相手の名前は?」


「それに関しても伏せさせておいてください」


 なんだか、色々と訊いてくるな、とイアンは眉をしかめた。彼の言い分としては、自分の身分上の話をしたくないのである。それだからこそ、ノーコメント。一方でゲジェドは見知らぬ青年の登場にでも焦っているのだろうか。それとも困惑か。それだからこそ、自分の情報が欲しいに違いない。だが、こちらもよく知らない相手にべらべらと情報は話せそうにない。そのため、イアンは「そんなことよりも」と自身のことを「そんなこと」とぞんざいに扱おうとする。ゲジェドに自分の情報はくだらないですよ、と誤魔化したいから。現にこれ以上揺さぶっても彼の情報が出てこないとわかったのか「そう」とあっさり引き下がってはくれた様子。それでも、どこかあやしんでいる様子はあるが。


「いいか、別に。……で、オクレズ。きみが持っているそれが今回の報酬?」


 ゲジェドはお菓子の箱を瞥見する。その視線にオクレズは「そうです」とローテーブルの上にそれを置いた。木の箱の底とテーブルの表面が重々しくぶつかる。それだけでも十分な量だと言えよう。


「今回、ブレクレス商業街についての警備配置図やルートなどの詳細を知りたくて」


「なるほどね」


 箱の中身を確認しながら「十分だ」と満足げである。


「これなら、子どもたちも私も満足だ。いいよ、ブレクレス商業街ね」


 ゲジェドは近くにいたレジスタンスの者に商業街の見取り図を持ってこさせると、ヘヴン・コマンダーたちの配置や侵入経路などを事細かに教えてくれた。


「ここは正面突破か裏道を利用して行くしかない。ルートは二つしかないみたいだし。けれども、その裏道はやつらに見つかれば速攻で挟み撃ちになるだろうね。裏道を利用するなら、少人数が適している」


「やつらは基本的に正面道に配置されているんですか?」


「そうそう。裏道は入口にしかいないから」


「下水道とかは?」


「あー、あそこは止めておいた方がいい。何かの抜け道かは知らないけれども、エンジェルズがいたって話もあるから」


 下水道にエンジェルズがいる。その話を聞いて、イアンは小さく反応を見せた。改造されたヘヴン・コマンダー。苦戦をしたウリエルとの戦い。今度はフォーム・ウェポンを持っているから多少は問題ないだろう。退避のときに時間稼ぎができれば。


「調査隊曰く、通信機器類の親機はこの通りを真っ直ぐ行った先にある商業施設の地下だね。おそらく……だけれども、本部に連絡を入れて三時間ぐらいで応援が来るんじゃないかな?」


「あまり、長居はできませんね」


「そう、地形的にかなり厳しい拠点だと思う。商業施設は高いところしか窓はないし、出入口も正面ぐらいしかない。入荷口に至ってはそこに警備もあるからね。それにこの通り自体もアーケード街だ。かなり封鎖的な場所だね」


「情報ありがとうございました」


 警備隊の配置図をコピーしてオクレズは二人に「行くぞ」と促す。そうなのだが、ゲジェドが「もう一つ情報がある」と足を止める。その言葉に珍しいな、と思った。いつもならば「もう一つ」なんて情報はもらえないからだ。だから、彼はゲジェドの言葉がないとわかると、帰路に着こうとしていたのである。この「もう一つの情報」とやらはもう一箱分のものなのだろうか。


「今日の定期連絡情報によれば、少しあやしい一人の男の子がブレクレス商業街にいるところを見たらしい。右手には手袋をしていたから、もしかしたらレジスタンスの誰かっていう可能性があるかもね」


「そうですか」


 三人はその情報を聞いて、ゲジェドの拠点を後にした。一人の男の子が今回奇襲作戦を行う拠点にいる。そう聞いて、何か嫌な予感がしたのだが――グーダンからの連絡が入ってきて、より一層雲行きをあやしませることになる。


「どうしましたか?」


《タツの姿が見当たらないんだが、知らないか?》


「部屋にいないですか?」


《いや、いなかった。それに倉庫に置いていた予備のフォーム・ウェポンがなくなっているんだ》


 それを聞いた三人はお互いに顔を見合わせた。そうして、嫌な予感は的中するのだから。

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